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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
帝国に逃げ込もう編
44/85

半裸と王

 私のハンドルネームってリアルの名前をもじった物なのですが、「これって知り合いなら特定されるんじゃね?」と気付いたので「蛍」に変更します。

「我が、息子よ!」


「ぼけてんのかこのオッサン」


 俺を抱き上げて喜ぶ半裸の王様に、俺は思わず汚い言葉で返した。


「むう。相も変わらず口が悪いな、確かに寝起きだから寝ぼけているかもだが」


 こんな指導者で、この国って大丈夫なのだろうか。


「だが父は嬉しいぞ!」


「俺は男に頬ずりされて最悪な気分です。とても不快です」


 いらいらしてきた。こっちは気持ちに余裕がないってのに。

 興奮冷めやまぬ、という様子の帝国王。その背後から小さな影が現れる。


「人の父を痴呆(ボケ)呼ばわりしないでほしいの」


「げ、アイドル姫」


 共和国の首都、大陸横断レース開会式で(物理的に)接触したリデア姫であった。

 ウェーブした金砂の髪、くりくりとした目。

 間近で見ればまさしく美姫。しかし、その視線は言葉と裏腹に俺を鋭く睨んでいる。

 そんな目を向けられる心当たりは一つしかない。


(触っちゃいけない部分を触ったこと、根に持っている……)


 根に持つもなにも俺が悪いのだが、なんにせよ美少女に睨まれるのはいい気がしない。


「豪気にもここまで乗り込んできたか、イレギュラー」


「……それは、俺のことを言っているのか?」


 そんな変な肩書きは持っていないのだが。


「しらばっくれるな、お前がわしの弟ではないことなど判っておる。なぜソフィーに近付いた?」


「なんのこった。俺がリデア姫の弟?」


「これこれ兄弟喧嘩するな、とにかく場所を移そうか」


 服装はこの面子で一番珍妙な王が、自身の娘をまともな内容で嗜めて立ち話を切り上げるよう促した。






 応接間に通された俺が真っ先に行ったことは、自分が帝国の王、ハダカーノ・オサマ・ハーティリーとは縁もゆかりもない他人であると宣言することであった。


「ふぅむ、本当に?」


 ジトッと疑う視線のハダカーノ。


「本当です。つーか俺のことは置いといて、ソフィーに関する話を聞いて下さい」


「確かに性格は似ても似つかんしな……あいわかった、お前達の用件を話すがいい」


 俺が語ったのはこれまでのこと、そしてこれから保護を頼みたいことである。

 具体的には一年前に異世界から来たこと。

 ゼェーレストで生活し、なぜかソフィーの婚約者にされたこと。

 そしてレース以降のこと……ガイルの裏切りも。

 異世界に関することを権力者に話すのは躊躇われたが、ガイルが頼ると判断した相手である。まずは信用しないと始まらない。

 服を着た陛下は静かに俺の話を聞き、そして唸った。


「まさか紅翼(せきよく)が……あの者は帝国でも英雄とされた人物だというのに」


「あの、質問してもいいですか?」


「…………。」


 無言。


「あの?」


「いや、本当に君は息子とは別人なのだと思ってね……うむ、なにかね?」


「ソフィーって、結局何者なんでしょうか?」


 今まで断片的な情報は耳に届いていたが、はっきりとした内容は誰も話さなかった。

 ソフィアージュ・フィアット・マリンドルフ。その名はなにを示しているのか、いい加減知っておきたい。


「紅翼が現在の共和国……いや、共和国は崩壊し今は『統一国家』を名乗っているのだったな……かつて王国と呼ばれていた国の王子であることは?」


「は? ガイルが、王子?」


 初耳過ぎる。


「キメェ」


ノブリスオブリージュ(高貴なる者の義務)といってな、かの王国には王族が軍人となる慣習があった。ガイル・フィアット・ドレッドノートはかつての大戦にて、天士としての才に目覚めたのだ」


「それがどうして、帝国のお姫様の騎士に?」


「この国、帝国は一度ラスプーチンなる僧侶に主権を奪われた。その際に王族は皆殺しにされ、唯一生き残ったのがアナスタシアなのだ」


 それは、まるで最近どこかで聞いたような話だった。


「アナスタシアはツヴェー渓谷に身を隠し、一職人として平民と変わらぬ生活を送っていた。当時ツヴェー渓谷は帝国の最前線基地であり、難攻不落の自然の要塞であった。王国が銀翼の投入を決定するのは自然な流れであろう」


