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踊れ その果てでⅡ<ケルベロスの牙>  作者: 河野 る宇
◆第4章~閃光の先
16/32

*神に祈るのは──

 戸塚は、数人の男から滅多打ちにされている1人の男を冷たく見つめる。

「……」

 ひと通り満足したらしく、高価な椅子から立ち上がると窓の外を眺めた。

 声もなく倒れている男を他の男たちが両腕を抱えて連れていく。

 筒井はそれを一瞥すると、戸塚に視線を移した。

 こんな情勢で自分の趣味にこだわる戸塚に呆れるが、彼に逆らう事は出来ない。誰だって今の男のような目には遭いたくはない。

 流れ弾がたまたまつばさという青年に当たっただけだろうに、その責任を取らされて袋叩きなんて笑えない冗談だ。

 あの青年が死んでいたらどうなっていたのか──折角の戦力が1人減る事になっていたかもしれないと考えると溜息が漏れるばかりだ。

 相手にはカイという強敵がいるというのに……筒井は苦い表情を浮かべた。

 そんな筒井の心配をよそに、戸塚はまったく別の事を考えていた。

「戒、目障りな奴だ」

 敵としてではなく、翼の近くにいる事にだ。

 翼があの男を慕っているのは知っている。あの男のせいで、いくら「ポイントを倍にしてやる」と持ちかけても自分の組織に来なかったのだ。

 当然、翼は戸塚の個人的な理由で引き抜きに遭っていた事など知るよしもない。



 地下──

真仁まひと

「!」

 包帯を巻き終わった翼が肩を押さえながら声をかける。

水貴みずきがいたんだって?」

「うん」

 2人は表情を曇らせる。

「彼が契約していた組織が戸塚側に付いた事は知っていたけど、まさか彼も戻ってきていたとは思わなかった」

 足を組み、思案するように唸る真仁を見下ろす。

「真仁から見て……勝てる?」

 戒は──という言葉を飲み込み、真仁を見つめた。

 翼の視線には合わせず、しばらく宙を見つめて言葉を選ぶ。

「難しいね」

「!」

「彼は戒とは違ったタイプの兵士だけど、レベルは互角だ」

 戒は細身を活かした戦い方だが、水貴は体格が良い。

 戒からすれば、重戦車を相手にするようなものだ。

「分厚い装甲を貫くのは至難の業だよ」

 ちょっとやそっとの攻撃じゃ倒れない、水貴は今までそうやって闘ってきた。

「水貴ってクォーターだっけ」と翼。

「確か祖母がアメリカ人だったかな」

「それにしたってデカ過ぎだよなぁ」

 戒も178㎝と日本人にしては高い方だが、水貴はさらにその上をいく192㎝の長身だ。

 それに伴う体格の良さは、戒を軽々と持ち上げてしまうほどだろう。

「ああ、そういえば」

 真仁はふとつぶやいた。

「随分と健康的になったね」

 眠っている戒の方を一瞥して発する。

「!」

 真仁の言葉に、痩せていた以前の姿を思い起こす。

 あの時の戒は死ぬ事を望んでいたせいでロクに食事もとっていなかったためだが、真仁は今の戒を見て内心ホッとしていた。

「ん、言い聞かせるのも大変だったよ」

「あはは」

 軽く笑った真仁に、少し険しい表情を浮かべる。

「戒は死なせないでほしい」

「!」

 眉を寄せて翼を見上げた。

「僕のコトはいいんだ、充分に幸せだったから。でも──」

「戒と同じことを言うんだね」

 驚く翼に柔らかな笑みを見せる。

「君たちを死なせたくないのはボクもだ。だけど、最後に決めるのは神様なんだよ」

 そればっかりはボクではどうにもならない……と真仁は愁いを帯びた瞳を伏せる。

「神様にあらがってみせるさ。出来る限りね」

 いつもの笑顔でウインクした真仁に小さく微笑んだ。

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