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出逢えた奇跡  作者: 琴音七色


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第5章『小さな袋に忍ばせた大きな愛Phone』

第5章『小さな袋に忍ばせた大きな愛Phone』



    1 強硬手段



 世間がGWを満喫している中、初の台本の読み合わせの日がやってきた。5月6日のこと。

休憩時間に晃太郎が親睦会という名目で飲み会を提案し、愛藍にも接触を試みるも、またもや先日の関係者がすかさず阻止する。愛藍は全くの芝居未経験により、自信の無い芝居に更なる不安を抱えて共演者たちとの距離を縮めたくて親睦会に興味があった。だが、関係者のガードがどうにもこうにも固くて外せない。いつもならそれを受け入れる愛藍だったが、この日は違った。というのも、少し前に新曲のMV撮影の空き時間でガールズトークした仲間のダンサーたちとの会話で恋愛に対して久しぶりに刺激を受けていたからだ。珍しく積極性が芽生えていた。また、数ヶ月後には30歳を迎えるという節目と15年ぶりに再会した晃太郎に対して何か運命のようなものを感じずにはいられなかったからだった。そんな“気になる存在”でもある晃太郎と急遽決まったダブル主演で初の芝居が待っている。しかも、事務所の関係者からは『この仕事は話題性だけで十分乗り切れるから心配いらない。それなりでいい』という判断をされていて大したレッスンもさせてもらえずにいた。記録として残るものだからという理由だけでなく、自分の音楽活動でもチームワークが大事なことや1つの作品に関わる大勢の関係者の苦労や想い入れというものを常々感じてきた愛藍は事務所側の考えに納得がいっていなかった。もちろん、ラブシーンというものがどんな感じで行われるのか? という不安、これも非常に大きかった。何とか相談を持ち掛けたくて、考えに考えて愛藍は晃太郎とペアでの読み合わせのタイミングで


 ……自分の台本を晃太郎のものとすり替えることにした。


 稽古が終わり、何も知らずに次の現場に向かう晃太郎。愛藍の関係者のガードの固さが気にはなっていたが、ベテラン俳優のプライドから移動中にもセリフやシーンの流れのチェックをするため、おもむろに台本を広げた。すると、そこには見慣れない付箋が……。メモした筆跡が自分のものではないことを瞬時に気付きハッとした。


 ――晃太郎さんへ――


 この頭の一行を見て晃太郎は直ぐに愛藍だとピンときた。続けて綴られていた文章には


 ――こんなことして、ごめんなさい。

 お芝居のことでどうしても相談させて戴きたいことがあるのですが、関係者が厳しくて……。

 どうすれば連絡を取れるのか分からず、こうするしかありませんでした。

 もし御迷惑でなければ、一度、お話し出来ないでしょうか? 愛藍――


 というものだった。晃太郎の顔が綻んだ。そして、運転するマネージャーの三上暁大(みかみあきひろ)


「なぁ……、俺さぁ……」


「はい」


「もしかしたら……来てるかもしれない。久しぶりに」


「はっ? 何が来てんすかっ?」


「……何だろうねぇ~!!!」


 と浮かれ口調で語りかけた後、しばらく黙り込んで考えていた晃太郎だが、突然ひらめいた。あと少しで次の現場に到着するというタイミングでスマホの画面を確認しながら三上に頼みごとをした。


「ごめん、まだ時間あるよね? ちょっと寄りたいところがある。えーっと、次の交差点で右曲がって……」


 と言って目的地を変更させた。三上に事情を話して協力してもらうことにした晃太郎。何とか無事に用を済ませ、時間通りに次の現場に到着して楽屋入りしたが、相談してきてくれた愛藍のことがずっと気になって、時間さえあれば考えてしまっていた。世間や事務所側が作ってきたイメージとは違い、時にはにかんだり、滝本の件でも返答に困った愛藍の様子を思い出して、デビュー当時と変わらない彼女の純粋さを再び感じていた。

 仕事を終えて帰宅してからも、愛藍のことが頭から離れない晃太郎。

『飛ぶ鳥落とす勢いのあの滝本陸に全然なびかなかったよなぁ。純粋で真面目な子のままだったなぁ。そんな子が台本すり替えてまで連絡取りたがるって。初の芝居、相当追い詰められてんのかな。ん? それとも……脈ありか? でも、ひと回りも違うんだよなぁ……』と色々考えては愛藍の気持ちを考えてみるのだがキリがなく、久しぶりに浮かれていた。そして、あるものの準備に取り掛かった。



    2 二人だけの秘密



 日は変わり、2回目の稽古の日がやって来た。5月10日のこと。

刑事モノということでアクションから始まる第一話の撮影のため、既に現場入りしていた愛藍はアクション担当コーディネーターと打ち合わせをしていた。愛藍のシーンの撮影が済んで休憩に入るのを見届けた晃太郎が愛藍に近づき、そのシーンに続く二人だけのシーンの読み合わせを誘った。お互いに台本を開き、読み始めると晃太郎が愛藍のセリフの表現の仕方や表情にアドバイスをしながら愛藍の台本のページに付箋を一枚貼り付けた。愛藍が付箋に目を通すと、そこには