 ああ、ちょっと覚えている。

 昔ツヴェーでキョウコとデートした時、紅翼が単機でツヴェーを陥落させたという逸話を聞いたっけ。


「そこで彼らは出会い……恋に落ちたのだ。ポッ」


「続けて下さい」


「あ、はい……そこから先は本を読むなり演劇を見るなりすればいい。二人は戦争を終わらせ、人知れず姿を消した。そして、辺境の村に住み着いた後に一人娘を儲けたのだ」


 それがソフィー、か。


「あれ、王族が皆殺しにされたんなら、貴方達は?」


 王と姫を交互に指さす。


「我々は遠い分家、一貴族だった家系だ。適任者がいなかった為、多少のごたごたの後に王となった。表立った反発はないが、色々と危うい立場なのだよ」


 そう言い、ソフィーを見やる。


「国家運営が近代化してきたとはいえ、何百年も続いた王の血筋の力は馬鹿には出来ない。尊い血を持つということは、否が応でも相応の力を持つということだ」


「……もっと簡潔に頼む」


 やれやれと首を竦め、リデア姫は長々と告げた。


「旧王国王政戴冠順位第一位にして現帝国王朝王位継承権第一位―――つまり、ソフィーは世界の頂点に立つお姫様ということじゃ」








 目眩を起こして俺が椅子から転げ落ちたことをきっかけに、話はお開きとなった。

 俺がリデア姫の弟だかなんだかの話は明日に繰り越しらしい。俺達が両者共に話を聞ける状況ではなくなったことから、陛下が気遣ってくれたのだ。

 色々整理したかったのでありがたい。これ以上混乱したくない。


「お姫様、ね」


 通された客室のベッドの上で、天井の模様をぼんやりと視線でなぞる。

 やんごとない身分であることなど察していた。だが、世界最高位とは。

 だが紅蓮がソフィーを手に入れようとしたのにも納得した。この世全てに睨みを利かせられる人物などそういない。手中に収めれば大きな力となるだろう。

 俺が考える以上に、ソフィーの存在は大きな影響力を孕んでいるようだ。

 そのソフィーは別室に案内されている。俺のような得体の知れない奴とは一緒にいさせられないか。

 一人で過ごすなんて久しぶりだった。なにかと、ソフィーから離れないようにしていたから。

 彼女の扱いはこの国でも微妙なはずだ。あり得ないが、ソフィーが野心を抱き貴族達をはやし立てれば内乱となりえる、そんな立場なのだろうから。

 ずっとこの城に逃げ込むことだけを考えていた。その後のことなんて、考えていなかった。

 ソフィーはここで保護してもらった方がいいかもしれない。俺としても、肩の荷が―――


「―――俺、なんつった今……」


 俺は、ソフィーを……

 がちゃりと扉が開いた。不意打ちにベッドの上で飛び跳ねる。


「やっと見つけましたよ、レーカさん」


「へ? キョウコ? なんでここに?」


 濡れた黒髪、漆黒の瞳。

 耳の尖った美女、ハイエルフのキョウコがメイド姿で控えていた。


「置いて行かれるとは思いませんでした。お久しぶりです、お元気ですか?」


「なんでメイド服なんだ」


「一国の城に潜り込むのです、変装くらいは当然かと」


 変装しただけで潜り込めるのか、ここの警備は?

 潜り込むといえば、紅蓮の構成員が世界各地にいると聞いたが……本当にこの城は安全なのだろうか?


