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踊れ その果てでⅡ<ケルベロスの牙>  作者: 河野 る宇
◆序章~暗き世界の閃光
3/32

*赤に染まった日

「どういう事だ」

 カイは改めて見回し、真仁まひとに向き直る。

「あれから1年、突然の呼び出しに驚いて来てみれば」

「君たちが日本を離れてすぐだったかな」

 20代後半の青年は腕を組んで小さく笑みを浮かべた。

 真仁は地下鉄の次の駅に続く線路の先……暗闇を見つめながら語り始めた。

「クローン狩り」を行うための「牧場」を運営していた企業のトップ、数人が国際手配された。

 金持ちの道楽のためだけに造られたクローン牧場──生活のために細胞を売った人間たちのクローンを造り、一部の金持ちが楽しむために殺しを行う場所を「牧場」と名付け、「どんな望みも叶える」というエサをぶら下げてハンタードッグという仕事を作り上げた。

 牧場の場所は首都の近くにある。元々、飛行場を造る予定だった土地だ。

 計画が頓挫したと同時に遺伝子を扱っていたアメリカの企業に買い取られ、非合法で運営されていた。

 非合法ながらも運営が可能だったのには、政府の中にその企業から金を受け取った者がいたという事だろう。

「いい加減、放ってもおけなかったんだろうね」

 暗い線路の先を見つめて真仁がつぶやく。

 その企業は世界各地で雑多な犯罪を続けていたがアメリカの企業であったため、合衆国は諸外国との外交問題に発展する事を避ける目的で国際手配という手段をとった。

「そのあと、やはりクローンは問題だと言いだした政府の人間が出てきた」

「当然の反応だろうな」

 ぼそりと戒が応える。

 真仁はそれに苦笑いを浮かべて一度、目を閉じた。

「それだけなら良かったんだけどね」

 開いたまぶたから現れた瞳は、愁いを帯びている。

「クローンは禁止にすべきだ」という風潮ふうちょうが高まったのをきっかけに、日本は狂い始めた──

「その政治家は、国民の声を後ろ盾にしてクローン排除を訴えた」

 日本に存在しているクローンを全て殺処分し、作成途中のクローンも例外を問わず処分するという、暴挙とも言うべき発言を国会で繰り返した。

「全て!?」

 つばさは息を呑んだ。

 日本にいるクローンは、ざっと数えただけでも数百万から数千万体いると言われている。

 戒の眉間にも深いしわが刻まれ、真仁の次の言葉を待った。

「もちろん、反対した政治家も多い。だけど、国民がその前に動いてしまったんだ」

 突然に始まる殺戮の世界──

「クローンは死ね!」と叫びながら、マシンガンの引鉄ひきがねを引いた男を皮切りに、血塗られた国へと変貌していった。

「それまで牧場はボクが管理していたんだけどね。手当たり次第に殺していく奴らが入ってきて、今はここに居を構えているってワケ」

 真仁は、放置されていたクローンたちに少しずつ教育を施し、生きていけるすべを教えようとしていた。

 しかし、クローンの存在が日本を二分にぶんした。

「真仁はクローンたちを殺さなかったんだね」

 翼は青年を見つめた。

「牧場は潰れちゃったんだし、殺す意味が無いだろ? それに、今いるクローンたちを何故、禁止したいからと殺す必要があるの」

 禁止はこれから作成するクローンだけにすればいい……真仁は声を低くして発した。

「例外だってあっていいハズだ」

 子どもの産めない夫婦には、希望を与えるものでもあるはずなのだから。

 真仁の言葉に、戒はしばらく沈黙していたが、ふいに口を開く。

「お前は初めから、こうなる事が解っていたのか」

「えっ!?」

 翼は戒の言葉に驚いて真仁を見やる。

 青年は応えずに、男を見つめて薄く笑みを浮かべた。

「ずっと不思議に思っていた」

 何故こんな企業に加担していたのか──他の組織と違い、ハンタードッグたちに苦しむような殺し方をどうして望まないのか。

「派手にしろ」とは言われていたが、「苦痛をもっと与えろ」とは一度も言われた記憶が無かった。

「さて、なんのことかな?」

 真仁は薄笑いを浮かべて、ゆっくりとそう応えただけだった。

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