ロリな女神と黒き騎士
この作品は『銀翼の天使達』の再構成作品です。
注意 この作品には挿し絵があります。苦手な方は挿し絵設定をOFFにして下さい。
「お主は死んだのじゃ」
少女を象った光の輪郭。
ふわふわと浮かぶ彼女は、唐突にそう告げた。
「いきなりだな」
真っ白な空間。
上も下もない世界には、俺と少女(?)の二人しかいない。
これは、あれか。ロリ神、というやつか。
「長生きはするものだ。まさか、生きているうちにロリ神と対面しようとはな」
「死んどると言っとるだろう。それにお主いうほど長く生きとらんだろ、あとロリじゃないわい。更にいえばその本から目を離せ」
「気にするな。話はこれ読みながらでも聞こう」
「全力投球で失礼な奴じゃ!」
四カ所全てにツッコミを入れていたな。神とは伊達ではないらしい。
「その本はなんじゃ?」
「ん?」
雑誌の表紙を持ち上げる。
「……世界が違えど、男というのはそういうのが好きなのじゃな」
「愚問だな、この美に心惑わさない奴などいるものか」
この優美なシルエットに見惚れない奴がいるなら、ソイツは玉無しだ。
「永遠の浪漫さ……メカニックは」
迫力あるエフェクトの施されたロボット模型の写真。なんてことはない、模型雑誌である。
エロ雑誌だと勘違いした奴、正直に手を上げなさい。
「ロボットだけではない。素晴らしいぞ、機械は」
俺は少女に語る。
複合装甲と一振りの槍を携え戦場を駆け抜ける主力戦車。
各種武装を総合的に制御し女神の盾の名に恥じぬ防御力を誇るイージス艦。
そして航空力学の随を凝らし、重量という制限と戦いつつも最新鋭工学とアビオニクスの限界に挑む戦闘機。
勘違いしないでほしい。俺は戦争を望んでいるのではない。
技術者達の創意工夫と努力の日々が注ぎ込まれた彼らに、ときめかない男などいないっ!
「理解してもらえたな、ロリ神様」
満足げに頷く俺。
「なにを理解すればよいのかすら最後まで解らんかったわ。あとロリいうな」
ロリを否定するか。確かに言葉は年寄り臭い。ロリバ……ロリ淑女と見た。
「ところで誰だ君は? ここはどこ? 私は誰?」
「その質問、真っ先にするべきじゃよな!?」
このロリ神、ツッコミ属性だ。
「しかし、自分のことを思い出せんのか? ここに来たショックで記憶が……?」
真剣に悩むロリ神。いかん、「お約束でした!」なんて言い出せない。
「よし、まずはお主の名じゃ。お主は真山 零夏じゃ。どうじゃ、聞き覚えはないか?」
「まあそれは置いといて」
「……置いといて、いいのか?」
釈然としなさげな少女。
「知っているぞ。こういう時になんて言えばいいか」
「なんというのじゃ?」
興味があるのか首を傾げる。
そんな姿に内心ときめきを覚えつつ、俺は大きく息を吸い込み、叫ぶように言い放った。
「はい、テンプレテンプレッ」
「……本題に入っていいかの? 時間がないのじゃ」
ごめんなさい。
「先にも言ったが、お主は死んだ」
「トラックに轢かれたのか?」
「死因までは把握しとらん」
いや、そうに違いない。
正義感溢れる俺のことだ、信号無視したトラックが子供を撥ねそうになり、間一髪助けたものの……といったところか。
「さすが俺だな……」
「話を続けるぞ。お主はこれから―――」
手の平を翳し彼女の言葉を遮る。
俺は不敵に笑みを漏らし、続きを引き継いだ。
「―――他の世界に行ってもらう、というのだろう?」
光の輪郭故に顔は判らないが、ロリ神から驚愕の気配が伝わった。
「な、なぜそれを……!?」
「なぜ、か。それを問おうとはな、勉強不足としか言いようがないぞロリ神」
自信満々にどや顔をしておく。意味なんてない。
「……なるほど、お主はわしには知り得ない理を把握しているようじゃの」
勝手に解釈してくれた。
つーか、さっき「世界は違えど」って言ってたし。
「その通りじゃ。お主はこれから別の世界で生きてもらう」
「それは、あんたの都合なのか?」
どうせ書類にコーヒー零したとか、そんなのだろ?
