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銀翼の天使達  作者: 蛍蛍
大陸横断レース未成年の部 編
30/85

開会式とお姫様 2


 倉庫に運び込んでおいたエアバイクを持ち出し、マリアを後ろに乗せてデート開始。


「ねえ、レーカ。このエアバイクって一年くらい前にレーカが発明したのよね?」


「そうだけれど?」


「私、このエアバイクしか見たことがなかったから疑問に思わなかったけれど、これって形が変じゃない?」


「何を今更」


 ケッテンクラート化したエアバイクは原型から大きく変質している。後輪がキャタピラとなったエアバイクはとにかくデカい。重い。燃費悪い。


「は、恥ずかしいっ。降ろして、歩いて観光しましょう!」


「なにいってんだ、見ろよ、人々がコイツを見る目を。最高に目立っているじゃないか」


「だから嫌なのよ!」


 数台のエアバイクが併走し接近してくる。


「随分カスタムしたエアバイクじゃねーか! クールだぜぇぇぇ!」


「女連れたぁ、色男だなヒャッハー!」


「バイクレースの参加者か? 今年の大陸横断レースは面白くなりそうだ!」


 若者達の歓声。俺達はちょっとしたヒーローだった。

 つーか去年生まれたばかりのエアバイクが、もう参加部門の一つに組み込まれているのか。


「柄が悪い人が集まっているんだけれど……」


「まあバイクだし」


 腰に回した手がきつくなり、マリアが俺に密着する。

 役得というほど柔らかくもないが、まあ悪い気はしない。


「おりゃあ、一回転ループ!」


 照れ隠しに曲芸。


「きゃああぁあぁぁあ!?」


 悲鳴を上げるマリア。


「コイツはクレイジーだぜぇー!」


「イッツ、クール!」


 そこに現れるのは、やはりエアバイクに跨がる騎士だった。


「こらぁまたお前らか! 真っ昼間から暴走行為するんじゃねぇ!」


「いけぇね、高速機動騎士隊だ!」


「てめぇら、解散だ解散ーっ!」


 セルファークに暴走族紛いの連中を生み出した件に関して、俺はちょっと反省してもいいかもしれない。


「こっちに行けば道が入り組んでいて逃げやすいぜアニキ!」


「おう! ……誰が兄貴だ!?」








「またか、またお前か……!」


 ツヴェーのそれとは比べものにはならない大きな施設。

 人々の目はこれから繰り広げられる劇に、期待と興奮で輝いている。

 それはマリアとて例外ではない。

 駐車場にエアバイクを停車させ、せかすマリアを宥めつつチケットを買う。

 コロッセオのような円形会場。その中心にて公演される物語は、勿論―――


「―――父を訪ねて、三千里……!」


 ふふふ、いいだろう。ならば今日も今日とて見てやろう。

 今日こそは、絶対にツッコミを入れないぞ!








 巨大船にて世界征服の旅を続けるお姫様御一行。


(勇者一行じゃないのか? ……いかんいかん、ツッコむな俺)


『武力に物を言わせる時代は終わりました。これからは智をもって世を治める時代です!』


 そう思い立った姫は、さっそく学問の聖地と呼ばれる神殿の武力制圧に乗り出した。


(つっこむな、つっこむな!)


 しかしそこで悲劇が!

 賢者少女の転移魔法が大失敗。仲間や部下達はバラバラにはぐれてしまうのだった。


『部下達が集結するまでの間、暇潰しに残った部下で神殿を制圧しましょう』


『なんということです、私は悪魔を故郷に呼び込んでしまいました』


 神殿の最高責任者である大神官の少女と、勇者の仲間の賢者少女が対面する。


『賢者よ、悪魔に魂を売ったのですか!?』


『むしろ悪魔に飼われています……』


 賢者と大神官は双子の姉妹だったのだ!


『賢者よ、今こそ洗礼の時。試練の塔に登り、あの悪魔を打倒する力を得るのです』


『あれを倒せとか、私に死ねと!?』


『ガンバ』


 サムブアップする大神官に、賢者少女はうなだれつつ試練の塔へと旅立った。


『魔族さん、手伝って下さい』


『おう』


(いたのか、主人公)


 試練の塔に挑む賢者少女と魔族の青年。

 降り注ぐタライをはねのけつつ、彼らは試練の間へとたどり着く。

 賢者は太古の精霊と対峙した。


『貴女は自身を隠さず生きていますか?』


『そうあろうと努めております』


『果たして本当にそうでしょうか?』


 精霊が取り出したるは一冊のノート。


『貴女の部屋から拝借しました』


『え』






『 職業 賢者

  肉体年齢 十歳(しかし普段の身体は封印状態にあり、力を解放すれば二十代のグラマラスな女性となる)


