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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
帝国に逃げ込もう編
42/85

隠れ家と裏切り

「高い! なんで首都の倍の値段なんだよ!?」


「仕方がないだろ、こんな辺境で補給しようと思えばこんなもんさ。うちは混ぜ物なしだよ」「今時混ぜ物なんてあってたまるか!」


 ケチくさいと言うことなかれ。

 飛行機(ソードシップ)を維持するのには金と物資が必要だ。白鋼(しろがね)のように繊細な機体であれば尚更であり、出費は馬鹿にならない。


「払ってやれ、レーカ」


 呆れ顔のガイルに窘められる。


「むぐぐ……納得いかねぇ」


 航空機用のオイルをちゃぷちゃぷと運び、買い取った中古のオンボロ小型級飛宙船(エアシップ)に積み込む。


「整備物資とサバイバル道具、長期保存が効く食料……山にでも籠もるのか」


「さあな。俺も行ったことがないから、どんな場所かは知らん」


 おいおい、まじっすか。

 ガイルと肩を並べて海沿いの村を歩く。のどかなものだ、国境の向こうであんな凄惨な事件が起きたとは思えない。


「ソフィーは?」


「あそこだ」


 ガイルが指を差す先には、露天商のアクセサリーを楽しげに眺めるソフィーの姿。

 良かった、笑顔を久々に見れた。


「なにか欲しい物があるのか?」


「え? うんん、そんなことはないわ」


 首をブンブンと振るソフィー。嘘っぽい。


「いいんだぞ、値段も大したことはないし」


 全てイミテーション、贋作だ。俺だって作れる。俺の方が綺麗に作れる(意地)。


「じゃあ、これ……」


 指差したのは、シンプルなイヤリング。


「おっ、坊ちゃん彼女にプレゼントかい?」


「婚約者です」


「俺は認めねぇ」


 まだ諦めないつもりか、ガイル。


「ソフィーと結婚したければ、俺を倒せ!」


「うっす」


 ガンブレードの柄を掴む。


「や、待て、それはやばい」


 言い出しっぺはお前だろ。


「勝つよー勝ちにいくよー」


「調子に乗るな」


 ぺしっと頭を叩かれ、そそくさとイヤリングを買うガイル。


「ありがとう、お父さん」


「はっはっは、気にするな娘よ」


 しまった! さり気なく先を越された!


「なら俺からはこれをプレゼントだ!」


 露天商の品棚から適当に一つ掴む。

 ガラスの瓶に入った金色の玉。なにこれ、飴?


