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出逢えた奇跡  作者: 琴音七色


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第6章『レッスン・ワンっ!』

第6章『レッスン・ワンっ!』



    1 私の勇気



 晃太郎がスマホの通話ボタンをタップして耳に当てた。愛藍が電話の向こうで話し始めた。

 

「あっ、白崎です、お疲れ様です。今、大丈夫ですか?」


「おお、お疲れー。大丈夫だよ!」


「携帯なんて用意させてしまって、スミマセン。なんか……、関係者のガードが厳しくて……」


「あれねー、凄いよね。すかさず入ってくるもんね。まぁ俺が関係者なら同じ事するだろうけどw」


「ですよねーw あの……、今日ってまだお仕事ですか?」


「ん? いや、終わったよ」


「……この後って……何か予定とか……入ってたり…………しますか?」


「いや、入ってないよ」


「本当ですか? あっ、あの、もしも……なんですけど、もし……可能でしたら、少しでも構わないので逢ってお話とか出来ませんか? っていうか、もう不安で……相談したくて」


「あー、いいよ、全然いいよ! 大丈夫。んーん、どうしよっか? えーっと……」


「あの……、あのー、外で……会うのって、危ないのかなぁって……。もし撮られたら晃太郎さんに迷惑かけちゃうかなぁって。もし御迷惑でなければ……なんですけど、あの……、私の……家って、いかがですか? ……って、これもリスク無いわけじゃないんですけど……」


「あぁ……、いいよ! 全然いいよ、俺は。うん、じゃぁ、えっと、何処向かえばいいかな?」

 

 愛藍から住所を教えてもらい、話を済ませると晃太郎は電話を切ってガッツポーズをし


「よしっ! 三上、なっ、来てるだろ!? 俺。来ただろ!? 来たよな、やっぱ来たよな! ……来たよー!」


 と言って嬉しそうに三上に話しかけ、晃太郎はまた寄り道の頼みごとをした。愛藍とのことを知っている三上がこの急展開を受け、また心配そうに話し出したので晃太郎は珍しく語気を荒げて


「俺さ、ここまで数年間ずーっと事務所のために尽くしてきたじゃん。結婚も諦めてさぁ。もう、そろそろ好きにさせてくれって。もし何かあったら、その時は……俺ちゃんと責任取るからさ。……っていうか、あの子さぁ、まぁ事務所はどうか分かんないけど、あの子は……そんな子じゃないよ。……直感でしかないけどな」


 と珍しく真剣に語った。そして、愛藍から聞いた住所へ向かうことにした。いつになく真剣だった晃太郎を見て三上は言葉を失くし、ルームミラー越しに納得した表情で軽く頷いた。



    2 気分は、初デート!



 用を済ませると、晃太郎は付近で降ろしてもらい愛藍の自宅に着いてインターフォンを鳴らした。すると、“どうぞ”という声の後に通話が切れて開錠の音がした。招かれた晃太郎は玄関で照れながら迎え入れてくれた愛藍のはにかむ表情がたまらなく可愛く感じた。そして


「ごめん……、ちょっと浮かれちゃって。共演の御挨拶ってことで気軽に受け取って」


 と言って、途中の花屋で買ってきた“青いバラ”のミニブーケを差し出した。引く様子も全くなく、むしろ嬉しそうに“うわぁ! ありがとうございます”と喜んで受け取ってくれて愛藍がまた微笑んだ。その笑顔がまた晃太郎の気持ちに拍車をかけた。愛藍との関係を期待して慎重になっていた晃太郎は


「あっ、こんなことばっかしてるわけじゃないからね。本当に……。久しぶりに花屋入って……」


 と弁解する。その必死さに愛藍は、“本当にぃ~?”と言いたげな表情でニヤニヤしながら晃太郎の顔を下からいやらしく覗き込んだ。

すると、奥から“Ku----Ku----”“カチカチ、ガシャン! ガシャン!”と音が聞こえてきた。愛藍が晃太郎に

 

「あっ、そうだ、あの……犬って、大丈夫ですか?」とスリッパを出しながら聞く。


「犬? 大丈夫、大丈夫! いるの? 何犬?」


 晃太郎の問いに愛藍がリビングへ誘導しながら、話を続ける。


「ンフ、……柴犬www」


「マジで? www」


「マジです! ……ほら!」


 そう告げられリビングに着くと成犬の黒柴犬がしっぽを振って、飛行機耳でフガフガしながら2人を待ち構えていた。愛藍の愛犬Alessa(あれっさ)が早くゲージから出せと言わんばかりに興奮している。晃太郎は笑いながら愛藍に


「出してあげたら?」と言う。


「えっ、いいんですか? 毛がついちゃうかも。」


「あー、全然いいよ、大丈夫。実家でも飼ってたしさ。開けていい?」


 と既にゲージの前にいた晃太郎は、愛藍の返事も待たずに勝手にゲージのドアを開けた。初対面にもかかわらずAlessaが晃太郎に異常に懐く姿に愛藍は驚いた。愛藍は、ミニブーケをダイニングテーブルに飾った。そして、コーヒーを淹れていると晃太郎が聞いてきた。


