第4章『繰り上げ当選』
第4章『繰り上げ当選』
再招集の日が来た、4月7日。
予定していた脚本によると滝本と愛藍の実際の年齢設定だったため、同世代の代役のスケジュールを押さえる方向で検討もしてみたが、時期的にも製作費にしても色々困難だと焦る関係者。だが監督の黒川はある策を持っており、それに愛藍が対応可能かどうかを判断するため確かめることにした。
「実は、陸がスポンサーとの兼ね合いで出られなくなっちゃってね。人気あるよね、陸。残念だった?」
と監督が意味ありげに愛藍に問う。それに対して愛藍は、間髪入れずに
「いやっ、別に、私はそんな……。………………あっっっ……、ん?」
と答えたものの、とり方によっては誤解を招く可能性もあると思い、愛藍はしどろもどろになっていた。愛藍の気持ちは、こうだった。友人の元彼『陸』を避けられてセーフという気持ちと『初の女優業』の立場から元々フィールドも違い、畑違いな自分があれこれ注文など付けられる立場ではないという気持ちの半々であった。そんな理由から、つい出てしまった“いやっ”であったのだが、返答の続きを待つ監督に対して瞬時にベストな返答=正解って何だろう? と頭を働かせ過ぎて愛藍は更に動揺し、思わず手で口を塞ぎながら即座に横を向いて冴木に救いを求めるような視線を送った。が、時すでに遅しであった。
“マズイ、間違えたか?”という表情で困っている愛藍を見て、黒川は自分が投げかけた一言に予想通りの反応を示したと感じ、更に愛藍に
「ん? 残念じゃなさそうだなw」
と突っ込む。陸と同事務所の林も便乗して
「っぽいですねぇ! じゃ、陸に会ったら『お前タイプじゃねぇ!』って伝えておくよw」
と愛藍をからかった。そして、監督の黒川は
「前に一緒に仕事した時に思ったけど、愛藍って同世代の子とか、ガツガツした子って苦手だよね!? ずっと現場でも俺とかオジサン(スタッフ)しか話さなかったし。ちょっとさ、純粋に許容範囲とか聞かせて。せっかくの記念すべき初女優業だし、芝居しやすい相手のほうが多分撮影もスムーズだろうからさ。どう?」
と追及してきた。それだけ初の女優業を気遣ってくれているにも関わらず、愛藍が返答に困っていると、黒川が遂に案を出してきた。
「いや、実はね、何個かある打開策の1つなんだけどさ……。代役に……イケオジ(姫居くん)はどうかなぁ? って。っていうのもね、時期的にもうこれから同世代の主力俳優を押さえるには無理があるのと、まぁ製作費とか撮影の流れとかスタッフのことも考えるとね。……どうですか? 冴木さん。もし問題なければ、これで進めちゃいますけど……時間ないんで」
と、質問形式のわりにサクサク話を進めて冴木への確認もサッと済ませる黒川だった。そこに林も
「おおー、姫居さんなら刑事モノにしてもサスペンスにしても定番の俳優さんですからね。僕、賛成です!」
と黒川の案に乗っかる姿勢を示して晃太郎にも視線を送った。
愛藍は唇を嚙み締め、緊張感ある表情で黙っていたが、頬を緩めて晃太郎ほうを向いて承諾の会釈をした。黒川が
「じゃ、決定で!」と言い、陸の代役として脇を固める予定でいた晃太郎との【歳の差コンビの恋愛サスペンス刑事ドラマ】ダブル主演の変更内容で切り替え、関係者たちと細かい話をし始めた。晃太郎と目を合わせられなかった愛藍だが、実は晃太郎が小さくガッツポーズをしていたことだけは見逃さなかった。
途中、黒川は晃太郎と愛藍に声をかけて芝居について相談し合っていくようにと説明した。
連絡先を交換するべきか? という空気になったのだが、冴木と一緒に来ていた愛藍の関係者が間に入って阻止する。晃太郎は
「じゃ、また現場で色々話そうか。分かんないことあれば遠慮なく聞いてね」
と当たり障りのない話をして愛藍の関係者に忠実さを見せた。
後々入ってきた情報によると、陸の降板は大口スポンサー企業の社長令嬢が陸を気に入っていて、嫉妬心から愛藍との共演を嫌がったということが分かった。陸が降板するならスポンサーを降りずに継続するとのこと。また、キャストの追加ではなく“脇でも主役でも安定感”が売りで定着しているベテラン俳優を繰り上げて製作費を浮かせようという、いわゆる『大人の事情』だらけの理由だった。それがたまたま黒川の策と合致しただけのことであった。