  左目には邪神が封印されており、賢者の聖なる力と融合させることで一万倍まで増幅する。

  あまりのパワーによって髪は白に染まり、全身に拘束用術式が浮かぶ。

  拘束用術式がなければ魔力が暴発して世界の半分が抉られることとなる。


  装備

  アルティメットタクト 

  古代に生きた最高峰の錬金術師達が、その魂と引き換えに精製した至高の杖。オリハルコン、ミスリル、マダスカス鋼、ヒヒイロカネ、オモイカネを最適な割合で融合させた超々合金にて作られている。

  人の至る究極の極地に存在する一本であることから、アルティメットの名が与えられた。レア度EXランクアイテム。



  必殺技

  カイザーフレイム・ゴッド・エンドレス・ラッドローチ・エターナルフォースブリザード

  賢者が魂の力を全解放し一〇八の属性攻撃をまとめて放つ究極魔法。

  凄まじい光と共に、相手は死ぬ。 』






『いやああああああぁぁぁぁ!?』


 なんという悲劇。精霊に妄想ノートを音読された賢者は絶望のあまり崩れ落ちる。


『……それでも、それも私の一部なのです!』


 でも賢者負けない! 女の子だもん!


『くらいなさい太古の精霊! カイザーフレイム・ゴッド・エンドレス・ラッドローチ・エターナルフォースブリザードォォォ!!!』


(これって、それっぽい英単語並べただけだろ……)


 精霊は死んだ。

 新たな力に目覚めた賢者。しかしその表情は晴れない。

 大切ななにかを失いつつも、真の賢者となった少女。

 彼女の苦難と挫折はまだまだ続く。

 賢者、ガンバ!


 ~続く~








「なんでやねぇぇぇん!!!」


 無駄にちょっと長いし! ラッドローチの意味判ってないし!

 微かに地球にいた頃の黒歴史で胸がチクチクするし!


「そうね、こんな盛り上がっている場面で終わってしまうなんて、叫びたくなる気持ちも解るわ」


「マリア、お前疲れているんだよ」


 うっとりと遠い目をしないでくれ。

 なんだろう、この胸に残る二日酔いのような残念感は。変なものを見せやがって。

 例の如く人々の熱の冷めやまぬ中、ステージの上に立った役者が観客に向けて叫ぶ。


「皆様、今日はなんと『父を訪ねて三千里』の作者であり、天才演劇作家のセルフ様がいらしております! チケットの裏にマークが描かれている方、抽選一〇名はセルフ様と触れ合う機会が得られるのです! 当たりチケットをお持ちの方はこちらへどうぞ!」