「意外だね。女の子だとプードルとかチワワ、あとダックスとか小型のイメージあるけど」


「あー、たまたま事務所の方が番組か何かで保護して。でも、急に引き取れなくなって事務所で保護されたままになってて可哀想だなぁって。で、見ちゃったら可愛くて連れて帰っちゃいましたw 散歩で一緒に走れるんで助かってもいます。結構ステージで消費が激しいので体づくりのお伴にも……」


「おぉ、そっか! ステージ動くもんね。ちょうどいいのか。……この子、名前は?」


「Alessaです」


「Alessaかぁ。由来とか何かあるの?」


「あー、確かドイツ語で“美しい魂”って意味があるみたいです。でも何となくの響きで名前だけ先に付けて、意味は後から知ったんですけど。しかも、女の子に付ける名前らしいですw」


「おー、いい意味だなぁ! 何となく、で付けて“美しい魂”かぁ。その感性、さすがアーティスト! おい、Alessa。イケメンだなぁ。よろしくなっ」



    3 紳士 



 晃太郎は暫くAlessaにかまって体をなでたり、おもちゃを投げたりして遊んでくれていた。愛藍が食事をしながら色々相談したいと言い、手料理をもてなすことにした。準備の間、引き続きAlessaの相手をしてくれていた晃太郎を見ると、いつの間にか愛藍の母の遺影を見つけて眺めていた。そして、晃太郎が


「……お線香、上げさせてもらっていい?」


 と聞いてきた。愛藍は目を閉じながら頷いて晃太郎が手をあわせ挨拶をする姿を見ていた。目頭が少し熱くなった。


 食事をしながら改めて愛藍は晃太郎に色々話し出した。初めての女優業への不安や自分の未経験さから推測する心配事など、胸の内をたくさん吐露した。晃太郎は、愛藍が仕事へのひたむきさとフィールドの違う自分たちへの配慮や気を回した考えまで持ってくれていたことを知り、更に引き込まれていった。そして、愛藍の最初で最後の予定である女優業を絶対に成功へと導いてあげたいと強く思うようになっていた。料理を取り分けたり、お酒を注いだりしてくれている愛藍に晃太郎が


「分かった! 後でさぁ、改めてお互いのスケジュールちゃんと確認しよっか。迷惑でなければ、稽古だけでなくて他にも必要なことがあれば手伝うよ」


 と言って芝居に関する全般的なことに加えて専門用語、また一番重要である共演者やスタッフとの間に信頼関係を構築するための情報共有など、徹底してサポートする姿勢を見せてくれた。愛藍は未知の世界の芝居に無知ゆえ、晃太郎の経験と知識と芝居への独創性や他の共演者との距離を埋めてくれようとする社交性や思いやりに感動して、愛藍もまた心を惹かれていた。

 食事を済ませた後、レッスンも希望した愛藍のために昼間読み合わせしたシーンを含め、稽古をした。少し先にあるKissシーンにまで到達してしまい、晃太郎は愛藍にどうしたいか? を問う。


「んーん、正直どうしていいか分かんないんです。こういうことも本当誰に相談すればいいのかも分からなくて不安しかなくて。ラブシーンがあることも初回の会食の日の行きの車の中で初めて知らされて……」


「えっ、そうだったの? んーん、事務所もなかなかなことするねぇ。うーん……、まぁアーティストだからね、愛藍ちゃん。そうだなぁ……、撮り方で(キス)してるふりにすることもあるよ。NGな女優さんの時によく使うよね」


「ちなみに……してるフリの場合って、やっぱり現場の空気とか……役者さんや監督やスタッフさんって……どんな感じなんですか? 脚本家の北原杏樹(きたはらあんじゅ)先生は、ガッカリするかなぁ? んーん、ドラマ観てくれる方のことも気になっちゃうかも」


「んーん、そうだなぁ……したら、したで何か言われるだろうし。まぁ、悩むよね……」


「どうしよう………………。あのー、当日まで保留で考えてもいいですか?」


「うん、もちろん。いいんじゃない、よく考えて。一度きりとは言え、アーティスト生命にも関わることだろうからさ。男性ファン多いわけだし。じゃ、フリで距離感とか確認しておこっか? 念のため」


「……はっ、…………はい」


 と晃太郎がストーリーに沿って横たわる愛藍の首と背中に手を差し込んでセリフを言い、ギリギリまで顔を近づけた。内心ドキドキする晃太郎と愛藍。kissするわけでもなく、ただジッとして近すぎる距離に耐える2人。何とも言えない空気を感じていたその時


「Uh-----、ワンッ! ワンッ! ……ワンッ! Uh----、ワウワウワウッ!」


 Alessaが、窓の外を覗き込んで隣人へ配達に来たピザ屋のバイクに吠え出した。愛藍は


「スミマセン、宅配の音に敏感で。絶対吠えちゃうんですよね」


 と言って高鳴る胸を落ち着かせるためにAlessaをいじった。晃太郎も正直なところ、Alessaのワンッ! が舞い上がってる気持ちへの抑止力に感じていた。

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