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*血の瞳

 それから3人は、外への扉に向かう。

「あれくらいで難しいの?」

 道すがら、真仁まひとが皮肉混じりに発した。

「頭が悪くて悪かったね」

 つばさはツンと言い放つ。

「今日は様子見だけにしなよ」

「1時間で戻る」

 青年が後ろにいたカイに発すると、彼は慣れた手つきで渡されたヘッドセットを右耳に装着し応えた。

「ホントに君も行くの?」

 真仁はヘッドセットを左耳に装着する翼に、念を押すように問いかけた。

「なんで僕にはそういう訊き方するかな」

 眉を寄せて不満げに口を開く。

 確かに翼も優秀なハンターではあったが、戒に比べるとまだ幼さが残る戦い方だ。

 そもそも、戒と比べること自体が間違っていると言えなくもない。

「君たちがいた頃の東京だと思わないこと。その記憶は一掃して」

「解った」

 戒のあと、翼は親指を立ててウインクした。

 扉の前で真仁と別れ、地上へ続く階段の突き当たりまで上る。

 そうして、先に地下に戻った真仁の合図を待った。

<OK、誰もいないようだ>

 ヘッドセットから響いた真仁の声に戒はリボルバーを、翼はオートマティック拳銃を右手に持ち、気配を探りながら駆け出した。

「離れるな」

「うん」

 真仁はカメラの映像から、2人を人のいない方向に誘導する。

 今回は空気を読む事と地形を肌で確認する事が目的であるため、戦闘はなるべく避けたい。

 戒のあとに翼が続く。

 外はすでに薄暗く、これから訪れる夜を伝える鳥の声が空に響き渡っていた。

「──っ」

 戒は苦い表情を浮かべて周囲を見回す。

 確かに、1年前より空気は重くなっていた。

 肌に伝わるピリピリとしたしびれは、緊張感からなのか、この場の気配からなのかを計りあぐねている。

 この先には武器屋があったと記憶している戒は、気配を配りつつ足を進めていく。

 表向きは雑貨店だが、その裏ではハンタードッグたちに武器を売っていた店だ。

「!」

 戒は、目に映った光景に少しばかり息を呑んだ。

「予想していた事とはいえ」

 やはり痛々しいな……とつぶやく。

 店のシャッターは破られ、中の商品はことごとく奪われて散らばっている。

 武器が置いてあったのは店の奥、カウンター向こうにある扉を開けた先だ。

 きしむ扉をゆっくり開き、見えた景色に目を細める。当然のように武器は全て奪われ、床には血の跡がどす黒く染みを作っていた。

 この店はクローンを店員として使っていた、狙われないはずはない。

 人はどこまでも残酷ざんこくになれる事を、戒はよく知っている。

 自衛隊の特殊部隊にいた頃──仲間の数人が精神病棟に入った。まともにいられた自分に、自嘲気味に笑ったのを覚えている。

 極秘任務を主とする戒のいた特殊部隊は、海外での活動がメインだった。

 そこには、おおよそ想像もつかない光景が広がっていた。

 クローンの扱いはかなり酷く、何度も目を背けたくなる衝動を必死に抑え任務を遂行するのは至難の業だった。

 どれほど日本が平和なのかを、まざまざと見せつけられ思い知らされた。

「……」

 思い出し、眉を寄せる。

 血が固まったような赤黒い瞳は、獣が声もなく鳴いているように目の前の部屋を映し出していた──

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