「精力剤兼興奮剤ですぜ」


 サムズアップする店員。


「ソフィーになにさせる気だ!」


「え、俺の責任?」


 ぎゃーぎゃーと騒ぎ合う。

 三人の間には、和気藹々とした空気が流れる。

 帝国に入り、やっと俺達は自然に笑えるようになった。








 ガイルの操縦にて、小型級飛宙船は海面スレスレを飛ぶ。


「どこに向かっているんだ?」


「海」


 だから、ここが海の上だって。


「隠れ家だ。世界に何カ所か用意しておいた」


「ほう、それはまた浪漫な」


 逃走ルートのことといい、用意周到なことだ。


「どんな場所?」


「内容を整えたのはナスチヤだ。俺は場所しか知らない」


「……そっか」


 アナスタシア様。

 もう少し、お世話になります。








 外周数キロの小さな離島。

 空から見れば上陸出来そうな場所もなく切り立った崖に囲まれている、施設らしい施設もない。

 偶然見かけたとしても、さして気にせず忘れてしまうような小島であった。

 飛宙船は切り立った崖の横穴に入る。


「おお、すげぇ」


 そこは、島に食い込むように隠れた小さな浜辺だった。

 三六〇度周りは岩肌で囲まれ、外界との接点は空と横穴だけ。

 砂浜にはテントと椅子、そして電話があった。


「……このテントが隠れ家?」


 身を隠すという目的は果たせそうだけれど、しょぼーい。


「ナスチヤのことだ、なにか仕掛けがあると思うが……」


 気になるのはやはり電話だ。解析すると、中身がまったく別物。


「ここを開ける鍵とか、なにか聞いていない?」


「あー、番号を言っていた気もしなくもないような気もしなくもない」


 どっちだよ。


「いいよ、勝手に開けるから」


 ジャコー、ジャコーとダイヤルを回す。


「これでラスト、っとおおぉぉ!?」


 最後の数字を回した途端、地面が大きく揺れた。

 湾内の海抜がみるみる下がる。湾の中心あたりから、栓を抜かれたように排水されているのだ。

 自然物と思われていた湾は、しかし底に鉄扉が設置されていた。

 扉が左右にスライドしゆっくり開く。水が勢いよく隙間に落ち、やがて完全に排水された。

 湾の底面全てを使用した扉は、中型級飛宙船程度なら降下してすっぽり収まれそうなほど大きい。


「……え、なにこれ」


 ダイヤル弄ったら海面割れて地下が出現とか。


「入り口?」


 ソフィーが浜辺の波打ち際だった場所から、扉の底をのぞき込む。

 両脇に手を差して持ち上げ、ソフィーを回収。危ないって。


「屋敷でもそうだったけれど、ナスチヤってこういう仕掛けが好きなの?」


 屋敷地下室への入り口はどう考えでも趣味が多分に混ざっていた。


「まあ、そうだな……って屋敷にはあったか? こういうカラクリは子供達が危ないからやめとこうって取り決めだったんだが」


「あー、まぁな」


 地下室のことはガイルには黙っている。ナスチヤだって、知られたくないからこそコソコソやってたんだろうし。

 ソフィーを抱き上げて扉の中に飛び込む。

 地下とは思えないほどの巨大な空間。やはり中型級を収める想定で設計されているな。


「ガイル、早く降りてこいよー」


「こいよー」


「無茶を言うな、冒険者でもなければこんな高さ飛び降りれるか。あとソフィー、レーカの言葉遣いが伝染るぞ」


 俺は病原体か。

 ガイルが飛宙船に乗り込み降下してくるのを待っていると、再び地面が揺れる。


「ガイル、扉が閉まってるぞ!」


「制限時間付きかよ!?」


 開けっ放しはまずいだろうが、制限時間が短過ぎる。


「操作方法があるんじゃないかしら?」


「そうかもしれないけれど、ちょっとは焦ろうか」


 狭まっていく空。慌てて飛宙船が降りてくるが、間に合いそうもない。


「止まれ、挟まれるぞ! 俺達は自力で脱出するから!」


「だがっ」


「内側から脱出する方法は用意されているはずだ! ガイルは待っていてくれ!」


 完全に扉が閉まる。

 流れ込む水音。強引に扉を破れば溺れ死ぬ。


「選択肢は、前進に限られる……か」


 こうして、俺達は制作・アナスタシアのダンジョン攻略に挑むこととなるのであった。






 持ってて良かったサバイバルグッズ。


「なんで身内の罠にはまっているんだろうな、俺達」


「隠れ家が偶然見つかって荒らされないようにする為のトラップでしょ?」


