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踊れ その果てでⅡ<ケルベロスの牙>  作者: 河野 る宇
◆最終章~螺旋は踊る
31/32

*素晴らしきもの

 それから一度、深呼吸をして水の入ったグラスに手を伸ばす。

 ひと口含んで続けた。

「お金もあるし、力も持ってるボクにその企業は喜んで手を出してきた」

 戸籍を調べてもどこにも不備はない。

「ボクのコードは特別なチップだから、特別なプログラムじゃないと表示されない」

 デスクに置かれたヘッドセットを手にして発する。

「……」

 カイ真仁まひとをじっと見下ろした。

 今までの違和感と不自然さが、あたかもジグソーパズルが組み合わさっていくにようにつながった。

「ボクの本当の名前はね、真の人と書いて真人まひと

 でも、ボクは完璧じゃない。

「そもそも完璧って何さ。そんなのあるはずがない」

 無い物ねだりだよね、真仁は戒を見上げて笑う。

「完璧なものに何の魅力があるんだろう」

 世の中は完璧じゃないからこそ、素晴らしいんじゃないか。

 ──そんな真仁の言葉は、初めて感情を表しているように戒には思えた。

「言わなくても君は訊かなかっただろうけどね」

「!」

「1人くらい知ってて欲しいじゃない。ボクのこと」

 小さく笑んだ表情には、少しの愁いが窺えた。

「満足したかい?」

 いつもの顔に戻った真仁に戒は口の端を吊り上げ、後ろに視線を投げて応える。

「だ、そうだ。つばさ

「!?」

 翼はビクッと体を強ばらせ、立ち上がってバツの悪そうに頭をかいた。

「2人のおかげで戸塚も倒せたし。ご苦労さんだったね」

「ホントだよ、あんなのはもうこりごり」

 溜息を吐きつつ肩をすくめる。

「なかなかの演技だったな」

 戒が皮肉混じりに発すると翼は、「うげぇ~」と舌を出した。

「男とのキスや添い寝なんて金輪際こんりんざい、嫌だからな」

「! 戒と?」

 真仁は羨ましげに翼と戒を交互に見やる。

「何がいいのかわかんないよ」

「戒だからいいんじゃないか」

「それがよく分かんない」

 げんなりして言い放った翼に真仁は小さく笑う。

 そして、話を戻した。

「戸塚が死んだあと筒井があとを引き継いだけど、長くは続かないだろうね」

「なんで?」

 翼は首をかしげた。

 戸塚という男と数日接したが、何故あの男がリーダーとして務まっていたのか不思議で仕方がない。

「戸塚は確かに人として最低だったけど、人を集める能力にかけては優秀だったんだ」

 筒井は人を動かす能力に長けてはいるけど、集める能力には欠けている。

「スペアのなくなった敵が定数のまま戦うボクに勝てると思う?」

 真仁は無表情に言い放ち、口の端を吊り上げた。

「……」

 戒と翼は互いに顔を見合わせ、真仁に肩をすくめる。

「解ればよろしい」

 青年は得意げに薄笑いを浮かべて、ヘッドセットを分解した。

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