*希望
「戒!? 戒か」
聞き覚えのある声に振り返ると、大柄な40代半ばの男が笑みを浮かべてこちらに歩み寄ってきた。
「! 怜」
「翼もいるのか!」
「久しぶりだね」
怜という男の周りに、2人に見覚えのある面々がずらりと並ぶ。
「真仁に従ったのか」
戒が感心するように発すると、怜たちは小さく頷いた。
「確かに、俺たちは今までクローンを殺してきたが、他のやつらがそれをやっちゃいけねぇよ」
自分たちのしている事が良い事だとも、ましてや正義だとも思っていなかった。
それは、ただの人殺しに他ならない。血に染まった手を見つめる己の姿など、誰が良しとするだろうか。
「俺たちは自分のしてきた事を解っているからいい。だが、一時の感情でクローンを殺す事は間違ってる」
怜は喉の奥で舌打ちした。
「政府は今の状態を収拾しきれず放置状態なんだ」
真仁が説明を続け、ハンターたちは苦い表情を浮かべる。
「で、ボクたちは擁護派と呼ばれていてね。クローンを殺している人たちは強硬派と呼ばれているんだ」
「まさに二分された訳か」
戒は低くつぶやいた。
「じゃあ、向こうにもリーダーがいるんだ」
「強硬派のリーダーは戸塚という男だよ」
翼の言葉に真仁は、若干の薄笑いで応える。
「! 戸塚?」
戒は、その名に眉を寄せた。
「君は知ってるんだったね」と真仁。
モニタールームで、戸塚の画像を見せながら愚痴をこぼした事を思い出す。
「向こうにも向こうのハンターがいてね。良ければ手伝ってくれないかな」
笑みを浮かべつつ、瞳を険しくして戒を見つめた。
元特殊部隊にいた戒は、ハンタードッグとしても優秀だった。その彼が加われば、真仁たちはかなり優位に立てる。
「もちろん、断ったからといって君たちを責めるつもりはないよ。こんなコトを頼むボクがおかしいんだから」
いつもの微笑みだが、その声色にふざけた様子はない。
しばらく真仁を見下ろし、翼を一瞥した。
それに気づいた翼は、小さく溜息を吐き出し肩をすくめる。
「僕に気を遣うのは止めてよね。兄さん」
「! 兄さん?」
目を丸くして戒と翼を交互に見やった。
「なんだ、恋人じゃないの」
「誰がだよ」
真仁のおかしな発想に翼は頭を抱える。
「戒を追いかけていったから、てっきりそうだと思ってた」
「お前の頭の中はどうなっているんだ」
さすがに戒からも溜息が漏れる。
翼は戒を兄のように慕い、戒がハンターを辞めるとそのあとを追いかけたのだ。
「戒が僕のことを考えないなら、真仁に協力しているんだろ? それは僕も同じ考えだ」
死ぬことは怖くない。僕は戒の行く方向に進む──翼は凛とした瞳で発した。
大きな瞳で見上げる翼に驚き、その鋭い瞳を一度、瞼に隠した。
「詳しく教えてくれ」
戒の言葉に、そこにいたハンターたちはワッ! と歓声を上げた。
「ありがとう。改めてよろしく」
真仁は緩やかな笑みを浮かべ、戒に手を差し出す。
戒もそれに応え、握手を交わした。