 もっとこう、まとめて解除する方法とか欲しかった。

 しばし一本道を歩いているが、中々変化が訪れない。


「もう3,2東京ドームくらいは歩いたと思うが」


「そうかしら、2,6東京ドーム程度よ、まだ」


「お、おう?」


 日本独自規格・TD(東京ドーム)が通じるとは。異世界侮れない。

 広い場所に出る。


「格納庫だ!」


 予備や人型機(ストライカー)や飛宙船、旧式ながらも飛行機などが鎮座した空間。

 ソフィーが興味の赴くまま飛行機に近付こうとして、慌てて腕を掴んで止めた。


「この臭い、ガスだな」


 ガスの定義は広いが、ネズミの死体が散在しているあたり厄介な類だろう。


「どこからか漏れているのか? 面倒だな」


 これでは進めない。


「風の流れがあるわ」


「風?」


 指先を舐めてみるも、空気の動きは感じない。


「私達が立っているここは停滞しているけれど、他の場所は気流だらけよ」


「うおっ、本当だ」


 解析してみれば、縦横無尽に毒ガスが流れていた。

 複雑な流れはしかし、不自然に隙間がある。流れの隙間を通れば毒ガスは吸わなくて済むかもしれ……


「……違う。これ、家族以外が通れないようにする仕掛けだ」


 ここを抜けるには風が読めるのが最低条件だ。一般人には難しいながらも、夫と娘なら楽に突破可能なトラップ。

 専門的な知識や忘れてしまう暗号などに頼らず、その身一つで開けられるように工夫された場所なのだ。

 夫が脳筋だと妻は大変だな。


「ここはソフィーに頼むよ」


「ええ」


 風を読むのは彼女の方が上手い。

 ソフィーに手を引かれ、俺は格納庫を突破した。






 探検を続けていると、面白い物が幾つも発見された。

 食堂、物置、遊戯室、図書室……おおよそ生活に必要な物は揃っている。

 食料もかなり貯えてあった。魔法で劣化を防いでいたのだ。


「これは引きこもれるな」


 いつかは食料が尽きるし、永遠には無理だが。


「私はいいわ、それでも」


「駄目だろ」


 元々半分ヒキコモリだしな、この子。


「どうして?」


「どうして、って」


「外に出れば、紅蓮の騎士団に捕まるかもしれない。そんなの嫌よ」


 確かに、ソフィーの安全を考えればひきこもるのが一番かもしれないが。


「そのうち参っちゃうんじゃないか?」


「そうかしら」


「そうだよ、マリアもいないのに」


 屋敷でソフィーが笑顔でいられたのは、歳の近い友人がいたからだろう。


「ならマリアも連れてきましょう?」


 いいこと思い付いた、と笑顔を浮かべるソフィー。


「マリアは社交性のある子だからな、それこそ、ここでの生活に耐えきれないかもしれない」


 マリアはこのまま、普通の少女として俺達に関わらず生きていく方がいい。

 勿論俺もマリアと一緒にいたい。けれど、マリアには無理に俺達と繋がりを持ち続ける理由などない。

 迷惑をかけるだけなのだ。






「管制室?」


 なんでこんな場所まであるんですか、アナスタシア様。


「ここから島全体の設備を制御出来るんだな」


「まるで砦ね」


 まるで、というかまさに砦だ。

 コンソールを操作するも、ロックされており制御を受け付けない。


「ふん、機械のくせに俺に従わないとはいい度胸だ」


「ひどい横暴」


 解析魔法を発動しようとし―――






 ―――世界が、揺れた。






「な、おお!?」


 ふわりと体が浮かぶ。咄嗟にソフィーの手首を掴み引き寄せる。


「重力境界?」


 そうだ、これは無重力の感覚だ。


「これもセキュリティーなのか!?」


 部屋の上下にそれらしい装置がないか透視をし―――


「発動、しない?」


 解析魔法が、発動しなかった。


「なんだこ、うぎゃ!」


 落ちた。

 重力が戻り、ソフィーの下敷きとなる。

 ソフィーは俺で衝撃を吸収して無傷っぽい。


「大丈……」


 夫か、と続けようとして、目を見開く。

 彼女は泣いていた。嗚咽をあげ、泣きじゃくっていた。


「どうした、どこか痛いのか!?」


「わからない、わからないよぉ」


 涙が溢れ、ポロポロと落ちる。


「寒い、凄く辛いの」


「寒いったって、どうしたら……」


 抱き付かれ、わんわんと鳴き声をあげるソフィー。


「怖いのよ。助けて、一緒にいて!」


 怖い? 怪我じゃないのか?