 劇場の各所で歓声や落胆の声が上がる。次々とステージの上に客が登り、遂にその数は九名となった。


「あと一名、お見逃しは御座いませんか? セルフ様は多忙なのでさっさと締め切ってしまいますよ?」


「うううっ、誰よ最後の一枚を持っているのは! 興味ないなら私に譲ってよぉ」


 そんなに会ってみたいのか、マリア。

 あんな劇を書く奴にどうして、と呆れつつチケットを裏返す。

 あった。

 一〇人目の当たりマーク。


「レ、レーカ……! それちょうだ……じゃなくて早く行きなさい、間に合わないわよ!」


「いらん、マリアにあげる」


「いいの? 返せって言っても返さないわよ!?」


 喜色満面のマリア。

 むしろセルフとやらに嫉妬したくなるレベルである。

 俺からひったくるようにチケットを受け取り、跳ねるようにステージまで駆ける。

 あほくさ。俺は外で待っているか。








 恍惚とした潤んだ瞳のまま機能停止したマリアの手を引き、俺は広場までやってきた。

 この状態のマリアをエアバイクに乗せるのは危ない。一旦休憩と洒落込もう。


「にしても、ゼェーレストにも広場と呼ばれる場所があるが、まったく別物だよなぁ」


「…………え、なにか言った……?」


「ナンデモアーリマセーン」


 ゼェーレスト村の広場は、ただ道が合流した空き地だ。それなりに広いがなにもない。案内看板がある程度だ。

 この広場には石畳に色とりどりの花壇、ロータリーの中心は噴水まである。外周には幾つも屋台が軒を連ね、縦横無尽に人が行き交うのだ。ここはスクランブル交差点かっての。


「マリア、なにか食べたい?」


「ふふふ、セルフ様にサインもらっちゃった……」


 だめだこりゃ。意識が月面まで飛んでしまっている。

 一人残すのは不用心なので、手を繋いでクレープ屋に並ぶ。


「今日のオススメを。テイクオフで」


「クレープ屋に日ごとの差なんてありませんよ、お客さん」


 渾身のギャグをスルーされつつ、はむはむとクレープを頬張る。

 祭りに乗じた店や大道芸を眺めつつ、奇妙な一団を発見した。


『衣装遊技同志の会』


 そう掲げられた看板の元、着飾った人々が観客にポーズを取る。

 歓声を上げつつ観客は魔法でスケッチボードに光景を写し取る。

 ファンタジー世界において彼らの格好は目立ち難いのだが、もしやあれはコスプレの類だろうか。

 さながら周囲の人々はカメラマンか。

 まああれも祭りの一つの興じ方だろうと視線を戻そうとして、長い黒髪の女性が剣を持って構えているのに気付いた。


「我が名は勇者! レーカさん、じゃなくて魔族の青年よ私に惚れなさい!」


 父を訪ねて三千里の勇者になりきっているっぽい。

 人の名前を出さないでくれ、皆さん、あの人は俺の知り合いじゃありません。

 ちなみに彼女のコスプレには賛否両論だった。美人だし似合っているが、致命的にキャラ付けを間違っている。


「身内の恥ね」


「あ、おかえり」


 さて、マリアが現実に帰還したことだし次の場所に行くか。








 汝、女子の買い物に付き合うべからず。

 地球において散々語られていたこの教えは、決して嘘ではないと理解した。


「レーカ、こっちこっち!」


「おー」


「ねえ、どっちが似合う?」


「どっちもサイコー」


 女の買い物ってやつは、実にアグレッシブでエネルギッシュだ。

 幾つか買い物袋を持たされ右へ左へ。大した店のないゼェーレストでの鬱憤を晴らすように、実に景気良く彼女は散財していく。


「前にツヴェー行った時は、我慢して一銭も使わなかったのに」


「せっかくの首都だもの、お小遣い貯まってたし丁度いいわ」


 金を使うこと自体に快楽を覚えなければいいけど。

 お姫様は興味のままに歩き、そして路地へと入ってしまう。

 慌てて追いかけるが、姿がない。


「……どこ行った?」