「無事でなによりだ」


 そう口にしつつも、俺は別の言葉を内心発していた。

 出てけ、と。

 一人になりたかった。いい加減、強い自分を演じるのは疲れていた。

 けれど、キョウコは歩み寄りベッドに腰を下ろす。


「元気がありませんね」


「そうか? 疲れているからな、そのせいだろ」


「そうですか。ならば積もる話はあとにしましょう。私になにかしてほしいことはありますか? 貴方の頼みなら大抵聞きますが」


 なにかしてほしいこと、か。

 キョウコの姿を上から下まで観察する。

 起伏に乏しいが、スレンダーの範疇で女性らしさをまったく損なってはいない。

 美しい。そう感じた時には、俺は彼女を押し倒していた。


「キョウコ」


「はい、あの、なんでしょうこれは?」


「俺に惚れているんだろ、ヤらせろてくれ」


 身体強化魔法を使えばキョウコは俺には適わない。馬乗りとなり、服を手荒く掴む。

 左右に開き、ボタンを千切って胸をはだけさせる。


「いいな」


「貴方が後悔しないなら、どうぞ」


 白くきめ細やかな肌、シンプルな下着。

 思わず息を飲み、欲望のままに彼女の柔肌を―――

 ポロポロと、涙滴がキョウコの肌に落ちた。


「なにやってんだ……俺」


 涙が溢れる。


「ごめん―――なにを、俺はなんてことを」


 大切な家族を傷付けてしまった。馬鹿だ、とんだ最低野郎だ。


「甘え下手ですね、本当に」


 頭を抱かれ、胸元に押し付けられた。


「ちょ、キョウコ?」


 すべすべした肌が目の前にある。頬に柔らかいものが触れている。

 理性が振り切れそうだ。誰か助けて。

 手をさまよい伸ばすと、キョウコの手と絡んだ。

 ぎゅっ、と指を合わせて握られる。


「涙は悲しみを他者に訴える為の声なき声ですよ。私は、貴方の悲しみを受け止めたい」


「……みっともない、って言うなよ」


「言いません」


 彼女の体に腕を回す。

 性欲ではなく、温もりを求めて。


「俺、ずっと考えてた」


 この世界に来た頃は、胸躍る冒険や事件を求めていた。

 だからゼェーレストに住まうのも一時的なものとしていたし、いつか旅に出ようと漠然と考えていた。

 けれど、ここは現実だ。

 地球と変わらない。人々は日々の暮らしを守る為に労働し、時に愚痴ったり逃げたりしながら生活する。

 シナリオなんてなく、未来はいつも不確か。

 ハッピーエンドなんて誰も保証してくれない、そんな現実だった。

 村で暮らすうちに、それもいいかと思っていた。

 友人と家族に囲まれ、小さな世界の中で笑っていられればいい。

 たまには冒険したくなるが、旅行くらいならいつでも出来る。

 だが、そんな考えすら幻想でしかなかった。

 この世界は、残酷なまでに現実なのだ。

 不条理に家族を奪われ、居場所を奪われ。

 唯一の頼りであったガイルすら離れていき、俺達は全てを失った。

 だから縋った。俺はソフィーに、ソフィーは俺に。


「戻りたい、あの頃に戻りたいよぉ……」


 顔をぐしゃぐしゃにして、俺は泣きじゃくっていた。

 一度吐露した心は止まらない。吐き出しても吐き出しても、思いは尽きなかった。

 ひと月前には当然だった、平穏な生活に戻りたい。

 それが、俺の願いだったのだ。






 ひときしり泣いたら、なんかすっきりした。

 ぽけっとベッドに座っていると、絹擦れ音が耳に届く。

 キョウコがはだけたメイド服を元に戻していた。


「もう行くのか?」


「いてほしいなら、一緒にいますよ」


「いや、いい」


「なら仕方がない。結婚しましょう」


「しない」


 人が弱ってる時にドサクサで押し通そうとしたぞこの人。


「ついでにソフィーの様子を見ておいてくれないか」


「なぜですか?」


「なぜ、って」


「見に行くのは構いませんが、貴方が行けばいいのでは?」


 そりゃ、ソフィーとキョウコは特別仲がいい訳でもないけれど、顔見知りではある。

 頼れる親しい大人が話を聞くだけでも楽になると思うのだ。ガイルは妻を亡くし余裕がなかったし、キョウコはつかず離れずいい案配だろう。

 というか、今俺が実感した。愚痴ると色々楽になる。

 そしてなぜ俺が行かないかといえば。


「俺じゃあ、あの子にかける言葉がない」


 俺とソフィーは近過ぎる。なんと言えばいいのか、見当がつかないのだ。


「そうですか。疲れたんですね、愚図る子供の面倒をみるのが」


 ―――ッ!

