*2人の男
「や、日本も危険になったよねぇ」
呑気な声と共に20代前半と思われる青年が顔を出す。
さらりと背中まで伸びた黒髪を後ろで1つに束ねた、可愛い顔立ちの青年だ。
暗緑色のカーゴパンツと黒いベスト着こなし、その手にはオートマティック拳銃が握られていた。
「安全な時などあったか?」
30代後半、40代間近のコートの男はしれっと応えた。
そして周りの気配に気を配りながら、手にしているリボルバー銃を左脇に仕舞う。
太陽の光にあせたような黒髪に、赤みがかった黒い瞳は鋭い。
「あ……」
か細い声に2人は振り返ると、ドラム缶からこちらを見つめる少年がそこにいた。
「あ、あの……戒さんですよね」
怪訝な表情を向ける青年と男に少年は恐る恐る近づき、コートの男に目を向けて発する。
「こちらが翼さん」
「僕のコトも知ってるの?」
薄汚れたTシャツと黒いソフトデニムのジーンズを履いた幼い顔立ちは2人を怖々(こわごわ)と見上げていた。
「俺たちのことを何故、知っている」
赤黒い瞳が少年を見下ろすと、
「説明はあとで、とりあえずこちらに」
やや急くように2人を促した。
戒と翼は互いに顔を見合わせ、警戒を緩める事となく背中を追う。
しばらく歩くと、少年は若干の警戒心を見せて周囲を窺い、地下鉄の入り口に吸い込まれるように入っていった。
それに従うと、階段の途中で頑丈な合金製の扉があった。
2人は不思議に思ったが、よく見ると災害時用の遮断扉だと気がつく。
どうやら、この地下鉄は利用されなくなって久しいようだ。
いたる場所にカラースプレーの殴り書きがされ、ゴミが散乱している。
少年は、重々しく扉を3回ゆっくりと叩いた。すると、扉の向こうから「誰だ」と男の声が響く。
「昴です。連れてきました」
応えると、細長い窓に取り付けられている金属の板が軽い音を立ててスライドし、ギョロついた目が3人を数秒ほど見やると鈍い音を立てて扉が開いた。
2人は、昴と名乗った少年に促されるまま扉をくぐると、40代ほどだろうか、薄汚れたサンドカラーのパンツに水色のTシャツを着た小太りの男が2人を睨み付けた。
次に視界を捉えたのは大勢の人間──老若男女問わず、壁に寄り添うように毛布を敷いてしゃがみ込んでいる。
入ってきた見知らぬ2人を、いぶかしげに見つめた。
少年に再び促され、たどり着いた先は駅のプラットホーム──薄暗いホームの端に一際、明るいヶ所がある。
よく見るとノートパソコンの明かりのようだが、それを取り囲むように数人の人間がいるのが解る。
その中の1人に戒は眉を寄せた。
「……真仁?」
その声に気がついた青年は静かに振り返り、懐かしい姿に笑みを浮かべた。
「やあ戒。それに翼クンも」
両手を広げ、歓迎するように歩み寄る。
「えっ真仁!?」
翼は驚いて思わず声を上げた。