*確かな痛み
しばらく呆然とした戒だが、のんびりしている場合じゃない。
すぐに意識を切り替えてスナイパーライフルを構えて敵をスコープに捉え、男が顔を出すタイミングを見計らい引鉄を引いた。
銃弾が当たって倒れた事を確認し、スナイパーライフルを下げる。
装填していたカートリッジは使い切った。何より、これ以上は集中出来ない。
装填数は5発、その数だけ敵も倒した。
まずまずだ……。思いながら、リボルバーを右太もものレッグホルスターから引き抜く。
カートリッジの確認をし、翼の隣に駆け寄りしゃがみ込んだ。
ニコリと翼が笑った刹那──
「うっ!?」
「翼!」
右肩に銃弾が当たり、その勢いで倒れ込む翼を戒が受け止めた。
「!?」
その映像見ていた戸塚が音を立てて立ち上がり、握りしめた拳を震わせる。
「……」
その形相に、そこにいた男たちは黙り込んだ。
「翼!」
「いたた……だ、大丈夫。かすっただけ」
戒たちが着ているボディスーツは、正面からの衝撃には強いが横の擦れには弱い。
銃弾が走るほどの速度だと、やはり負傷は免れない。
戒はバンダナを取り出し翼の肩を強く縛った。
「……っ」
思わず小さく唸った翼に、戒は安心させるように目を合わせる。
<今回はここまでにしよう>
真仁の指示に戒たちは素早く退いた。
それをディスプレイ越しに眺めていた戸塚は、筒井に声を低くして発する。
「撃った奴を連れてこい」
「解りました」
それだけ言うと戸塚は無言で部屋から出て行った。
「翼クン大丈夫?」
肩を押さえて帰ってきた翼に真仁が声をかける。
「大丈夫だって。そんなに深くないから」
戒に促され、翼はホームの端でパイプイスに腰掛けた。
服を脱がせ怪我の具合を確かめる。
「縫うぞ」
「ええっ!?」
戒が手を差し出すと、仲間がソーイングキットをその手に乗せた。
「我慢しろ」
「うへぇ~」
50度の酒に針を浸し、消毒している様子をげんなりして見つめる。
裂けた部分にも酒を塗られ声を上げた。
「せめて消毒液にしてよ~」
「ごちゃごちゃ言うと痛くするぞ」
翼は黙り込んだ。
「い──っ!?」
拳を強く握りしめ、必死に痛みに耐えた。
「終わりだ」
「はぁ~……」
戒が離れると、別の仲間が包帯を巻いていく。
「!」
ニヤニヤと笑っている真仁に戒は怪訝な表情を浮かべる。
「彼、怒ってると思う?」
そんな戒に青年は口を開いた。
「! ああ……。どうだかな」
「まあゆっくり休んでよ、疲れたでしょ」
「そうさせてもらう」
戒はそれだけ言うとコートを脱ぎながら壁に向かい、しゃがみ込んで背を預け腕を組み目を閉じた。
真仁は投げ捨てられたコートを掴み上げ、「お疲れさま」と小さく発して戒にかけてやる。
敵を狙撃する集中力というのは、気力と体力をかなり消耗する。
静かな寝息を立てている戒を労うように、じっと見つめた。