*ニュートラル
「戸塚は倒したけど、まだ終った訳じゃない」
帰ってきたハンターたちに真仁はそう告げ、これからも協力してくれるように願った。
もちろん、ハンターたちはそれを了承する。
その夜──いつものようにパソコンをいじっている真仁に、戒はウォッカの小瓶を手に歩み寄った。
そんな戒に、真仁がヘッドセットを差し出す。
「!」
「チェックよろしく」
言われてヘッドセットを受け取り、右耳に装着して起動させる。
「っ!?」
そこに映し出された文字は戒を驚かせた。
そんな男を真仁はいつもの微笑みで見つめ、つぶやくように問いかける。
「ボクのことが知りたいんだろ?」
君のおかげで予想よりも早く収束しそうだから、ご褒美として教えてあげる。
真仁は足を組み、デスクに片肘を突いた。
「──っお前は何者だ」
驚愕に目を見開き、ヘッドセットを外す。
そこに映し出されていたものは、真仁に示されたコードだった。
だがクローンではない、そのコードはクローンのものではなかった。
じゃあ一体、何のコードなんだ?
「それは、ボクだけに埋め込まれているただ1つのコードだよ」
戒を一瞥し、少し躊躇う言葉を切ったあと青年は暗闇に視線を向けた。
「ボクは、言わば人間とクローンの中間に位置する」
「どういうことだ」
怪訝な表情を浮かべた戒に視線を合わせず青年は一度、目を閉じて語り始める。
「クローンが成功するとね、科学者というものはそこから造り出そうとするんだよ」
『天才』という人間を──
「ボクの祖父という位置にいた科学者は、優秀な人間から採取した細胞をさらに遺伝子操作し、クローンを作製した」
話がまだ見えてこない戒をちらりと見て、再び闇に目を移す。
「その中から優秀なクローンだけを見繕い、大幅な成長促進をして男女の“つがい”にした。解るかな? 子どもを生ませたんだよ」
「!? まさか──」
「飲み込みが早くて助かる。それがボク」
完璧な人間を造りたかったんだろうね、真仁は淡々と続ける。
「でも、そのクローンたちは無理な遺伝子操作と成長促進のために、ボクが10歳になる前に死んでしまったよ」
その科学者はクローンたちを自分の息子や養女とし、真仁を孫として戸籍を作成していた。
「祖父である科学者は5年以上前に病気で死んじゃったけどね」
科学者のスポンサーだった内の1人がそのまま真仁を引き取り、自由気ままに生活する事が出来た。
「何故ボクを引き取ったかは解ってる」
祖父の研究が成功したかを確かめるためだ。
そのために意図的に真仁を自由にさせていた事も知っていた。
「大富豪っていうのは、政財界ともつながっている。だから、ボク自身にもある程度の力が使えたってワケ」
薄笑いを浮かべて肩をすくめた。
「いま考えると、一度くらいグレてても良かったかなって思うよ。この年ではさすがにもう恥ずかしくて出来ないけど」
笑んだあと、やや表情を険しくさせた。
「そんな時に、ある企業の話が伝わってきたんだ」
調べるためには組織を作らなくてはならない。
「大変だったよ。組織をここまでにするのはね」