 見失ったかと焦る。路地といいつつもツヴェーの大通り並の密度があるそこは、治安が悪くはなかろうが……はぐれたとなれば厄介だ。

 と、側面の店の出入口にマリアの手だけが飛び出して手招きしていた。心配させないでほしい。

 入店してみるとそこは雑貨屋だった。明治か大正っぽいロスタルジックな佇まいだ。


「かわいー!」


 小物に興味を示すマリア。普段背伸びしている彼女だが、こんな時は年相応だ。

 彼女の肩に手を置き耳元に囁く。


「君の方が可愛いよ」


 マリアは黙って俺から数歩離れ、鳥肌の立った腕をさすった。

 夏場なのに寒いのか? 風邪などをひいていなければいいけど。

 ……解っているよ、気持ち悪かったんだろ。どうせキャラじゃないよ。


「む、お客さんかね?」


 店員が店の奥から現れた。初老の老人である。


「気にしないで下さい、ひやかしです」


「堂々と言うな、坊主」


「……レーカ?」


 聞き覚えのある声が、老人の後ろから届く。


「ガイル?」


 ひょっこり扉から現れたのは、ゼェーレストの家主その人。


「なんでここに?」


「ここ、俺の実家だし」


「マジで?」


 ガイルが何者なのかは永遠のテーマだったが、まさかこんな庶民の出だったとは。


「俺をなんだと思っていたんだよ」


「そう問われると困るんだけどさ」


 そっか、ここでガイルは育ったのか。

 幼いガイルが店内を走り回る姿を幻視する。それはきっと、かつて実際にあった光景だろう。


「いや、ここに引っ越したのは大人になってからだが」


 実際にはない光景だった。


「ガイル、小奴は何じゃ?」


「ウチの居候だよ。レーカっていうクソガキだ。この爺さんは俺の親父のイソロクだ。別に覚えておかなくていいぜ」


「えっと、初めまして」


 今更だが敬語を使っておくか。


「うむ、初めましてじゃ。今後も会う機会があるかもしれん、よろしくな」


「あらレーカ君?」


 扉の奥からアナスタシア様とソフィーが現れる。そりゃいるよな。


「おお、言い忘れておった。一緒に住んでおるからといって孫娘に手を出すなよ?」


「お義父様、レーカ君はもうソフィーの婚約者ですよ」


 老人の表情が凍った。

 ギギギ、と油切れしたカラクリのようにこちらを向く。


「本当なのか、坊主?」


「え、ええ、まあ」


「どこまでいっておる?」


 子供になんつー質問するんだ。

 どこまで、といえば恋愛感情以前の段階だが。

 ソフィーを軽く抱き締める。


「こんなことをしても抵抗されないところまで行ってますが」


 ソフィーは腕の中でも、安心した様子で俺を不思議そうに見上げている。

 なんてことはない。彼女は白鋼に乗った時点で、俺に命まで預けているのだ。

 この程度のことで抵抗するはずがない。


「今後よろしくなどするものか! 死ね!」


「死ね!?」


 ひどい老害だった。








 ガイル達と宿に戻ると、ギイハルトと出くわした。


「白鋼の審査結果をお持ちしました」


「わざわざお前が持ってこなくてもいいだろうに」


「用事のついでなので」


 ギイハルトから封筒を受け取る。

 全員が覗き込む。手元暗いからやめろ。

 封筒の蝋を剥がし、中身を取り出す。


『失格』


「なんでー!?」


「まあ、そうだろうな」


 なんでガイルは納得しているんだ。

 読み進めると、しっかり理由も記されていた。


『浮遊装置未装備』


『魔力不足』


『安定性欠落』


「……大丈夫なのかい、この飛行機」


 ギイハルトに哀れなものを見る目で見られた。


「浮遊装置がないのは軽量化の為、軽い機体と強力なエンジンで短距離離陸が出来るから問題ない。魔力だってシールドロックのクリスタルは高出力だから足りているし、いざとなれば俺の魔力を供給可能だ。安定性欠落だって設計上わざとだ、ソフィーが気合いで制御するから問題ない」