 ……さすが切り込み隊長、遠慮なくぶったぎりやがった。


「非常時に心を殺して次の行動を起こせる者が生き残れるのです。貴方は動きを止めず、彼女は絶望し考えるのをやめた。正直、ソフィーはそこまでの人間だったのです。気にすることはありません」


 あまりに辛辣な物言いに、思わず反論する。


「両親がいなくなったんだ、ショックを受けるのは当然だ」


「それって、そこまで珍しいことですか?」


「なっ」


「孤児など世の中にごまんといます。そこまで貴方が背負う必要はない、彼女にはこの城という素晴らしい逃げ場所がある。彼女は篭の鳥としてここで暮らしてもらいましょう」


「ソフィーは……そこまで弱くない」


「ならば試してみますか?」


 キョウコは提案する。


「彼女が自力で立ち直れるかどうか、観察してみましょう。勿論、貴方が誘導したりするのはなしです。あくまで彼女自身の意志で立ち上がらねば私は認めません」


「……悪趣味だ」


「酷なようですが、それが無理ならただの小娘として生きるのが賢明かと。飛行機(ソードシップ)の操縦技能が銀翼クラスであっても、戦場で生きていける器ではありません」


「相手は子供だぞ」


「子供を食い物にしてきたのは、いつだって大人です」


 それは、残酷な歴史であった。

 倫理や道徳は子を守れと唱えるも、餓えに直面した時多くの大人達は力無き子供を生け贄に捧げてきたのだ。

 人買いに子を売り、子を殺し肉を喰らい、子を兵士として訓練し。

 全て、地球でも「よくあること」である。


「年齢を言い訳にするのは結構ですが、世界はそんな言葉に耳を貸したりしませんよ」


 結局のところ、キョウコだってキョウコなりにソフィーを心配しているのだ。


「優しくすることだけが優しさではありません」


「―――いいだろう。ソフィーは放置する、俺は俺のやるべきことをやるさ」


 そう決意したものの、この晩に早速ソフィーと接することとなる。






  夜の帳が下り、人々が寝静まる時間。

 城内部では常に誰かしらが起きているが、外界と隔絶された王族のプライベートスペース、その一室であるここまでは物音はなかなか届かない。

 フロアを囲む衛視とラウンドベースの牢屋を彷彿させる強固な多重結界に、俺も安心して眠っていた。


「ふぇ、もうお腹いっぱいだよぉ。この規格の大出力ジェネレータは人型機(ストライカー)の腹部に収まらないよぉ」


 フィアット工房で働く夢を見ていると、ふと物音に目を醒ました。


(……曲者?)


 薄目で枕元のガンブレードを確認。壁の向こうを透視する。


「……ソフィー、こんな夜中にどうした」


 部屋にやってきたのは、日中に放置すると決めたばかりの少女であった。

 歳不相応なナイトガウンを纏ったソフィー。愛用のパジャマは村以来見ていない。

 紐を解き、ガウンを脱ぎ落とす。


「なっ―――」


 一糸纏わぬ、生まれたままの姿を晒した。


「なに、え、なんですか?」


「レーカ、私を抱いて」


 なに言っちゃってんのこの子?


「嫌なところがあったら直すから、なんでもするから、捨てないで」


「……そういうこと」


 これが、ソフィーなりの努力なのか。

 全てを失った少女が、最後に残った「俺」を離さない為の、精一杯の努力。

 隠れ家の離島で似たことがあったが、あれも思えば不自然だった。

 この子は、解りやすい繋がりを求めているんだ。

 子はかすがい、それを能動的に実行しようとした。妊娠すら俺を捕らえておく為の手段であった。

 そう考え、ぞくりと寒気を覚える。これが、子供の考えることか?

