*区別は必要か否か
「しっかりトレーニングやってたことはカメラで見て解ったよ」
真仁の言葉に、いくつかのノートパソコンの画面に目をやる。
映し出されているのは外の風景のようだ。
「牧場で使ってたカメラは、ボクが有効に使わせてもらってる」
日本から逃げた企業の資材を、青年は一切合切回収し使用していた。
彼らしいといえばらしい行動に、戒は笑みを浮かべる。
そのあと、苦い表情を浮かべ1人の少年に目を移した。
「一つ訊く」
「なに?」
「どうしてあの少年を迎えに使った」
その口調には、少しの怒りが見て取れる。
年端もいかない子どもを使った事に、戒の声は自然と低くなった。
「彼が君たちを迎えに行きたいってきかなかったんだ」
「昴といったか」
15歳か16歳ほどの少年は、他のノートパソコンを操作している。
「他の人を使うより、ボクにとっては楽な部分もあるよ」
真仁の言葉に眉をひそめた。
そしてすぐ、「! まさか──!?」
言葉の意味に気付いて少年を見やる。
「彼はクローンだよ。ボクの所有物なの」
まだ牧場が運営されていた頃に、戸塚から送りつけられてきたクローンだ。
「ボクはゲイでも少年趣味でもないのにねぇ」
小さく溜息を吐き出す。
放っておけば政府に殺処分されてしまうため、真仁は仕方なく所有物申請をして自分の家に置いた。
「識別コードを見なければ、ボクたちと何ら変わらないよ」
クローンには必ず、識別するチップが埋め込まれている。
そして生殖能力を奪っているため、風俗店では重宝されていた。
「……」
聞いた戒は、いぶかしげに少年を見つめる。
少年は何の違和感もなく、ノートパソコンをいじっていた。
本来なら、クローンがそこまでの知識を有している事は驚きである。
大抵は、主人である人間が自分の満足する程度までを教育する。
「見分けがつかないのが当り前なんだけどね」
真仁は再び溜息を吐き肩をすくめる。
「彼らはボクたちと同じ人間なんだから、どうして区別する必要があるんだか」
苦笑いを浮かべた青年は戒を一瞥した。
「今はまだ区別する必要があるから、ボクもそうしてるけど」
本当はしたくない──そんな言葉が続くのだろう。
途切れた言葉に戒は小さく笑んだ。
「部分的クローンが出来ればいいんだけどね」
真仁のひと言は、その難しさを表している。
それに対しての確立はされている、しかし安定させる事が出来ないでいた。
腕を作成していたはずが、いつの間にかそれは別のものに造り替えられている。
「人、1人を作り出す方が簡単なんだよねぇ」
「それはそうだろう。設計図は全体として作られているものだ。分解するならば、分解して個々になる設計図を新たに加えなければ」
「! 上手いこと言うね」
部分的作成が成功しているのは、他の生物にその設計図を加えているためだ。
何もない処からそれのみを造り出す事は、このうえもなく困難で研究は進んでいない。
「途中までは順調なんだよ。でも移植可能な段階になる直前に安定性が失われる」
生物からの部分的クローンは成功しているが、それではコストと需要が追いつかない。
生物に癒着させるという事は、成長速度を早める事が出来ない。
「成長促進の方が先に可能になるなんてねぇ。皮肉なもんだ」
「仕方がない。促進は出来ても若返らせる事は出来ないんだからな」
「ある程度までは若返りは可能だよ。何度も繰り返す事は出来ないけど」
「あのね、2人とも」
近くで聞いていた翼は目を据わらせた。
「難しい話、しないでくれるかな」
脳が溶けそうだよ……頭を抱え、深い溜息を吐き出した。