「……それはそれで大丈夫なのかい、あの飛行機」


 テスト飛行は飽きるほど繰り返した。問題ないと断言出来る。


「紙貸せ」


 貸せと言いつつ奪い取るガイル。


『失格』に訂正線を引き、『合格にしろ。ガイル』と書き換える。


「これを届けろ」


「了解です」


「それでいいのか審査委員」






 次の日、改めてギイハルトが合格通知を届けてくれたのであった。


「どうしたんだい、その顔」


 俺は頬に紅葉を貼り付けつつも、堂々と返答する。


「夜這いは浪漫です」


 この日、マリアは視線をすら合わせてくれなかった。







 そして開会式にして、未成年部門の予選当日。


「おい、おきろレーカ」


 ガイルに揺すられ俺はうっすら目を開く。


「なんだよ……今日はもう少し寝ている予定なんだ、ほっといてくれぇ」


 マリアも早々は起きて、部屋に不在。ソフィーはベッドの上でぼーっとしている。


「開会式見ないのか?」


「きょーみない」


 校長先生のありがたいお話とか、あれなんの価値があるんだ。

 昨日は審査でバラバラにされた白鋼を組み立てるので忙しかったんだ。寝かせてくれ。

 本来であればほどほどに解体され、それを自力で組み上げることで機体を自分で制作したことを証明するのだが……なぜか白鋼は完膚なきまでに分解されていた。

 呆然とする俺の前には一枚の紙。


『ごめんなさい組み立てられませんでした。必要なら人手を貸すのでガイル様には内密にお願いします』


 他人に触られるのは嫌なので全て自分で組み立てた。

 一部無理外したらしくパーツが破損していた。ファック。

 そんなこんなで、昨日は就寝が遅かったのだ。


「というわけで、寝かせて」


「共和国の大統領と帝国の姫の挨拶、見ないのか?」


「だからきょーみないって……帝国の姫?」


 がばっと起き上がる。


「お姫様って美人?」


「まあ美人には違いないな。国民からも人気があるし」


「なにをしているんだガイル、さっさと城前広場へ行くぞウスノロ!」


「おい」


 扉の前で身支度を済ませガイルを急かす。

 ガイルは頭痛を堪えるように頭を押さえていた。








 広場にたどり着くと、丁度大統領の開会挨拶が終わったところだった。

 城のバルコニーを見上げる。

 奥から現れたのは、ウェーブした金砂の髪の少女。

 真っ赤なドレスに凛とした顔立ち。年は俺と同じくらいか。

 常人とは一線を画す存在感に、観衆は一瞬息を飲み、そして大歓声を上げた。


「うおおおぉぉぉぉ、リデア様愛してるー!」


「こっち向いて! 俺を見てー!」


「ガキじゃねぇか、騙したなー!」


「どさくさに紛れて叫ぶな!」


 とんだ詐欺だ。もっと大人の女性を期待していたのに。

 帝国姫―――リデア様は民衆を睥睨し、手元を少し見ながら口を開いた。


「こんにちは諸君。我が名はリデア・ハーティリー・マリンドルフ。帝国の第一王女じゃ」


 あれ? なんだか彼女に見覚えがある気がする。

 なぜだろう。雰囲気というか、見たことがあるような、ないような……


「今日は歴史ある大陸横断レースの開会式に呼ばれ、大変名誉に思う。先の悲しい大戦より十一年、記憶も薄れ若い世代は戦争を知らない者も多かろう。かくいうわしも、直接見知っている世代ではないのじゃ」


 マリアあたりも当時三才、覚えてなんかいないだろう。


「かつて空から飛来する恐怖の象徴だった戦闘機(ソードシップ)……それまでの飛宙船(エアシップ)とは比べ物にならない機動性。戦争は新たな飛行手段であった飛行機の開発を皮肉にも加速させ、やがて音の速度すら越えて銀翼の天使達は殺し合う時代となった」


 元々、この世界では飛宙船にて航空力学やエンジン技術が研究されていた。

 あとは枯れた技術の水平思考だ。一〇年程度で紅翼(せきよく)から荒鷹(あらだか)に進歩したのもその辺が理由だろう。


「神聖な空が血の赤に染まる時代。だがしかし、戦争は終結し空は蒼さを取り戻した」


 リデア姫は大げさに腕を左右に広げる。


「若人達よ。最早空に境界はない、存分に己が才を振るうのじゃ! 賭けるのは命ではなく誇りである! さあ、この…………やってられるかー!」


 どうした急に。


「皆の者、こんな話くだらないのじゃ! そんなことよりわしの歌を聞けー!」


 カンペをビリビリに破き捨てる。


「待ってましたぁ!」


「リデア姫にお堅い話なんであわないぜ!」


「うぉーリデアちゃーん!」


 盛り上がる民衆。この展開は予想済みだったらしい。


「帝国姫、リデアいっきまーすのじゃ!」


 軽快なリズムでステップを踏み、彼女はノリノリである。






「 行けっ 飛べっ 気になる彼は天士様♪

  ツバサ震わせ コノハオトシ♪

  スティック引いて スクランブル♪

  音の速さなんて 置き去りね♪

  ワイバーンも置き去り 鋼の天使♪

  私が手を振れば 翼端揺らす♪

  でも、でも…… あの人は♪

  縛られるのがキライな 自由天士♪

  ねえっ ねえっ たまには顔だしてよ テ・ン・シ・様♪ 」






 盛り上がる広場。

 やりきった顔のリデア姫。

 その背後からガタイのいいオッサンが近付き、首根っこを掴んで猫のように持ち上げ退場していった。

 なんだろう、この気分。


「わ、わるい気がしない……」


 アイドルが好きな人って、こんな気分なのだろうか。

 確かに美人だし人気者。

 でもベクトルが斜め四五度上だった。








 予選開始まで、あと数時間。


 現時点での強さランキング(生身のみ)を考えてみました。

 あくまで目安の思い付きなので、当てにしないでください。


 上から最強、下にいくほど弱くなります。


セルフ「演劇作家。ファンレター待ってます! 応援してね☆」

イレギュラー「…………。」

アナスタシア様「魔法を極めたら攻撃魔法も上手くなったってだけよ?」

ロリ神「ロリ言うな」

イリア「ぱわーふぁいたー系」

ロリゴン「イエスソフィー、ノー拉致」

ラプター「第五世代戦闘機っス!」

レーカ「主人公最強ェ……」

一〇式戦車「無段階変速は伊達じゃない」

ガイル「俺、天士だし」

キョウコ「私、天士ですし」

ガチターン「がはははは」

カストルディ「小せぇ人型機だな、ばらしちまうか」

クラタス「水道橋重工製です……ふぇぇ、ばらさないでぇ」

冒険者志望三人組「「「まとめてカウントすんな」」」

マキ「真のヒロインはわたし!」

キャサリン「メイドだぞ?」

マリア「お母さんには勝てないわ」

ビックドッグ「Viiiiiiウィンウィン……」

アシモ「ホンダ製人型ロボット。でも階段は勘弁な!」

猫「にゃー」

ムカデ「いつから百本足だと錯覚していた?」

ソフィー「ムカデいやぁ」


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