*叫びと嘲笑
「あいつは、僕が戒の傍にいるのが気にくわないんだ。戒を自分のモノにしようとして僕を売るつもりだった」
「違う! それはお前の誤か──」
「何が違うって言うのさ!」
振り返り戒の言葉を遮った。
「戒は鈍感だから気がついて無いだけだ! 僕には凄くきつくて、戒には優しかった」
「……っ」
手錠の金属音が戸惑いを見せる。
「真仁がこの男を?」
戸塚は手を後ろで組み、まじまじと戒を見つめた。
「あんたは真仁を少年趣味だと思ってたみたいだけど」
「で、こちらに寝返ったという訳かね」
「寝返った訳じゃない」
「ではどういう事かね」
戸塚は眉をひそめる。
「戒を取られたくないからこっちに来ただけ」
戸塚は再度、戒を見上げた。
こんな男を奪い合っているのか……と眉間のしわを深くする。
「僕が嫌いなのは真仁だけ。だから仲間の情報は売らないよ」
「随分と勝手な言い分だな」
口の端を吊り上げて言い放つ。
「条件がある」
喉を詰まらせた翼に付け加えた。
「! 戒はだめだよ」
戸塚は「そんなものはいらん」とでも言うように左手を振り、翼に目を合わせて交渉を始めた。
「その男は君のモノだ。しかし、君がわたしのモノになるならここに置いてやってもいい」
「!」
翼は一瞬、驚きじっと戸塚を見つめた。
「……酷いコトしない?」
「もちろんだとも! 優しくしてやろう」
戸塚は両手を広げ、安心させるように笑顔を見せた。
「翼! 馬鹿なことは……っ」
「うるさいな! 戒は黙っててよ!」
多少、疑ってはいる戸塚だがこの様子は演技とも思えない。
ひとまず、筒井に視線を流し軽く手を示した。
「部屋をあてがってやれ。後でまたゆっくり聞こう。奥の部屋だ」
筒井はそれに無言で頷き、翼を促す。
翼は戒の腕を掴み、男のあとについて部屋を出て行った。
「……」
それを確認した戸塚は、数秒ほど険しい表情を浮かべていたが自然と笑みがこぼれる。
「こいつはいい」
戒という強力な戦力が失われた真仁は慌てている事だろう。
しかも翼まで手に入るとはわたしに運が向いてきた、これが喜ばずにいられようか。
「く、くくく……。はぁっはっはっはっ!」
翼は足の重い戒を無理矢理に引っ張り、筒井の後ろを追いかける。
案内された部屋に入ると、想像よりも豪華な部屋だった。
「わお」
口笛を鳴らし、部屋を見回しながら戒を引きずるように扉をくぐる。
「!」
目の前の椅子を見つけ、戒をそこまで引っ張り手錠を片方だけ外した。
「翼」
「黙ってて」
困惑している戒にぴしゃりと言い捨て、強引に座らせる。
そして、戒の腕を椅子の背もたれに回して再び手錠をかけた。
「これでやっと真仁から離れられた」
翼はニコリと可愛い笑顔を戒に降ろす。
「あとで呼ぶ」
筒井はそれを眺めてそれだけ発すると扉を閉めた。