*新たな目
「よし、出来た」
真仁は溜息を吐き出し、その機械を戒と翼に手渡した。
「! これは」
「特別仕様だよ」
小さなディスプレイの付いたヘッドセットを見やる戒に応える。
「敵味方識別コードと、登録されている全てのクローンコードに赤外線とサーモグラフィ内蔵。もちろん通信機能もバッチリ」
「どうやって敵の判別を?」と翼。
「戸塚の所にいるハンターたちは専用の通信機を支給されているんだ。その電波を識別して表示する」
「ほう……」
戒は懐かしい機械に目を細め、その感触を確かめる。
「中には殺したハンターからその通信機を奪っちゃう人もいるけど、間違って殺してしまっても君たちの責任じゃないからね」
「!」
しれっと発した真仁に翼は視線を上げた。
「悪いけど今は戦いだ。1つや2つの命に構ってはいられない。全てはボクの判断だ、非を負う必要は無いから」
そんな真仁の言葉に、戒と翼は互いに見合い溜息を吐き出す。
「お前に責任をなすりつけるつもりはない」
「もとより、そんなのは解ってることだよ」
何を今更……と2人は笑って肩をすくめた。
「そうだったね、君たちは優秀なハンタードッグだったことを忘れていた」
ヘッドセットのチェックしといてね。
言って真仁は離れていく、リーダーは何かと忙しい。
「ねえ、戒」
「ん?」
ヘッドセットをチェックしながら、同じく確認している戒に質問してみた。
「真仁ってどういう人?」
「さあな。俺も詳しくは知らん」
「聞いてる限りでは、なんかかなりの人物っぽいんだけど」
ヘッドセットを左耳に装着して続ける。
「噂じゃあ政府の高官にコネがあるとか」
戒は右耳に装着し応えた。
「ふうん……わっ!?」
スイッチを入れた翼は、ディスプレイにいくつもの数字が重なって表示され驚いた。
ここにいるクローンたちのコードらしい。
「なるほど、こいつが味方識別コードか」
戒は冷静にスイッチとディスプレイを確認していく──クローンコードは灰色、味方は緑、敵は赤で示されるようだ。
ノートパソコンの横にある見慣れない携帯ほどの大きさをした、通信機らしい機械に赤い文字が示されている。
味方のコードは、ヘッドセットから出されている電波だろう。
戒は勝手にそう推測し、他のフィルタを確認する。
「ねえ」
翼は少し声を張り上げて真仁を呼んだ。
「なんだい?」
「電波って敵に探知されたりしてないの?」
「ああ、それなら問題ないよ。色んな電波をあちこちで流してるから、傍受しようとすれば攪乱されるだけさ」
真仁の返しに口笛を鳴らす。
「通信は毎回、違う暗号で発信される。問題はないだろう」
ヘッドセットをいじりながら戒が発した。
「! なんで知ってるの?」
「それが基本だ」
目を丸くしている翼に鼻を鳴らす。
元自衛隊の特殊部隊に所属していた戒は、こういう機器に関してはエキスパートと言っていい。