*思慮
筒井は部屋出たあと、足早にモニタールームに向かう。
「どうだ」
言ってのぞき込んだディスプレイには、翼の後ろ姿とその前で椅子に拘束されている戒が映っていた。
<翼! 考え直せ>
<もう遅いよ>
ディスプレイに内臓されているスピーカーから2人の会話が流れる。
筒井はその光景に目を細め、苦い表情を浮かべた。
「どうだ」
遅れて戸塚が部屋に入ってくる。
「言い争っています」
「翼!」
戒は声を詰まらせ、無表情に見下ろす翼を見上げた。
「弟じゃなかったのか」
目を伏せてつぶやく戒に鼻を鳴らす。
「全然、疑わないんだね。僕は戒の傍にいたかっただけ」
例え弟としてでも構わない、戒の傍にいられればいい、離れるのだけは嫌だった。
「なのに、あいつは戒を呼び戻して僕から奪おうとした」
折角、僕のモノになったのに! 怒りを露わにして拳を握りしめる。
しかしすぐ、その表情を緩めて戒の前にしゃがみ込む。
戒の太ももに頭を乗せ、恍惚とした。
「戒がいなくなれば真仁はおしまい。こっちには水貴がいるからね」
「!?」
その言葉にビクリと体を強ばらせた。
それを確認するかのように顔を上げ、また可愛く笑う。
「でも、これで水貴とも闘わなくて済むね」
「翼! お前は自分が何をしているのか──」
「解ってるよ。充分にね」
「こんなことをしている状況では」
戒の言葉を遮るように、その唇を自身の唇で塞いだ。
「何を言っても、もう遅いんだよ。戒」
驚きの目で見つめる戒に薄く笑んで応えた。
「……」
演技ではなく、本当なのか?
その様子をディスプレイ越しに眺めていた戸塚は計りかねた。