第3話
また新しい週がはじまる。
僕の契約は今週で終わりの予定だ。
ところで、この第13文官室に送られてくる書類は本来なら5人の文官で処理することが可能だと考えられる量が送られてくる。
その量をエリカさん、リナリアさん、僕の3人でこなしているのでその日の仕事が終わるのは深夜に及ぶことも珍しくない。
その日は業務が夕飯の時間を超えたので、僕のためにメイドが夕食用にお弁当を皇太子宮へ届けてくれることになった。
勿論部外者が中に入れるわけではないので、使用人用の裏口でお弁当を受け取り、それを第13文官室で食べるつもり。
ここで困ったことに僕一人分だと、気まずくなると思っていた。
ところが、それを見越して僕が気まずくならないように、お弁当には女性文官の分も入っていたのだ。
なんて痒い所に手が届く気遣いなんだ!!
僕は、夜の休憩で夕食をとるときに2人にもお弁当をさしだし一緒に食事をとろうと誘った。
思った以上に2人には喜ばれた。
それからはエリカさんとリナリアさんの分も用意されるようになった。
エクレアの作ったお弁当は、2人には大好評だ。
いつもムスッとしているエリカさんですら、
「う、うま・・・・・これ、帝都の高級レストランよりも美味しくない?」
と相好を崩すほど。
それは褒め過ぎでは、と思ったが言わないでおく。
エクレアのお弁当が褒められるのは僕も嬉しいからね。
リナリアさんも目を丸くして、
「どうやってこの味をだしているのかしら?」
といつも好評だ。その様子から2人はすっかりお弁当のファンになったようだ。
「なんだか、いつも悪いわ。こんなおいしいものを頂いちゃって。それにお弁当のおかげで夕食の食費まで浮いているんだものね」
「ねぇ、せめてお礼を受け取っていただけないかしら?」
リナリアさんが困った表情で僕に言う。
「もらいっぱなし、いえ、施しを受けっぱなしは沽券にかかるわね。ねぇ、そう思わないエリカ姉様?」
リナリアさんはエリカさんにもそんなことを言う。
エリカ姉さまと呼んでいるがこの2人は姉妹ではない。
エリカさんがリナリアさんとは同郷で親も兄弟もいないのでお互い支えあって来たといっていたので、そういう呼び方をするぐらい親密なのだろう。
エリカさんも思案顔で、
「う・・・ん、それもそうね。たしかにもらいっぱなしは良くないし、お返ししたら、まだこのお弁当にありつけるかもだし・・・・・」
と打算的なことを口にする。
「いいわ、お礼をする。あ、だ、だけど、だめよ、エッチなことは。わたしまだそんな経験ないし、私たちにできる範囲よ、いいわね」
なんでお弁当ぐらいでエッチなことをさせる話になるんだ。経験もないとか言っちゃうし。
聞いているこっちが恥ずかしくなるよ。
リナリアさんのほうを見ると、また馬鹿なことを言ってと手で口を隠して笑っている。
この2人は本当に仲がいいみたい。
次の日。
この日は、いつもの皇太子宮ではなくて、魔法省の管轄の資料室で仕事をしてほしいという通知がきた。
その資料室は皇太子宮からそれほど離れていない場所にあったので、歩いていく方向はいつもと同じだ。
だけど、エリカさんやリナリアさんに会えない。
それがちょっと寂しかったので仕事がはやく終わったら会いに行こうと考えた。
魔法省管轄の資料室では指定された資料を集めるという仕事だった。
ただし、資料が収められている資料室は先が見えないほど広い。
資料室ではなく資料館といっていいほど。
さすが魔法省だ。
だけど資料が膨大なので1日で終わるのは不可能だと僕は覚悟した。
だからズルをすることにした。従者のイオニアとリューシェに頼んだのだ。
指定の資料の収集を2人にも手伝ってもらう事に決めた。
2人はとても魔法に詳しいのでこういう時に役に立つような魔法を知っているのではないかと思って頼んでみると、
「2人ともこの資料集めを手伝ってほしいんだけど」
すぐさまリューシェが
