*哀しみの微笑み
次の朝──戸塚は翼を呼び出し朝食を共にする。
「いくらでも食べたまへ」
先日よりも戸塚の触れる手がエスカレートしているが、約束した以上は仕方がない。
我慢して料理に手を伸ばし、その味に笑みを浮かべると戸塚も嬉しそうに笑う。
扉のそばでガードついでに見ている筒井は、気持ち悪い光景に目を逸らした。
そうして食事を終えた翼は、昨日と同じように料理を手に部屋に戻る──それを確認した戸塚はモニタールームに向かう。
部屋の前に到着すると、後ろにいる筒井に目配せしてドアを開いた。
しばらくして翼の部屋にノックの音が響く。
入ってきたのは、筒井と見知らぬ男が1人──
「戒を借りるぞ」
怪訝な表情をしている翼に無表情に発した。
「! なんで!?」
翼は思わず立ち上がる。
「終ったら返してやる」
「痛いコトしないでよ」
乱暴に連れて行かれる戒を見やって発する。
「解っている」
口の中で舌打ちをして応えた。
戸塚は、モニタールームで今日の戦闘風景を見つめていた。
真仁側は平静を装うように銃撃戦を繰り広げているが、その戸惑いは微かに見て取れる。
戒という強力な戦力を無くし、強敵の水貴を相手にしなくてはならないのだから。
戸塚はニヤリと口角を上げ、通信機を手に取った。
地下──
<この声が聞こえているか>
真仁は、聞こえてきた音声に眉を寄せた。
「!」
真仁と会話を交わしていた烈も驚く。
簡単な無線機でも受信出来る波長で流されている、それが戸塚だと理解するのに時間はかからなかった。
<戒は預かっている。返してほしければ1人で来い>
「! 戒が!?」
烈は、目を丸くして真仁を見やった。
「……」
真仁は苦い表情を浮かべて、思案するように押し黙った。
「!? 真仁君、まさかきみっ」
おもむろに立ち上がった真仁を見上げる。
「ごめんね、途中で投げ出すようなコトになって」
老齢の男に愁いを帯びた笑みを浮かべた。
「!? まっ、待ちなさい!」
出口に向かう真仁の背中に手を伸ばしたが、金属の扉は無情にも開かれた。