第2章『災い転じて女優となす』
第2章『災い転じて女優となす』
順調だった事務所も、愛藍も、一変するような事態が起きた。所属仲間のタレントである伊原美彩希23歳が人気ロックバンドのボーカリストと不倫スキャンダルを報じられてしまった。しかも、愛藍と並んで事務所を支える稼ぎ頭の1人として売り出していたこともあり、CM契約本数も多く、関わる企業側もご立腹。それによる損害が大きな打撃となって、突如、多額の違約金が発生し、このトラブルが発生したことで事務所もタレントも窮地に追いやられてしまった。関係者のみで緊急会議となり、一旦帰宅させられた愛藍だったが、話がまとまって後日また事務所に呼び出されることとなった。結論は、こうだ……。
下積み時代から事務所の意向もあり、歌手活動のみの方向性で順調に売ってきた愛藍を今回のタレント伊原が作った負債の穴埋めと社のイメージダウン回復のための重要なコマとして、ここへ来て“一度限り”で女優業をさせるという展開に。愛藍本人も歌とダンス以外のことに自分は力も需要もないだろうからと専門外は一度も挑戦することなく、ひたすら歌だけに専念してきて、それを関係者たちもヨシとしてきたため、完全に芝居の経験がゼロであった。だが、今回その未経験が逆に功を奏して“話題性”と“視聴者の好奇心”という観点から需要があるのでは?という窮地の打開策となった。
これに対して会議で唯一反対したのが愛藍の下積み時代から共に二人三脚で歩んできたマネジメント担当の冴木誠だった。冴木は愛藍を連れて社長の元へ行った。
「社長、愛藍のファンはアーティストとして信念を貫く真っ直ぐな“Aila”を支持しているはずです。美彩希のスキャンダルのタイミングで急にドラマに出たりなんかして、もしファン離れなんてことになったら……」と話す冴木の言葉を遮るように社長が
「すまん、Aila、分かるよな。このままだと社員たちへの影響も……。社員の中には家族を抱えてる人間も多くいる。Ailaを支えるメンバーの中にだっている。お前で生計を立てている人間がたくさんいるんだ。頼むぞ」そう言ってお詫び行脚のため、二人を残して出ていってしまった。冴木が
「愛藍? いいのか? 俺、もう一回社長と話そうか? 常務にももう一度かけ合うからさぁ」と気遣うが、これに対して愛藍は
「まこさん、ありがと。いいよ。……そうだよね、まこさんとこも赤ちゃん生まれたばかりだもんね! 私も好きなことさせてもらってきてるわけだし。事務所もみんなも大変だよね。……ドラマかぁ、自信ないけど。……でも頑張ってみよっかな。一度だけだし……。ファンの方に理解してもらえるように何か考えなきゃね。ねぇ、レッスンの時間とれるよね?」
と言い、女優業を“一度限り”ということで受け入れることにした。




