*その存在
「!?」
戒の横を銃弾がかすめた──それに少し驚き、飛んできた方向にスコープを向ける。
「真仁、敵の後方、およそ50mの地点」
<待って、リンクした>
別のカメラからの映像が戒のディスプレイに映し出される。
ヘッドセットを操作しながらスコープを覗くと、戒は捉えた影に目を見開いた。
「! まさか!?」
地下でその映像を見た真仁も一瞬、息を呑んだ。
<奴の通信機につなげられるか?>
「少し待って、彼は戸塚の組織じゃないから」
戒の声にキーボードを操作する。
「……」
スコープを覗く戒の表情は苦い。
<つながった>
戒のヘッドセットに呼び鈴がしばらく鳴り響き、そして──
<しばらくだな、戒>
「水貴」
スコープの向こうに捉えた男が携帯のようなものを右耳にあてがい、無表情に立っている。
水貴と呼んだ男の逆の手にはライフルが握られていた。
「何故お前がそこにいる」
<それが正しいと思ったからさ>
その言葉に、戒は喉の奥で舌打ちした。
ハンタードッグをしていた頃、戒と互角の力を持つと謂われていた男──水貴。
赤茶けた髪に彫りの深い顔立ち、戒よりやや年下だと思われる風貌だがその瞳は戒と同様に鋭い。
奴とやり合えば死ねるかもしれない。
そんな戒の思考に反して、水貴とターゲットがかち合う事は一度もなかった。
戒がハンターを辞めるより少し前にハンターを辞め、外人部隊に入隊したと聞いていた。
その水貴が目の前にいる……しかも敵として。
「お前のいた組織が戸塚に付いたからか」
<それもある。だがそれだけじゃない>
「何故だ」
<おまえには解らんよ>
「!?」
スコープに捉えた水貴の口の端が吊り上がり、戒はゾクリとした。
「! 水貴!」
背中を向けて遠ざかる男に叫んだが、虚しく通信は切られた。