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踊れ その果てでⅡ<ケルベロスの牙>  作者: 河野 る宇
◆第8章~幕は下ろされた
28/32

*口火

つばさは」

 投げ渡された武器を装備しながら辺りを確認し、ヘッドセットに問いかける。

<こっちに向かってる姿を捉えたよ>

 青年の声を聞きつつ周囲を見回すと、戦況は思わしくないと窺えた。

 そんなカイのヘッドセットに低い声が響く──

<戒、聞こえているか>

「!?」

 その声に目を見開き、ヘッドセットに指をあてた。

水貴みずきか」

<翼のヘッドセットから発信されている>

 真仁の声が流れ、そのすぐあとに水貴がゆっくりと発した。

<今から言う場所に来い>

「水貴……」

 戒は立ち上がり、遠方を見やった。

<行くのかい?>

「どうやら決着をつけたいらしい」

<無茶だけはしないようにね>

 真仁の心配げな声色に、戒は小さく笑んで駆け出した。



 荒廃した建物と、崩れた壁に囲まれた敷地──

「おい! いい加減にしろよな!」

 鉄骨に手錠でつながれている翼が、目の前の大きな男に声を張り上げる。

 遠くで銃声が微かに聞こえていた。

「黙ってろ」

「何バカなこと考えてんだよ! 今はそんな状況じゃ──っ」

「黙らないと突っ込むぞ」

「っ!?」

 ギロリと睨まれた翼は青ざめて押し黙った。

「ヘンタイ!」

「本当に突っ込まれたいか、ガキ」

 瞳を潤ませて叫ぶ翼に水貴は目を据わらせ、呆れたように低く言い放つ。

「そんな趣味なのか」

 意外だな、という声に口角を上げて振り向いた。

「逃げずによくも来た」

 水貴はショットガンを手に戒を見やる。

 そうして互いに見合い、何かの合図を待つように沈黙が続いた。

「──っ!」

 ふいに軽い音が2人の耳に届くと、戒と水貴は同時に武器を手に駆け出す。

 空に響く銃声は2人の力が互角だと示していた。

「チッ……」

 戒は壁に身を隠し手のリボルバーを見つめる、こいつでは水貴の体に深い傷は刻めない。

 鍛え上げられた体に突き刺さる威力は……。腰の背後にあるオートマティック拳銃に手が伸びる。

 大きめのグリップはその威力の高さを示している。

 だが──戒は眉間のしわを深くした。

 威力が大きいという事はその反動も大きい。相手にしっかりと当てるためには、やはり今までよりも構えて引鉄ひきがねを引かねばならない。

 ヘタなハンター相手なら問題は無いが相手は水貴だ、その一瞬のを見逃すとは思えない。

「威力はあっても使えんか」

 水貴なら問題なく扱えるんだろうがな、と考えながらデザートイーグルを仕舞った。

 そもそも相手は今、ショットガンを持っている。こちらとしては反則に近い武器だ。

「どうした。ずっと隠れているつもりか?」

 水貴は己の体に自信がある。

 戒とは違って何も盾にする事なく、彼が隠れている壁に少しずつ足を進めた。

 ショットガンの銃身の下部にある部品をスライドさせ、不敵な笑みを浮かべる。

「戒っ!」

 翼はその光景を見つめるしかなかった。

 あの体格差は詐欺だと冷や汗を流す、戒は鍛えていると言っても筋肉を増やすためのトレーニングではない。

 柔軟に素早く動けるようにするためのものだ、それが繊細な武器の操作を可能にしている。

「……っ」

 まともにぶつかっても勝てる相手じゃない、近づいてくる足音を聞きながら戒は思案した。

 意を決して壁から駆け出す。

「!」

 飛び出してきた戒を見やり、その手にあるハンドガンに口の端を吊り上げた。

「そんなものが当たるとでも思っているのか!」

「チッ……」

 やはり避けられてしまう。

 放たれる散弾を転がって避けるが、徐々に間合いが詰まっていくのをどうする事も出来ずにいた。

 デザートイーグルを捨て、リボルバーに持ち替える。

 相手も散弾を使い切ったのか、乱暴にショットガンを捨てるとハンドガンを手にする。

 こちらは銃弾がかすっただけでも危険だというのに、相手の水貴は切れるようにかすめる銃弾を意に介す事もなく近づいてくる。

「化け物め──っ」

 リボルバーにカートリッジを再装填さいそうてんしている暇は無い、使い切ったリボルバーを捨て別のリボルバーを取り出した。

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