『ケータリングの台の奥にある水色の小さなペーパーバッグ、リボン付いてるの分かる?』


 と書かれていた。愛藍は、付箋からケータリングの台に目を移して確認し、バッグを見つけると再び晃太郎のほうを見て小さく頷いた。そして、晃太郎は何事もなく再び読み合わせを続けた。愛藍は、少し動揺しながらもセリフの続きを読むと、晃太郎が


「ん-ん、そこ、もっと間を空けてもいいんじゃないかな!? 忘れないように印付けておこっか」


 と言いながら、セリフの下部に追加で二枚目の付箋を貼り付けてきた。次の付箋には


『あのバッグ持って帰って1人の時に中を確認して。袋の底に携帯が入ってる。時間ある時に受信メール開いて読んで。理解出来たら、その台本、俺のだから返してね!』


 と書いてあった。愛藍は晃太郎の目を見てはにかんだ。そして、直ぐに関係者へと視線を移し、自分が見られていないか? を確認しながら前回すり替えたままであった晃太郎の台本をもう一度すり替えた。

 全体の休憩が入ったタイミングで愛藍は誰よりも早くケータリングに向かった。そして、晃太郎からの差し入れとして置かれていたリボンの付いた水色のペーパーバッグを晃太朗のマネージャー三上から受け取り、手に取って楽屋へ向かい、自分の荷物の中に入れた。


 稽古が終わり、愛藍は関係者に促されながら全員に挨拶を済ませると稽古場を後にして楽屋に戻り、帰り支度をして関係者の車に乗り込んで自宅へ送り届けてもらった。



    3 恋のバイブス!



 稽古場では『親睦会』の話題でしばらく盛り上がっていた。共演者の1人が晃太郎に

 

「姫居さん、今日とか、どうですか?」


 と確認してきた。親睦会を言い出した張本人の晃太郎だが


「あぁぁぁ――――、今日……は、ダメなんだよねぇ。この後まだ入ってんだ。また調整するよ。ごめんな。お疲れ様です」

 

 と断って頃合いを見て楽屋に向かった。足取りが早くなるのを抑えている。はやる気持ちも抑えている。ゆるみそうな顔も、感情を語ってしまいそうな背中も含め、全身全霊で平静を装っている41歳であった。全てが必死だった。言うまでもないことではあるのだけれど、愛藍からいつ連絡が来るか分からないからだった。

 楽屋に入ると、凄まじい勢いで着替え出し、荷物をまとめて三上を急かしながらスマホを握りしめたままで車に向かい、乗り込んだ。事情を知っている三上は


「……本当に来ますかねー? ……でも、大丈夫ですか? ハニトラだったりして。ほら、Ailaちゃんの事務所、今ちょっと大変そうじゃないですか。事務所の社長の噂も気になりますよね」

 

 と不安要素を口にし続けた。色々聞こえてはいるが、晃太郎は大した返答もせず黙ってスマホをいじり続けるだけだった。確かに、歳の差や事務所のトラブル等からハニトラなのでは? と心配されることは重々承知だった。実は、愛藍の事務所社長の近年の経営戦略が不評で愛藍が実質上の稼ぎ頭でもあり、補填の役目をも担わせているどころか、彼女の売上の“ピンはね疑惑”と“豪遊っぷり”が裏では有名だった。今回の滝山の降板の件でも、浮いた製作費を愛藍のギャラに乗せられないか? と制作側に相談している話も耳にしたぐらいだからだ。万が一、愛藍との関係をスクープされた時に愛藍の社長の懐具合によっては事務所側がどう出てくるか? という意味でも三上が口にした不安は理解できなくもなかった。だが、トラップでもいいと思えるほど歯止めが利かないところまで気持ちに盛り上がりを見せている晃太郎だった。今日の稽古を振り返っても、愛藍が他の俳優たちとの距離を分かっていても、それでもめげずにひたむきに根性を見せて稽古に挑む彼女の頑張りに晃太郎はより心を惹かれていた。そして、心のどこかで愛藍が好意を持ってくれているのでは? とも感じていたのだ。

 三上が車を走らせて数十分、晃太郎のスマホが震えた。晃太朗の胸も震えた。発信者番号を確認すると、先日、三上名義で用意してもらった携帯の番号だった。そう、かけてきたのは……


 ……愛藍だった。


 晃太郎は、愛藍に渡した携帯に自分のスマホから1通メッセージを送ってあった。


――台本、ビックリしたけど、嬉しかったです。

連絡先が無かったので事情があるのかなと思い、連絡を取るために用意しました。

電話帳に登録されている番号もアドレスも俺のものだけです。メールでも電話でもどちらでも大丈夫です。

撮影での不安や分からないことなどがあれば遠慮なく連絡ください。一緒にいい作品を作りましょう。姫居――

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