「……そうじゃ。お主にはすまんと思っている」
申し訳なさそうに項垂れるロリ神。
その頭にポンと手を乗せ、ぐしぐし撫でてやった。
「うおっ、なにをするのじゃ!?」
光の輪郭とはいえ、実体は存在するらしい。しなやかな髪の感触が指先に触れる。
「気にするな。俺は、気にしない」
子供に落ち込まれると困ってしまう。中身はお婆さんだったとしても、だ。
「死因を把握していないってことは、君が死の原因なわけではないのだろう? なら、第二の生を与えてくれることに感謝だよ」
目的もなく生きていた半生であったが、ぽっくり死んで納得出来るわけではない。
楽しいことがしたい、趣味を満喫したい、美味い物が食いたい。
目的がなかったからこそ、時間が欲しい。
それをくれようというのだ。感謝しないはずがない。
「……ありがとう」
「なぜ君が感謝する? ありがとうと言うべきは俺だって」
「そう言ってもらえると、ありがたい」
「だから、ありがとうは俺が……」
おっと、このままではありがとう合戦を繰り返してしまうな。
「ありがたいついでに、頼みをしていいか?」
「ちゃっかりしているなロリ神」
とはいえ上目使い(見えないけど)で迫られたら断れまい。
基本、子供には弱いのだ。
「お主には、姫の手助けをしてほしいのじゃ」
「誰?」
姫とは、またベタな……
「お主はいつか、雪の如く白き姫と出会うであろう。この娘を助けてほしい」
「助けるっつったって……俺一人で出来ることなんてたかが知れているぞ? 俺はただのミリオタだ」
戦いなんて経験がない。武術を多少嗜んでいるが、それでも一般人より強い護衛にしかならないだろう。
それとも神様パワーで特殊能力を与えられたりするのだろうか。
光輝く剣を振りかざし、颯爽と敵に立ち向かう自分を想像する。我ながら似合わない。
「なにも悪人から救い出せ、と言っているのではない。お主の出来る範囲で、好きなように行動してくれればよい。むしろ変に無理に干渉してくれるな」
要求が微妙過ぎてむしろ難しいのだが。
「気にとめてくれればいいのじゃ。無理だと思ったことは、やらんくていい」
「そういうことなら」
真意が気になるが、なんせ神の思惑だ。無理に読み取ろうとしても無駄だろう。
「いうべきことはそれくらいかの。ああ、お主は魔法を使えんよな?」
「俺の住んでいた世界には魔法なんてなかったよ」
「そうらしいな。わしらからすれば魔法のない生活というのを想像出来んが……まあ、世界を渡った暁には膨大な魔力を有することになっておる。魔法を習得すれば生きるのも楽だと思うぞ?」
チートキター!
「あと肉体も新しい物を用意することとなる。年齢は一〇歳じゃ」
「そうか、ついでにイケメンにしてくれたって構わないんだぜ?」
さりげなぁ~く要求してみる。
「いや、無理にとは言わないぜ? ただやってくれると嬉しいかな、ってくらいでさ。お願いしますどうかこの通り」
「……善処しよう。あとは……なにかあった気もするが、まあいいか」
いいのか?
「話はこれで終わりじゃ。達者で暮らすのじゃぞ」
「おうっ」
ロリ神は垂れ下がっていた紐を引く。
床にぽっかりと穴が開いた。
「いや、紐なんてなかったろ」
浮遊感、そして落下感。
新たな世界に思いを馳せつつ、俺は落とし穴へと落ちて行った。
イレギュラーをカットしました。