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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

裁判「ゾンビ化直前の少女を射殺した元警官、殺人罪で裁かれる」

作者: あーのるど
掲載日:2026/05/23

一話完結の短編ものです。以前、投稿したもののリメイク版です。

「被告人は、令和八年五月十四日午後四時四十二分、東京都千代田区地下鉄渋谷駅構内において、民間人二名に対し、それぞれ拳銃三発を発砲し、これを死亡させた――以上に間違いありませんか」


裁判長の声は静かだった。

法廷は満席だった。


被告人席に立つ元警部補・榊真司は、まっすぐ正面を見た。


「……はい」


わずかなざわめき。


「それでは、検察からの尋問を」


検察官は前に出る。


************


法廷の外は、報道陣でいっぱいだ。

レポーターがカメラの前でしゃべっている。


「現在、法廷では榊真司元警部補の殺人事件の裁判が行われています」


「この殺人事件は、未知のウィルスによるゾンビ化したとされる会社員山田隆司さん、その山田さんに噛まれた当時17才高校二年生だった小林美咲さんを当時偶然居合わせた元警察官の榊氏が射殺し殺害した容疑がかけられています。


また殺害された小林美咲さんの父親からも「娘はまだゾンビになってない。助かる方法もあったはず」とコメントされているとの事です。


当時はゾンビがまだ認知される前でしたので、どう判決が出るのか注目されてます」


************


検察官が榊の前に出て資料をめくる。


「まずは事件当日の監視カメラの映像をご覧ください」


瞬間、法廷前方のモニターに映像が映し出された。


午後四時四十一分。渋谷駅ホーム。

その中に、一人だけ“浮いている”男がいた。

スーツ姿。

山田隆司、四十代。

足を引きずりながらヨタヨタと歩いてる。

周りは何かを悟ってか、チラッと見ながら距離を取っているのが分かる。

防犯カメラの映像からは、顔色はなんとなく、色がなく薄気味悪く見える。


汗ではなく、皮膚そのものが腐食し湿っているようにも見える。


彼はふらつきながら、ホームに立っていた制服姿の女子高生に向かって進んでいる。彼女はイヤホンをしてスマホを見ているので気付かない。被害者である小林美咲、高校二年生だ。


男は彼女の背後で立ち止まり、その肩を掴んだ。


一瞬の静止。



次の瞬間、男は彼女の腕に噛みつき肉を喰いちぎる。


悲鳴。

美咲が崩れるように倒れる。

その場の空気が一瞬だけ止まったように感じる。

その“間”に動いた男がいた。


榊真司。


私服。通勤鞄。人混みに紛れるように立っていた。

だが、その一瞬だけ周囲とは違い即座に走り出す。

距離は短いが人は多い。

抜く。

誰もそれに気づくのが一拍遅れる。


撃つ。

一発。

二発。

三発。

山田隆司はその場に崩れ落ちた。


銃声によって更に駅構内はパニックになり逃げ惑う。


「警察だ!」


大声で叫ぶが、周辺は慌てて走り逃げ出す。倒れてる者もいて、危険な状態だ。さっき倒れた女子高生も危険だ。すぐに駆け寄る。


「私は警察だ。大丈夫か?無理に動かなくていい。すぐに救急車を呼ぶから安心しなさい。」


ポケットのハンカチを取り出し、彼女の噛まれた腕に巻くために腕に触れる。血が傷口からどくどくと流れているが、何か違和感を感じる。


「助けて。。。死にたくない」


女子高生からは生気が徐々に失われてきてる感じが漂う。


「大丈夫。すぐ救急車を呼ぶから安心しなさい」


……冷たい。


呼吸も荒く、震えてるが、すぐに呼吸が今にも“途切れそう”になる。


ガシッと手を握ってきて、様子が一変する。


美咲がゆっくりと顔を上げた。

瞳が焦点を結ばない。そしてその目はすでに光を宿してない。


『……ゎた……こっ………て…』


ごくりっと榊は息を飲む。


榊の指がわずかに止まる。

何かを決意したように。


次の瞬間。


彼はすくっと立ち上がり、銃を向ける。


パァン。

乾いた破裂音。

パァン。パァン。


頭に2発。心臓に1発


悲鳴。

走る足音。

誰かが叫ぶ。


「キャー!!」

「また人が撃たれたぞぉ!逃げろぉぉぉ!!」


「てめぇ、何をしてるんだ!」


勇敢そうな若者が走ってきて自分を取り押さえようと動く。


違う。

撃ったのは人ではない。


“間に合わなかった”のだ。


榊が地面に押さえつけられたところで映像は途切れた。


検察官が静かに言う。


「被害者・山田隆司氏は、当時、銃による外傷以外に異常は確認されていません。また死亡解剖した結果、未知のウィルスに感染していた事が判明してます」


法廷内がざわつく。さらに資料のページをめくる。


「また、小林美咲氏については、噛傷以外の症状は当時観察されていません。また未知のウィルスの感染は確認されませんでした」


榊は動かない。


「あなたは、なぜ発砲したのですか」


沈黙。

法廷の空気が重く沈む。

榊が言う。


「殺してくれと。そして目を見ました」


一瞬の静寂。

裁判長が確認する。


「目、とは?」


榊は少しだけ間を置く。


「人間の目じゃなかった」


ざわめき。

検察官が冷たく言う。


「つまり、曖昧な直感で市民を射殺したと」




「……はい」


弁護人が立ち上がる。



「異議――」

「結構です」


榊が遮る。


「その通りです」


静寂。


今、世界はゾンビウィルスが蔓延し、世界各国、その対応に追われている。


世界最大級のパンデミック。

『ゾンビウィルス』


世界各地で街が崩れている。


人が人を噛み、倒れ、また立ち上がる。

制御は失われていた。


しかし、日本は幸運にもまだ被害がない。

初めての感染者が殺され、感染が疑わしかったものも殺され、封じ込めに成功したからだ。


なぜ山田が感染してたかは未だに不明である。


しかし、初動は確実にこの榊によって止められた。


しかし、法は絶対である。

日本においてゾンビに関する法律はない。


ゆえに殺害された被害者2名は人間でしかない。



************


厚生労働省感染症対策室。

モニターの前で研究員が声を絞る。


「感染は噛傷から約九十秒で不可逆的に進行します」


沈黙。


「九十秒……」

「はい。その前に無力化できなければ変異し、近くの人間を襲います」



資料が映し出される。

渋谷。

午後四時四十二分。

赤い拡散線。

しかし、その線は途中で途切れていた。

一点。

榊の発砲位置。


翌日。

法廷。

静寂。

裁判長が判決を読む。


「被告人の行為は、結果として重大な感染拡大を防止した可能性が高い」


わずかなざわめき。


「しかしながら、その時点において被告人がその危険を認識し得たとは認められない」


榊は目を閉じる。


「よって懲役一年六月、執行猶予三年に処する」


木槌が鳴る。


************


法廷から1人の男が外に走る。手に紙を持っており、報道陣が集まる。


バッと開く。有罪の文字。



記者たちからフラッシュが飛び交い、飛び出してきた男に質問している。


しかしその瞬間、外でサイレンが響いた。

誰かが叫ぶ。


「羽田で感染者!」


当たりががざわめく。


その声は法廷にも届く。


刑務官が榊に歩み寄る。

手錠を取ろうとした、そのとき。

榊が言う。


「急いだ方がいい」

「……何をだ」


榊は窓の外を見る。

灰色の空。

遠くをヘリが横切る。


「次は、迷わず撃てる人間が必要だ」


沈黙。

彼の目は、あの日ホームで見たものと同じ色をしていた。

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