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踊れ その果てでⅡ<ケルベロスの牙>  作者: 河野 る宇
◆第7章~終焉の序章
24/32

*馬にニンジン

 戒の膝の温もりを感じていた翼の耳にノックの音が響く。

「何か用?」

 開けた扉から顔を覗かせる筒井に眉を寄せた。

「戸塚が呼んでいる」

 ぶっきらぼうに発し、来るように顎で示す。

「仕方がないな」と翼は小さく溜息を吐き出した。

 戒に視線を送り、念を押すように口を開く。

「逃げようなんて思わないでね。こっから逃げるなんて無理なの解るよね」

「翼!」

 戒の呼び止める声に反応せず、筒井の後ろに続く。

「戒に触ったらだめだよ」

 無言で前を歩く筒井に翼は少し背中に睨みを利かせた。

「解っている」

 ボディチェックで何も持っていない事を確認している状態でわざわざ男に触ろうなどと思うものかと、筒井は眉を寄せる。



 そうして一際、豪華な扉の前で立ち止まった筒井は軽く扉を叩く。

「入れ」

 声のあとに扉を開き、翼を促す。

「何の用?」

 笑みを浮かべている戸塚に尋ねた。

「今何時だと思っているのかね。食事にしよう」

 その言葉に翼は目を輝かせた。

 リビングテーブルに乗せられている色とりどりの料理に駆け寄り、ジッと見下ろす。

「……凄い」

「好きなだけ食べていいんだよ」

 子どもに話すような口調でソファに腰掛け、翼にも座るように手を示す。

 翼は少しためらったが、目の前の料理に飛びつくように戸塚の隣に腰を落とした。

 サンドウィッチを手に取り、ほおばる翼の腰に手を回す。

「……」

 ちらりと戸塚を見やったが、気づかないフリをして食べ物にパクついた。

「戒にも持ってっていい?」

「いいとも」

 腰に手を回し、太ももをゆっくりとなで回す。

 翼は眉をひそめるが、目の前の食べ物の魅力には適わない。

「そんなに質素な生活をしていたのかね」

「ブロックフードばっかり」

 戸塚は鼻で笑った。

 そして、ソファの下に隠してあったボトルを取り出し翼の気を引くように揺らす。

「! それ……」

「シャンパンだ」

 手を止めてボトルを見つめる、深い緑のボトルは翼を誘うように中の液体を波立たせた。

 戸塚はそれを確認し、栓を抜くと小気味の良い音がして独特の香りが部屋を満たした。

 手渡したシャンパングラスに注ぎ、乾杯の合図を示す。

 青年はそれに軽く応えてシャンパンを一気に流し込んだ。

「!」

 ペロリと唇を舐めると、そのしぐさが可愛かったのか戸塚の口元はだらしなく緩んだ。

「戒の武器やヘッドセットはどうしたんだね」

 おもむろに戸塚が問いかける。

「壊した。真仁にバレないようにここまで来るの苦労したんだから」

 ピザを手に取っていた翼はちらりと一瞥して応えた。

「そうか」

 戸塚は、微笑みながら心の中で舌打ちする。

 持って来てくれていれば調べられたものをと少し苛ついた。

 真仁たちが使うヘッドセットは真仁がプログラムしたものだ、どのようなプログラムを組んでいるのかを知りたくてたまらないのである。

 翼はそういうものにはうとそうだ、そこがまた可愛くもあるのだが……と戸塚は妄想して口の端を吊り上げる。

 年の割には童顔な真仁もしぐさは可愛いとは思うのだが、組織間の付き合いをしている間の事は苛つく記憶しか思い出せない。

 頭が良すぎてかんさわる。そう思うと多少バカな翼が余計に可愛く思えた。

「……」

 戸塚の表情に翼はなんとなくムッとした。

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