「俺はここにいるから! 離れたりしないから、落ち着いて!」


 急に母親が死んだことに実感が湧いて、ということではなかろう。

 人体解析は嫌いだが仕方がない。ソフィーの体に異常がないか透視を試みる。


「あれ、魔法が発動した?」


 さっきは発動しなかったのに。

 早く脱出して医者に診せようと、コンソールに向き直る。

 制御卓を操作、外へのロックを解除。


「ソフィー、おぶってくよ」


「いいわ、平気よ」


 最近ソフィーの「平気」とか「大丈夫」って言葉は信用しないことにしている。

 少し強引に背負い、俺は外への道を歩む。


「……あったかい」


「そりゃなによりだ」








 浜辺に戻ると、ガイルが何かを探していた。


「どうしたんだ?」


「―――!」


 宿敵を見るような目でガイルは俺を睨む。ちょ、なんか怒ってる。


「…………。」


 そしてじっくり俺を眺める。


「なに、その変な反応。俺に惚れちゃった?」


「……馬鹿か。ソフィーから離れろ」


 いつもの親バカ?


「ソフィー、ガイルが不機嫌だから降りて……ソフィー?」


 背中に顔をうずめ震えていた。


「どうした、よしよし」


 管制室の症状が再発したのだろうか。やはり近くの、医者のいる町まで飛ぶべきだ。


「ガイル、さっきの無重力状態ってここでも……あったみたいだな」


 机や椅子が転がっている。白鋼は無事か?