「承知いたしました、英明なるご主人様。わたしにお任せを。しばらくイオニアお姉さまとお待ちくださいませ」
と言って資料のほうへ向かう。
その無駄のない動きに見とれていると、リューシェはパタリと足をとめた。
首をくるりと変えてイオニアほうを向き、
「順番だから仕方ないですが早く揃えて戻ってきますのでほどほどにお願いしますね。イオニア姉様」
とよくわからない念押しをする。
なんの話だろうと不思議に思っていると僕のほうへ、イオニアは静かに近づいてきた。
何の用だろうと思って黙って見ていると、おもむろに僕の手を握り、その手をイオニアの頬に近付けていく。
僕の手がどうかしたのかと思って見ているとイオニアはそのまま頬に当てて愛おしそうにこすり始めたのだ。
スリスリスリスリスリスリ。
次にイオニアは僕の手を自分のあごに当てる。
かと思うと、次は肩、腕と移動させていく。
ついに、女性のデリケートな部分へ持って行こうとしたので僕があわてて力をいれてとめた。
一瞬、イオニアは寂しそうな表情をしたが、すぐにトロンとした表情をし、
「ああ、今このとき、ご主人様が私を愛してくださっている。だって私の身体をくまなく触ってくださっているのだもの」
「?」
僕はびっくりしすぎてされるがままだ。
というか、身体を触らせているのはイオニアでは?
すると顔を赤らめ、だんだんイオニアの呼吸が荒くなっていく。
ハアハアハアハアハアハア。
甘い吐息をはくイオニア。
気付けばイオニアの顔がどんどん僕に近づいてくる。
僕は思わず顔をよけようとしたがイオニアが強引に元の位置に戻す。
仕方なくイオニアの顔を見るとその輝くようなブロンドの髪に陶器のような白い肌が目に入る。
その宝石のような青白い瞳には、僕の顔がしっかりと写っていた。
イオニアの顔は神が造った最も美麗な芸術品と言われても納得できるほどキレイ。
そう言えばイオニアの顔をこんな間近で見たことはなかったな。
思わず、
「うわー。きれいな肌に瞳」
という心の声が言葉に出てしまった。
イオニアがそれにポッと顔を赤らめた瞬間、
「姉様、ストップ!!離れてください。それ以上はだめです」
とリューシェが止めに入った。
僕とイオニアの間を強引に割り込み距離をとる。
イオニアがうらめしそうな目をリューシェに送るが、リューシェは無視して、
「はい、ご主人様。ご依頼を受けた資料はすべてそちらの机の上に用意しておきました」
と机のほうを指さす。
僕が机のほうをみると、ざっと50冊ほどの資料がきれいに並べられていたのである。
イオニアが僕に触れているたったこれだけの間でここまでの資料をそろえたようだ。
「もう姉様ったら!!いくら姉様の順番だったとはいえ、ご主人様に近づきすぎですよ」
とリューシェはプンプン怒っていた。
そして深呼吸をして落ち着いてから僕のほうに向き直り、
「あと、ご主人様。あまり早く終わったと知られれば怪しまれますので今日1日かけて資料を探していたことにいたしましょう」
「残りの時間は本でも読んでゆっくりなさるとことをおすすめいたしますわ」
とアドバイスしてくれた。
たしかにこの膨大な蔵書から資料を集める作業をたった数分で終わらせたと分かれば、さらに困難な仕事を振ってくるか、それともやっていないと疑われるかのどちらかだろう。
・・・・ところで順番ってどういう意味だ?
まあいいや。ここはリューシェの言う通りにしておいたほうがいいだろう。
僕は、ちかくの面白そうな本を選んで読書を楽しむことにした。
うん、快適快適。
僕が選んだ本は魔道具について書かれている本だった。
魔道具の種類や作り方。主な利用の仕方や世界の強力な魔道具一覧まで載っている。
その中で特に興味を引いたのは、この世界には考えられないぐらい強力な魔道具が存在することや、その一つがエリューシオン教会に保管されているということだった。




