第3章『親戚のオジサン? と15年ぶりの再会』
第3章『親戚のオジサン? と15年ぶりの再会』
1 はじめまして? 2度目まして?
愛藍が初の女優業ということもあり、TV局の制作側とスポンサー企業は争奪戦となった。しかも、通常のオファーの数を超える勢いという異例の展開を見せた。何故なら、違約金問題を早めに解決させたい上層部は『恋愛ものOK』『kissシーンOK』『軽めならBedシーンもOK』と愛藍に何の断りもなく出演条件を勝手に打ち出してギャラを跳ね上げさせたからだ。ここ数年でR&B・ヒップホップ系シンガーという戦略に成功したものの、実は楽曲の方向性やイメージとは真逆の資質を持ち、奥手で口下手で恋愛にも慎重で浮いた話もほぼない愛藍。そんな彼女の女優業オファーに対して出された条件を本人が全く知らされないまま1本のドラマ出演が決定してしまった。
桜が咲き乱れる4月3日。キャスト主要メンバー数名と監督と会食の日が来た。店に向かいながら愛藍は冴木に聞く。
「ねぇ、まこさん。キャスティングってどんな感じか聞いてる?」と問うと、冴木は
「まだ極秘らしい。俺も聞いてないんだよね。監督は聞いてるよ。ほら、あの2年前にMV担当してくれた黒川さんだよ。久しぶりに愛藍と逢える! って楽しみにしてるってよ」
「えっ! 本当? 良かったー。知ってる人、誰もいないとか凄く不安だったんだよね。黒川監督かぁ」
緊張気味な愛藍だが、以前1度ミュージックビデオを担当してくれたことのある黒川真悟が監督だと分かり、それが会食に向かう愛藍にとってはかなりの安心材料だった。
店に到着し、店員に案内された部屋へ入ると、冴木がすかさず
「もう皆さんお揃いで!? お早いですね、申し訳ないです。お待たせ致しました。私、Delights entertainment 所属アーティストAilaのマネジメント担当の冴木です。本日は宜しくお願い致します」と言いながら関係者と名刺交換を始めた。その傍らで勢揃いする先方に愛藍が目を向けると、目の前にいたのは、人気俳優滝本陸29歳と人気ベテラン俳優姫居晃太郎41歳、そして、滝本と同事務所の遅咲き俳優林宙夢37歳と関係者が数名いた。人気俳優を挟んで真ん中に陣取った監督の黒川が
「おー、Aila、元気にしてたか?」と言う。愛藍は、
「はい! MVでは本当にお世話になりました。監督が撮ってくださるんですね。凄く嬉しいです。お芝居、初めてなので緊張してますが、宜しくお願い致します」
と挨拶をすると、黒川は2年前と変わらぬ優しい眼差しで頷いた後、サクサクと仕切り出して俳優3人を紹介して脚本の大筋と狙いなどを話し始め、隣にいる滝本の肩をポンと叩きながら
「……ということで、キャスティングですが、確実に視聴率を獲れる今をときめく!? 人気俳優の滝本陸とアーティスト活動15周年を迎えるAilaというホットな2人のW主演で内容は刑事モノの恋愛サスペンスでいきます。で……、まぁご存知かと思いますが、Ailaが今回初の女優業でもあり、主題歌も彼女の楽曲で確定。更に予定が狂わなければ最終回の放送で15周年と誕生日を迎えるという素晴らしい宣伝材料も持ち合わせています。ステージもガンガン走るし、踊るし、動ける子なんで、軽いアクションも期待出来るかなぁと。と……これだけ揃ってるんで、皆さん、どうぞ演技についてはお手柔らかにw」
と愛藍の気持ちを察してフォローを入れた。すると、滝本が愛藍に
「まさか、一緒に芝居することになるとはねぇ。後半は恋仲の設定らしいからドキドキするなぁ。よろしくなっ」
と意味ありげに愛藍とのラブシーンを喜ぶニュアンスとも取れる挨拶をしてきた。実は滝本とは同じ高校の出身で、過去に愛藍の友人と付き合っていたこともあって面識もある。しかも、その友人と別れた理由が滝本の二股だったという事実まで知っている。それもあって愛藍は個人的に滝本のことが苦手で気まずいのだが、気にせず慣れた間柄を醸し出してくる滝本に対して愛藍は愛想笑いするしかなかった。その表情を見て脇を固める役者として起用された俳優の晃太郎が何か不穏な空気を察してか? さり気なく割り込んできた。
「Ailaちゃん、曲聴いてるよー。こんな売れっ子アーティストさんとこうして一緒に仕事ができるなんて、本当光栄です。精一杯、支えるんでよろしくね」
と挨拶をしてきた。愛藍は挨拶をするのだが、晃太郎の声を聞いているうちに何とも言えない違和感を抱いた。
2 記憶を呼び覚ます周波数
――ん? ……何だろう?――
場も和んできた頃、席を移り始める人も増え、ふと気がつくと隣には晃太郎がいた。
「愛藍ちゃん、お酒は飲まないの? まだお仕事詰まってるとか?」と空きかけたグラスを気にして聞いてきた。
「あっ、いや、お仕事は……今日はもうこれで……。お酒、飲めないというか……」と返すと
「そっかそっか、じゃ、ノンアルで。はい」と言ってメニューを差し出してきた。愛藍は再び違和感に襲われた。
――ん? あっ、分かった、声だっ! この声!――
記憶がよみがえってきた。愛藍は晃太郎に
「あの…………、もしかして……、昔、歌番組で……」
と、うろ覚えの記憶をなぞりながら話しかけると
「おおっ、思い出してくれた? いやー、嬉しいなぁ! そうそう、そうです! あの時の…たまたま代役で司会を務めた姫居です。ご無沙汰しております。改めまして宜しくお願いします。何年振りかな?」
と言って右手を差し出した。愛藍は、両手で握手に応えながら15年ぶりの再会に感動した。そして、その期間を告げると、晃太郎は
「おおー、15年ぶりかぁ。懐かしいねー! こんなに大人になっちゃって!」と言うと、近くにいた林が笑いながら
「姫居さん、それ(その言い方)正月に実家帰った時の親戚のオジサンです!」と突っ込んだ。晃太郎は
「親戚でも何でもいいんだよ。あっ、林くん確か、その頃、日本にいなかったよね!? 知らないだろ!? もう、あの時のAilaちゃん、デビューしたばっかでさぁ。初々しくてさ。緊張しまくってて。本当可愛くて、顔もこんな小っちゃくてさ。まぁ、今も変わらず可愛いいんだけど。ほら見て! 顔、ほら、ねっ、今も変わらず……こーんな小っちゃいんだよ! ほらっ、ほらほら……なっ。俺の手で顔隠れちゃうんだぜ!」
と愛藍をいじって和ませながら話していると、今度は滝本が
「姫居さぁーんw」と厭きれ顔で視線だけを送った。
この調子で晃太郎が会話を続けて愛藍の緊張も解き、雰囲気を好転させてくれたことでより場が和んだ。愛藍は今日集まった共演者と少し距離が縮んだのを感じた。そして、この日の会食は無事に済んでお開きとなった。
数日が過ぎ、全体の初回顔合せと稽古まであと半月というタイミングで、なんと今度はダブル主演予定の滝本にもトラブルが発生し、急遽ドラマ出演が取り止めとなった。キャスティングから脚本と何から何まで変更必須が相次ぎ、関係者たちはパニックとなる。そして、再び主要メンバーに招集がかかり会食となった。