「ソフィーがさっきから調子悪いんだ。医者に診せたいのだが」


「……駄目だ。」


 ―――これは、意外な返事だった。


「病気だったらどうする。帝国に入ったならば、もう危険性が少ないんだろ」


「駄目だ!」


 怒鳴り声にソフィーはびくりと怯え、それを見て我に返ったかのようにガイルは戸惑いを浮かべた。


「す、まない。だがソフィーの体は問題ない、今晩はここに泊まる」


 声に出さず、頷くことで肯定するソフィー。


「ガイル、どうしたんだ? 『今晩は』ってことは、明日にはどこかいくのか?」


 様子が変だ。ガイルがソフィーを邪険に扱うなんて。


「明日は帝都へと向かう」


 踵を返し、ガイルは立ち去る。


「どこに行くんだ?」


「明日使う足が必要だ。飛行機を整備する」


 格納庫のアレか。


「手伝うよ」


「……いや、自分でやりたい」


 まあナスチヤも自分の機体は自分で整備するものだって言っていたが。


「やっぱり心配だ、前も紅翼(せきよく)を整備不良で墜落させたじゃないか」


「前?」


「ほら、一年前。俺が屋敷に住み着いた時の」


「……ああ、ソフィーが遭難した時の話か?」


「そうそう、ずっと使ってなかった機体の整備なんてガイルの腕じゃ無理だよ」


 なんともいえない表情に顔を歪めるガイル。自尊心が傷付いたが整備技術がへっぽこなのは認めざる終えない、みたいな顔だ。


「お前なら出来るのか?」


「フィアット工房で散々直してきたんだ、メジャーな機体ならいじれるよ」


「そう、か……なら頼むとしよう」


「あ、でもソフィーはどうしよ」


 体調が悪いのだ。一緒にいないと不安かもしれない。


「レーカ、私は平気だから」


「そうか?」


 まあ、体を診た限り異変はないのだけれど。


「……わかった、でも今日は一緒に寝るぞ。寝てる時になにかあったら大変だ」


「―――うん」


 頷き、地下へと歩くガイルを追う。

 ちらりと振り返ると、ソフィーの瞳には戸惑いの色が満ちていた。






「大戦の傑作機、零式(ぜろしき)か」


「そうだ。パワーと装甲が心許ないが、風に乗ってしまえば右に出る機体はなかった」


 直線翼の標準的な形状。鋼色のシンプルな単発機だ。

 特徴は軽さ。狂気の域に達した軽量化は、最低限の強度すら失わせたが極めて高い運動性を獲得した。

 今なお自由天士達に愛され、細々と生産される名機である。


「エンジンの吹き上がりが悪い。直せるか」


「なんで直す前から判るんだ……ああ、確かにクランクに罅が入っているな。割と致命的だぞ」


「応急措置でいい」


「ふふん、俺の単語帳に妥協などという単語はない」


 テキパキとサカエ魔力エンジンを降ろし、原因箇所まで解体する。


「うはははは、俺にバラせない機械はないぜー!」


「……壊すなよ?」


 俺はエンジン、ガイルは機体そのものを修復する。


「あれ、ガイル修理の腕上がった?」


「日々進歩しているんでな」


 屋敷で見てた時より手際がいい。


「……これは大戦の頃に乗っていた機体だ。修理なんてしょっちゅうやっていた」


「そっか」


 聞き流しつつ、俺は先程の無重力現象を考えていた。

 少し、疑問だった。なぜ重力境界などが存在するのかと。

 重力の強さは引きつける物体(つまり地上、地球)からの距離で変化する。高度が上がり地球から離れれば次第に重力は小さくなり、何百キロも上昇してしまえば地球の重力を振り切ってしまう。

 しかし、高度三〇〇〇メートル程度では重力の変化など微々たるものだ。旅客機に乗っても体が浮いたりなどしない。

 仮に地球規模の惑星二つが六〇〇〇メートルの距離にまで接近すれば、その間ではどうなるか。

 惑星同士が衝突するとか地面が崩壊するとか無粋なことは置いといて、まずは重力が釣り合って見かけ無重力となるはずなのだ。

 高度〇メートルから六〇〇〇メートルまで、均一に無重力、である。セルファークのように三〇〇〇メートルを境界に重力が反転するなど不自然極まりない。

 不自然な重力。そして、魔力の消失と同時に発生した重力異常。

 ここから導き出される仮説。


(この世界の重力は、魔力によって意図的に制御(デザイン)されている?)


 人は無重力では暮らせない。あえて重力を発生させているとすれば、まさしくデザインだ。

 そしてそんなことを出来そうな存在は一つしか知らない。


(唯一神セルファーク……神になにか異変が発生して、重力制御が乱れたのか?)


