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第5話

シェラが抜けたので「風神」のパロットも軍から手を引いた。


すると左翼軍は指揮系統をはじめ伝令網や補給系統まで乱れてしまった。


その結果、伝令が届かず、誰が誰に命令を出しているのかも分からなくなり、前線では味方同士が衝突し、後方では弾薬と食料が届かなくなった。


パロットと裏で差配していたシェラの抜けた穴はことさら大きかったのだ。


その隙を目ざとく見抜いたコパー都市国家軍は左翼軍に総攻撃を仕掛け、左翼軍を打ち破り大きく後退させた。


コパー都市国家軍は左翼軍の今までの攻撃でかなり消耗しており軍としての力は相当失われていたが、この隙を逃せば後はないと思い、最後の力を振り絞って攻撃を仕掛けたと言って良い。


副将マラカイト・ネモフィラは左翼軍、右翼軍の両方を指揮し、コパー都市国家軍にあたっていたが、まったく相手にならず副将マラカイト・ネモフィラが率いていた軍はさんざんに打ち破られた。


中央の本軍にいたアカエール将軍は異変を察知し、左翼が負けたという情報を得た時に何らかの事情で「あの方」がいなくなったと確信した。


さらにアカエール将軍は左翼、右翼の負けを予測したうえで、相手のコパー都市国家軍の動きを読み取り、逆に奇襲攻撃を加えることに成功した。


この奇襲攻撃が功を奏し、コパー都市国家軍を撃退することができた。


シルバー王国軍はかろうじてコパー都市国家軍をしりぞけ、宗主国としての面目を保つことができたと言っていい。



「危ないところだった。「あの方」が率いていた左翼軍がコパー都市国家軍の体力を削っていなければいまだに一進一退の状態であったろう」


「くそ!!我がシルバー王国軍が傘下の国相手にこんな無様な戦いしかできないなんて!!」


アカエール将軍は誰もいないテントで悔しそうにつぶやくのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇


僕は依頼人のいる屋敷に戻ってきた。


依頼人の女性とその父親2人を前にして調査の報告するためである。


ちなみに父親のほうは大きな商会の会長だった。


僕は記録用の魔道具で調査対象のケビンが発言した暴言の数々を依頼人に聞かせた。


依頼人の女性は目を丸くして聞いており、最後の方では無表情になっていた。


依頼人の父親はその様子をじっとみながら記録用魔道具から聞こえてくるケビンの数々の暴言を黙って聞いていた。


最後まで聞き終わると、父親は


「やっぱりクズだったな」


と吐き捨てるようにつぶやいており、依頼人の女性は、激怒していた。


「むかーーーーーーー!!!なんて男ですのーーー!」


「わたくし、すっかりあの男に騙されていましたわ!!」


「申し訳ございません。お父様、すべてお父様が仰ったとおりでしたわ」


「このとおり、お父様に謝罪いたします」


依頼人は父親のほうへ頭をさげた。その様子に父親はにっこり笑って


「もういいんだよ。ルピナス。お父様はルピナスがわかってくれればそれで充分だ。さあ、もうあんな男のことなんか忘れてお父様と観劇にでも行こうじゃないか」


その様子から本当に娘のことが心配だったんだろうと伺えた。


依頼人の父親は僕のほうを向いて、


「お礼を申し上げる。お主の調査のおかげで我が娘ルピナスの目も覚めたようだ。わしは最初からあいつはクズであるとわかっていたのだが、娘がべた惚れであったのでケビンとやらを始末することができないでいたのだ」


「本当にありがとう」


そう言って頭を下げてくる。


よっぽど腹に据えかねていたんだな。


だけどこれで調査依頼は終了だ。


ふぅ。長かった。


1週間以上かかってしまった。


だけど、シェラのおかげでスムーズに調査をすることができたし、文句をいってちゃ罰があたるよね。


「さあ、家へ帰ろう。久しぶりにエクレアの料理が食べたいよ」


シェラはニッコリ微笑み、


「そうでございますね。家でみなが首を長くして待っていることでしょう」


僕はシェラにお礼を言う。


「ありがとう。シェラのお陰でスムーズに依頼がこなせたよ」


「そんな。お礼など言わないでください。わたくしは、幸せでしたわ。この1週間。ずっと麗しきご主人様のお側にいられたのですから」


「それだけで、それだけでこのシェラは満たされておりました。ところで、さきの調査対象であったケビンとやらはまごうことなきクズ、でしたが、」


「ご主人様。わたくしはいつでもご主人様を受け入れる準備ができておりますわ」


そういうシェラは熱のこもった瞳で僕を見つめる。


シェラは見つめた人を男女問わず魅了してしまうような魔性の美貌を持ち主だ。


もちろん僕だってシェラの狂おしい魅力に惹きつけられることがある。


しかし僕とシェラは家族のように過ごして来たのだ。


とんでもない色気をもつとはいえ、いわば姉に欲情するようなもの。


そんなことに気づかれたくない僕は、赤くなった顔を隠すためにあわてて家路へと向かうのだった。


そんな少年の後ろ姿をシェラは寂しそうな目で、


「ふぅ。まだまだわたくしではご主人様に振り向いてもらえないのね」


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