*陽炎の彼方
それから店を出て、辺りを散策する。
「ん?」
ディスプレイの端に、クローンのコードが映ったように見えた戒は立ち止まる。
<戒、そっちはカメラが無い>
「幾分か進む」
発して、コードが示されたと思われる方向に数メートルほど歩く。
「……?」
薄暗く静まりかえった路地裏に足を踏み入れると、背筋がぞわりとした。
嫌な匂いが鼻を突き、少し離れてついてくるように翼に手で示し警戒しながら角を曲がった先には──
「! これは」
手にしたリボルバーを下げ、眼前の景色を呆然と眺めた。
「戒?」
「来るな!」
のぞき込む翼を制止する。
「これは……」
戒のヘッドセットに取り付けてあるカメラに映し出された光景に、真仁は険しい表情を浮かべた。
<初めて見るのか>
「うん、そっちにはまだカメラを設置してないから索敵は行っていないんだ」
悔しげに指を噛む。
あまりもの光景に、その瞳には怒りが表れていた。
「とりあえず、ひと通りカメラに映して戻ってきて」
<了解した>
真仁からの通信を終え、戒は改めて目の前の死体の山を見つめる。
ディスプレイに折り重なるように表示されているクローンコード──乱雑に積まれた死体は、とても綺麗と呼べるシロモノではなかった。
コンクリートに接している死体はどれも野犬に食い荒らされ、見るに堪えない状態だ。
「なんで見ちゃだめなのかなぁ」
見るなと言われた翼は、不満げにつぶやく。
ヘッドセットのディスプレイの表示で、どんな光景なのかは想像がつくというのに、いっぱしの扱いを受けていないようで眉を寄せた。
数分後、戻ってきた戒を確認し2人は真仁たちのいる地下に足を向ける。
地下に戻ると、真仁たちは戒から送られてきた映像を調べている最中だった。
「どうだ」
戒は、渡された水を飲みながらパソコンをいじる真仁に問いかける。
「ざっと調べただけでも50体弱はあるね」
「カメラの存在を知ってだと思うか?」
「いや、たまたまここに積んでいただけだと思う」
ディスプレイから目を外し、足を組む。
「世の中に理不尽なことなんかごまんとある」
深い溜息を漏らし発した。
しかし濃い灰色の瞳は、その心の奥を覗かせてはくれない。
「擁護派と強硬派のグループはいくつかに別れていてね。地方の仲間たちとの連携も密に取っているんだけど、やっぱり都心が密集地帯なだけに色んな意味で激戦区だよ」
何かを忘れようとするかのように、真仁は別の話題を振った。
「首都付近に人を集めすぎた結果だ」
戒は、ペットボトルをデスクに乗せて腕を組む。
「まあ確かにそうだね。人が密集する地域に雇用だけが生まれると思うのは浅はかだ」
需要と供給のバランスが崩れ、全体的な雇用率が下がってしまう。
「……」
それから2人は押し黙る。
目の前の現実からほんの少しだけ逃げたくて、他の会話を持ち出した自分たちをあざ笑うように、互いに目を合わせ薄い笑みを浮かべた。