第19章『シンデレラが一度消えるのは鉄板』
第19章『シンデレラが一度消えるのは鉄板』
1 マリッジブルー?
愛藍がディナーショー翌日から行方を消したとのことで冴木以外の事務所のスタッフは大慌て。大野にも連絡が行き、慌てて帰国した大野の元に弁護人から訴状が届く。愛藍を取り戻したい大野は、あの手この手で何とかマスコミを動かした。分かってはいたことだが、大野の執拗な執着と反撃により晃太郎が再びターゲットになってしまい、イメージダウンした。愛藍は大野の洗脳のような圧力が怖くて何日も不安な日々を過ごした。それを察した晃太郎は、自分のことは動揺していなかったが、とにかく愛藍のことが心配だった。朝、目が覚めるたびに愛藍を探しては抱きしめて、を繰り返す日が続いたある日のこと。様々なことへの対応をしながら仕事に追われて疲れを見せる時がある晃太郎の様子を見て、愛藍はより一層不安定になっていた。“俺が何とかするから心配しなくていいよ”と言われて晃太郎に全てを託した愛藍だったが、負担をかけていることへの罪悪感や大野への恐怖から晃太郎に対しておんぶに抱っこの状態のままでいいのか? という気持ちが強くなり、受け止め切れず混乱して逃げ出してしまった。
迷い迷って行き場をなくした愛藍は、気がつくと唯一の親族・伯母と従妹のもとへ向かっていた。世間が騒いでいることを知っていた伯母が温かく迎え入れてくれた。
「前に突然、来たのよ、姫居晃太郎が! やっぱり素敵ね。逮捕されたかったわぁ。……それで、届は無事に出せれたの?」
「……うん」
「何、元気ないじゃない? どうしたの?」
「んーん、晃太郎さんに迷惑かけっちゃってるなぁって……」
「何、言ってんの? ダメよ、そんな弱気になってちゃ。変な記事も出てるけど、愛藍の逃亡と構図からも世間は分かってるって。愛藍、ダメだよ、貫くんだよ。いい、愛藍の母ちゃんも祖母ちゃんも好きな人と添い遂げられずに生涯終えちゃったんだから。墓に入ってからじゃダメなの、遅いの。今を生きなきゃダメよ。愛藍、母ちゃんの分まで、何なら祖母ちゃんの分まで幸せにならなきゃいかんのよ! 夫婦になったんだったら、自分だけの問題じゃない。2人で乗り越えるんだよ。頼っていいの。独りじゃダメ」
と、背中を押される。気晴らしだと言って、従妹と伯母が愛藍を変装させて連れ出して3人でカラオケに行った。
2 母の願い……
従妹が歌っている間に、また伯母が母の話をしてきた。
「由美子(愛藍の母)にね、昔“愛藍”って名付けた意味を聞いたことがあるの。由美子から聞いたことある?」
「うーん、何となぁーく。深くは知らないかも」
「愛藍の誕生日の9月12日の誕生花が藍なんだよね。由美子、花が好きで詳しかったでしょ。藍の花言葉が『あなた次第』なんだって。晃太郎さんから聞いただろうけど、愛藍の父さんって、ドイツ人で音楽一家でね。いわゆるセレブで。家柄がそんなだし、向こうの親っていうか……スタッフが反対してたみたいで。駆け落ち同然で事実婚してたけど……、色々あって、やっぱダメだったのよ。で、別れて少しして愛藍がお腹にいるのが分かって。ほら由美子ってさぁ、最後の最後に煮え切らないっていうか、本当はこうしたいって想いがあっても人に譲っちゃったり、諦めちゃったりする性格だったじゃん。でもね、愛藍の妊娠が分かってからは違ったんだよね。強くなったの、本当に。で『この子には絶対に幸せになってほしい』って。愛藍が歌うのが好きで歌手になりたいって言い出した時も『音楽の道だなんて、彼の血を継いでるんだなぁ』って。だから、歌のことも一生懸命応援したんだと思うよ。愛藍のお父さんのこと、ずっと好きだったんだろうね。……でも由美子は叶わなかった。愛藍の『愛するの愛』って漢字と『藍』でさぁ、“愛藍の愛は自分次第でどうにでもなる・出来る!”っていう由美子の願いが込められてるんじゃないのかなぁ……。由美子亡き今、私がお母さんの役目だよ。愛藍、明日駅まで送ってあげるから戻んなさい、晃太郎さんのところに」
「…………うん!」
愛藍が目を潤ませながらも笑顔でうなづいた。と、そこで従妹が愛藍のデビュー曲を入れ、イントロの間、マイクを使って愛藍に話し続けた。
「愛藍がデビューした時、凄く嬉しかったよー。親戚にこんなスターが生まれてさぁ。自慢の従妹だもん。で、今度は姫居晃太郎が親戚になったわけでしょ!? もう最高ぉぉぉぉ! 自慢ネタが増えたよね。姫居晃太郎さぁ、うちのご飯めっちゃお替りしてたよねw ねっ、母さん! ……愛藍のファンは皆、“愛藍が幸せになること”を願ってるよ! 姫居とお似合いだって皆そう思ってるから。はい、歌おっ!」
と愛藍にマイクを渡して手を引っ張って立ち上がらせて急にテンションが爆上がりした従妹。そして、間奏になる度に
「そうそう、姫居晃太郎さぁ、愛藍のこと、昔、番組で見かけた時に直ぐ好きになっちゃったんだって! 秒で好きになるとか、マジ小学生かっつーの。あと、愛藍の作るホウレン草とツナの卵焼きと豆腐ハンバーグが大好きだって! 卵とハンバーグ……幼稚園児かよw それから、男のダンサーとエロい振り付けで踊ってる時、すっごい妬けるけど、めっちゃグッて堪えてるってよ! ウケるぅ~w あっ、愛藍の昔の写真欲しがってたから、ヌード写真くれてやった! 小っちゃい時の水遊びのヤツねw」
と、晃太郎と会話した時の情報を取りこぼすことなくマイクを通して毒舌で提供してきた。愛藍は笑えてしまって歌どころではなかった。が、久しぶりに伯母と従妹からパワーをもらって元気を取り戻していた愛藍だった。そして、天涯孤独なんかではないんだ! と感じさせてくれる2人に勇気ももらっていた。
カラオケから帰宅して伯母は「あの人(晃太朗)、多分……相当賢いと思うよ。年齢もあるだろうし、その業界も長いわけでしょ。散々色々見てきた人なんだから、大事な商品に下手に手を出せば事務所とか業界の圧力がかかるって想定できるじゃない。で、実際に今それが起きてるわけでしょ! でもひるまないわけだから……。むしろ大胆に宣戦布告したんだから。きっと、秘策も何も無しに感情だけで愛藍の事務所に対してそこまで大きく動けないと思う。推測だけどね……。どう? ドラマっぽいでしょ!?」と言ってきた。クスッと笑いながらも、強ち否定はできないな、と冷静になれた愛藍がすんなり話を受け止めて納得した。
翌日、晃太朗の元に返すため、伯母は愛藍を駅まで送った。そして、愛藍には何も言わずに晃太朗へ『愛藍、やっぱり家に来ましたよ。一先ず無事です。マリッジブルーですw 落ち着いたのでそちらへ帰るとのこと。今、駅で見送ったところです。晃太朗さんとの約束があるとのことで直接向かうと言ってました』と連絡を入れておいた。