 仮説の積み重ね、思考実験でしかない。

 とりとめのない想像を振り払い、修理に集中することにした。


「なあ、お前にとって、ソフィーはなんだ?」


 もっとも、その邪魔はガイルが引き続き請け負ったが。


「妹?」


「俺が訊いているんだ」


「婚約者?」


「ほざけ」


「ナスチヤが決めたんだ、俺に文句言うな」


 ぴたりと停止するガイル。


「…………ナスチヤはどうして、お前を婚約者にしたんだったっけ?」


「俺本人にもわからずじまいだったよ。気紛れかもしれないし、理由があったのかもしれん」


「おかしい、ナスチヤはあの計画の……」


 ……なんだよ意味深な。


「お前はソフィーと結婚する気があるのか?」


「ソフィーの意志を尊重するさ」


「お前自身の意志を知りたいんだ」


 俺が彼女をどう思っているか、か。


「そりゃ好きだよ。でも、まだ結論には早いと思っている。俺達は互いに互いを必要としているが、それは必要だからであって求め合っているからじゃない」


「必要?」


「ソフィーは俺を求めることで母親が死んだショックを埋めようとしている。俺も、ソフィーのこれからを考えることでナスチヤの死から目を背けている」


 論理的にはこれくらい判る。論理がどうであろうと、心がついてこないが。


「どっちの場合も、こう言っちゃなんだがマリアで代用出来る。俺である必然性が、彼女でなくてはならない必然性がないんだ」


「本当にそれだけだと考えているなら、お前は大馬鹿野郎だな」


 よく言われる。


「もう一つ訊かせてくれ。お前は、ソフィーを守りきれるか?」


「知らん」


「そこは頷いておけよ」


「最善は尽くすさ。でもそれだけだ、俺一人の戦力は微々たるものだからな」


 ソフィーを守ろうと思うのであれば、誰も彼も利用するくらいの意気が必要だ。


「わかっているじゃないか。例え銀翼であろうと、数には勝てない」


 この前、二〇〇機以上の敵機を使い慣れない機体で墜とした奴がなにか言ってる。


「あのソフィーは、お前によく懐いているな」


 あの、ってなんだよ。ソフィーは実は大量生産品なのか。

 ベルトコンベアでがちゃこん、がちゃこん、と機械から出てくるソフィーを連想する。なんだこれ。


「裏切ってくれるなよ、あの子は笑顔でいることが多い。きっと、お前のお陰だ」


「なんで俺が美少女を裏切るんだ。俺は美少女の味方だ」


 胸を張って言い返すと、ガイルは溜め息混じりに返した。


「……なら敵が美少女だったらどうするんだ」


「武装解除させた上で口説き落とす」


 俺の口説き文句にメロメロだぜ。


「そうか、まあ好きにしろ」


 あれ、投げやり。


「あの子にとってもそれがいいかもしれないな」








 星空を見上げ、俺とソフィーは並んで浜辺に寝そべる。今日はここで就寝することにした。

 結界を張っているので虫が寄ってくる心配はない。テントの方が寝るのに適しているかもしれないが、埃っぽいのでやめておいた。

 本音を言えば、単に空を見上げたかっただけである。


「お父さんはどこで寝ているの?」


「零式のコックピットだとさ」


「レーカは、ここで暮らすのは嫌なのよね」


「嫌ってほどじゃないが。掃除をすれば快適そうだし」


 必要なものや遊戯室まで備えてある。暮らそうと思えば暮らせるはずだ。


「なら……やっぱりここにいましょう?」


 のんびり暮らすのも、まあ悪くないかもしれないが。

 異世界の夜空を見上げていると、不思議とそう思えてくる。


「話し相手がいなくて寂しいなら、産んで増やせばいいのよ」


 吹いた。


「そ、ソフィー?」


「なに?」


「いいかい、子供っていうのはキャベツ畑から生えるってわけじゃないんだ」


「知っているわ。男が女が服を脱いで……」


「ちょ、ストップストップ!?」


 この子その手の知識あるのか。


「お母さんに教わったの」


「学校での性教育なんてないし、それが普通なのかもしれないが……」


 ソフィーが俺の上に覆い被さってきた。


「レーカならいいわ。レーカがいい」


 その白い指が俺の上を這い、そっと上着の留め金を外す。

 頭を胸元に寄せ、はだけた俺の胸板を嘗める。

 妖艶なまでに赤い舌が俺の皮膚を濡らす。


「うっ」


 ひやりとした舌先。

 上目遣いで俺を見る彼女に、変に火照り身震いした。


「……やめんか」


「いたっ」


 デコピンしてソフィーを離す。


「大人になってから来い」


「むぅ」


 そろそろ俺にロリコン疑惑が浮上している気がする。俺の趣味はぼっきゅんぼんなのだ。マジで。


 w

 x

 Y



 なのだ!