 駄目だ、そんな形だけはしちゃいけない、それこそソフィーの為にも。


「大人になってから、って言ったろ?」


 そもそもがこんなぺったんこな体に欲情など覚えない。キョウコに盛った俺がいっても説得力がないが、彼女の裸体からは健康的な印象しか湧かない。

 ガウンを着させ、背中を押して廊下へと促す。


「一人で部屋まで戻れるな? 俺は眠いからさっさと出てってくれ」


「いやっ、お願い、レーカ!」


 軽くだが力ずくで彼女を追い出す。

 扉板を背に床にへたり込んだ。

 一枚向こうですすり泣く声。

 本当に、これでいいのだろうか。女の子をあえて見捨てるなんて。

 しばらくすると声が止む。立ち去ったのではなく、泣き疲れて寝てしまったらしい。

 涙の跡を濡らしたハンカチで冷やし、彼女に割り振られた部屋へと運ぶ。


「おやすみ、ソフィー」








 人は寝なきゃ生きられない。

 そんな言い訳を誰にとでもなくしつつ、俺は起床した。

 昨日は散々な日だった。ガイルが裏切り、裸の王様に説明し、キョウコに泣きつき、ソフィーに夜這いされ。

 散々ながらも一晩経てば、多少は精神安定は確保されるものであり。


「綺麗だな……」


 朝日に染まった帝都の町並みを、俺は初めて直視した。

 心なしかドリットよりも古臭い、もとい情緒漂う建物。

 整然と管理されつつも混沌とした発展を思わせる町は、巨大な生物のように思えた。


「この町って、こんなに綺麗だったんだ。昨日は眺める余裕なんてなかったからな」


 ドアがノックされる。誰だろう?


「入ってます」


「トイレかねここは!?」


「入って、どうぞ」


「う、うむ、なんだかケツがムズムズするが、失礼する」


 入室してきたのは、どこか見覚えのある美少年だった。


「イケメンとか死ねばいいのに」


「相変わらずだな君は!?」


 あれ、知り合い?


「誰だよ、ホモに知り合いはいないぞ」


「僕はノンケだ!」


「冗談だ、でもなんで生きてんのお前。辛くない?」


「ひどい!?」


 少年は既に涙目である。ちょっといじりすぎたな。


「まあなんだ、また会えたことを喜ぶとしようか―――キザ男」


「マンフレートだ! マンフレート・リヒトフォーフェン!」


 赤矢(レッドアロウ)の天士であり、舞鶴(まいづる)と相打ちとなって墜落した少年。

 これから存外長い付き合い(くされ縁)となるこの帝国貴族と、俺は一月ぶりに再会した。


「わりぃ、お前の頑張り、割と無駄だったわ」


「わざわざ報告するな!」


 なにこいつ楽しい。








 彼は走っていた。

 一刻も早くこの伝令を陛下に届けるべく、揺らぐ視界も厭わず足を動かす。


「おい、ここから先は―――どうした、なにかあったのか」


 制止する衛視も、その尋常ではない様子に首を傾げる。


「で、伝令であります、至急陛下にお伝えしなければ―――」


「伝令であれば係の者が伝言をする。しばし待て」


「し、しかしっ」


 真っ青な彼の顔にどれだけの事態が発生しているか薄々察するも、衛視は規律に従い彼を足止めした。


「落ち着けって。おい、誰か水を持ってきてやれ」


「ここに酒ならあるぞ」


「あ、どうも……って殿下!?」


 酒瓶片手に半裸で現れたのは、国王ハダカーノ・オサマ・ハーティリー。

 ほぼ下着で歩き回るなど珍しいことではない、基本自堕落な人間なのである。

 それは、世界が変動の時を迎えていようと変わることはない。


「で、伝令! でんれーいっ!」


「目の前で叫ぶな、聞こえてる。それで、なにがあった?」


 グビグビと酒をラッパ飲みする帝国王。


「ハッ、西南地方の国境警備軍七二番砦が……」


「ん、ああ。あそこか、かなり大規模な基地だったよな」


「……砦が、消滅しました」


「ブハッァ!?」


 伝令と衛視は、陛下の吹き出した酒を浴びる羽目となった。





 勘のいい方はひょっとしたら気付くかもしれなくもないですが、帝国王の名前は超適当です


〉ガイルに裏切られてソフィーが落ち込んでるのにカバディカバディとか言ってる場合じゃない

 あれは演技ですよ、時間稼ぎの為の。ソフィーの手前平気そうに振る舞っていますが、レーカ君も限界です。ソフィーに八つ当たりしないだけマシ。


〉閣下を知らんとは・・・ この田舎者っ

 ルーデルの名前を知らないのは、荒鷹を見て「イーグルっぽいな」とか、舞鶴を見て「フランカーじゃね?」とつっこまないようなもんです。そういうものだと思って下さい。


〉ソフィーがルーデルに弟子入りフラグで

 ごめんなさいこれからソフィーの出番は薄くなります、ヒロインに厳しい小説なんです。

 そのかわりリデア姫がヒロイン株急上昇!



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