*ディスプレイの向こう
食事を済ませ、翼は戒の分の料理を手に部屋に戻っていく。
筒井はそれを確認すると、2階にあるモニタールームに入り様子を窺った。
<戒の分だよ>
<……>
<いつまで反抗するのかな、食べなきゃ口移しで食べさせちゃうぞ>
「はあ~……」
恋人同士のいちゃつきに聞こえて筒井は頭を抱えた。
<翼、何故だ>
<何度も言ったハズだけど>
青年の声が低くなる。
<よく考えろ。今はこんな事をしている時では──>
<どうでもいい>
<何?>
<戒さえいれば周りなんてどうでもいいんだよ>
翼の語気が強くなった。
<戒がいれば何もいらない>
「……」
か細く発した翼に筒井は目を細める。
ディスプレイには、やはり戒の前でしゃがみ込みその太ももに頭を乗せる翼の姿が映っていた。
翼は夕食にも呼ばれ、相変わらずの戸塚の手に顔をしかめる。
ハンターであるにも関わらず、その少年ぽさに戸塚は惹かれたのかもしれない。
しかし、翼にとっては気持ち悪い相手でしかないが、今の状況から文句は言っていられない。
「歯ブラシ2本ちょうだい」
「ああ、後で持っていかせよう」
翼はそれを確認し、料理を手にして部屋に戻る。
<はい、アーン>
「……」
筒井は、ディスプレイに映る映像にバカらしくなってきた。
なんでこんなものを見ていなくてはならないんだ……足を組み、片肘を突いて横目に眺める。疑う余地などまるでない。
「!」
そういえば、寝る時はどうするんだ? 筒井はふと、そんな疑問が過ぎりやや身を乗り出した。
食べ終わると、翼は戒の手錠を片方だけ外し2本の歯ブラシを持って洗面所に向かう。
しばらく水音が響き、2人が戻ってきた──戒の手錠は前でつながれている。
「……?」
筒井は気になってさらに身を乗り出した。
すると翼が乱暴に戒をベッドに突き飛ばすように転がし、自身もベッドに体を預ける。
「は、なるほどね」
男は苦笑いを浮かべ、呆れたように顔を覆った。
青年は前につながれた男の腕の間に潜り込み、その胸に顔を埋めていた。
「戒に腕枕してもらうの初めてかも」
「……」
にこやかな翼に眉をひそめる。
「何を言っても無駄だからね」
戒の目を見て言い放つ。
「翼──っ」
決意の眼差しに、戒は言葉を詰まらせた。
「戒がいれば何もいらない。世界がどうなったって構わない」
青年は静かに目を閉じた。