「あと四年ね」


「四年? ……ああ、成人までの年数か」


 大人っていうのは法律的な意味じゃないのだが。

 一五歳で成人というのは日本人には馴染みがないが、地球でも昔は珍しくなかった。今でも多くの国が一八歳で成人だ。


「大人になったら、私をレーカの奥さんにしてくれる?」


「その問答は、四年後に繰り越しだ」


「レーカのへたれ」


 ひでぇ。


「私は傷付かないわ」


「俺がお断りしたんだ、素直に引け」


「私のこと、好きじゃない?」


「そういうのは、もっと大事にしたい派なんだ」


「そう」


 くすりと艶のある笑みを浮かべるソフィー。


「私は貴方を選ぶ。だから、今度はレーカが襲ってね」


 なにこの子コワイ。








 翌朝、隠れ家島より二機の飛行機が飛び立つ。

 一機は白鋼、もう一機は零式だ。白鋼が先行し後ろから零式が着いてくる。

 パワーのある白鋼が前の方が効率が良い。排気をモロに受ければ逆効果なので、零式は斜め後ろに控えている。

 ドリットと同クラスの巨大都市、帝国首都・フュンフ。

 荘厳な佇まいの城、その近くに巨塔が聳えている。

 首都近郊を飛行する二機。


「それで、どうするんだこれから?」


 ガイルに確認する。有無を言わさずここまで誘導されたのだ、いい加減目的を教えてほしい。


『ソフィーが帝国王族の血を引いていることは知っているな?』


「ああ、ナスチヤが帝国のお姫様だったんだろ?」


『お前達は帝国に保護してもらえ。隠れ家を使ってもいいが、権力の庇護は必要だ』


「そうだが、でも……」


 お前達は、ってどういうことだ?

 ゆっくりと白鋼の後ろに移動する零式。


『ソフィー』


 いつもと変わらぬ娘を呼ぶ父の声。

 しかしその声色に、俺は悪寒を覚えた。

 咄嗟かつ無意識にスイッチに手を伸ばし―――


「……お父さん?」


 ―――後退翼機に偽装する為のカモフラージュをパージする。




『お別れだ。俺は、お前に構っていられるほど暇じゃない』




 零式の7,7ミリ機銃が火を噴いた。


「なっ」


 分離したパーツが零式を襲い、その隙に強引に白鋼の制御をソフィーから奪い上昇、少しでも距離を確保する。


「どういうことだ、ガイル!」


『避けたか、いい勘をしている』


 零式はその能力を超えた速度で上昇、白鋼を追跡する。


(上昇気流を捕まえている―――それにしたって、早い!)


『言った通りだ。お前達は俺にとって足枷にしかならない。ここで痛めつけて、俺が味方ではないことを身体に教えてやる』


「ふざけんなっ!」


 再び発砲する零式。今度は20ミリ機関砲だ、威力が段違いである。

 未来が見えているかのような見事な偏差射撃。単調な動きではやられる、そもそも俺の操縦じゃ逃げ切れない!


「ソフィー! 操縦桿を握ってくれ、ガイルがおかしい!」


「……どうして」


 ソフィーは光を失った瞳で呟く。


「お母さんも、お父さんもいなくなるの?」


『そうだ、俺はナスチヤの騎士だ。お前を守る理由はない』


 何故、何故こんなことを!

 どういうことだ、ガイル―――!!

 正直、今悩んでいます。

 銀翼の天使達は「平和な子供時代」を経て主人公が大きな事件を経験し、それをきっかけに大人になる、というプロットが最初から用意された物語です。

 ですがこの大きな事件、つまりアナスタシアの悲劇が強すぎたのではないかと思っています。感情移入の為の手法であった4章前半までのほのぼの路線で、この物語のイメージが固定されてしまったことが読者の減少に繋がったのではないかと思います。

 かなりモチベーションが下がっています。ラスト予定である16歳まで、到底保たないほどに。

 なのでシナリオを短縮することを考えました。打ち切りはしたくありません。


 本来のシナリオ 一年ずつしっかりと描写し、大人になる過程を描く。本編には関係ないシナリオもかなり挟む予定。


 今考案した短縮シナリオ 一気に大人時代に飛び、伏線をズバズバ回収していく。シナリオ破綻は少ないですが忙しい印象を受けるかと。現在、これでいきたいと思っています。


 超短縮シナリオ 子供時代に完結してしまうシナリオ。子供なので女の子とのいちゃラブもなし。ソードマスターハヤト。伏線は回収しますが、超展開になるかと。



 皆さんはどう思いますか? 「ふざけんな最後までやれや」という意見でも構いません、それもモチベーションになります。

 以上、弱音兼アンケートでした。


 追伸

 この小説をお気に入りに登録して下さっているみなさんに大きな感謝を。

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