*始まりの音
*ダークな世界ですが最後までお付き合いくださると嬉しいですです。
日本、東京──男は暗い道を歩いていた。
膝下まである薄手の草色コートが、歩く度に裾を揺らす。
夏が終わりを告げようとしている季節は、太陽が陰るにつれて少しの肌寒さを呼び寄せる。
時刻は17時を少し回ったところだろうか、過去には深夜でも人通りの絶えなかった街は今や閑散として、荒んだ風景に微かな血の匂いがどこからともなく漂ってくる。
ぽつりぽつりと距離を空けて灯る街灯すら、申し訳なさげに周囲を照らす程度だ。
「止まれ!」
突然、怒鳴り声と共に男が現れた。
それを合図に、さらに4人ほどが姿を現す。
呼び止められた男を挟んで前に2人、後ろに3人──その手には各々、銃が握られていた。
どの服装も薄汚れていて清潔とは言い難く、一様に殺気立っている。
そうして呼び止められた男は、視線だけを動かした。その表情は、薄暗い街灯の下では窺い知れない。
「おい」
初めに呼び止めた男が、注目させるように発して続けた。
「きさま、擁護派か?」
「……」
問われた言葉に目を眇めた。
ゴミが散乱している歩道を鬱陶しそうにしながらも、コートの男から紡がれる回答をじっと待つ。
男の左横には、分厚いコンクリートで造られた灰色の塀が威圧的に聳えていた。
「答えろ!」
応えない男に業を煮やしたのか、銃口をガチャリと突きつけた。
その刹那──男の背後からいくつもの銃弾が放たれ、5人は悲痛な声をあげながら倒れ伏した。