第16章『逆を行く王子のkissで“眠る姫”』
第16章『逆を行く王子のkissで“眠る姫”』
数か月ぶりに、やっと逢えた晃太郎と愛藍だった。黒川が、“行きなさい!”と言って優しく愛藍の背中を押した。晃太郎は黒川に会釈した後、愛藍に歩み寄り、手を差し出して
「踊っていただけますか?」と尋ねた。
……涙が溢れていた愛藍。それを拭う晃太郎。ただ、愛藍の表情は複雑そうだった。察した晃太郎が愛藍に“社長の大野が日本にいない”ということと“冴木が信用の置けるスタッフしか連れてきていないこと”、またこのホテルのオーナーが“知人だから安全”だということ、そして、愛藍の“別れるしかなかったという状況”だったことも全部理解していると伝えると、やっと安心した顔になった。夢のような再会のひと時を現実だと受け止められないながらも愛藍は幸せをかみしめる。こんなに近くに晃太郎がいるという喜びから泣けてしまい、踊ることが出来ないでいた。晃太郎も、差し出していた手で愛藍の体をそっと引き寄せ、もう片方の手で頭を包むようにして優しく自分の胸にもたれさせ、しばらく頭をなでた。
少し落ち着いてきた愛藍が胸の中で晃太郎の顔を見上げて頬に触れた。曲が終わってしまったが、大河内が気を利かせてUnchained Melodyを再度演奏してもらうように呼びかけた。曲が再びかかり、晃太郎がもう一度、愛藍の手を取り、踊り出した2人。晃太郎が愛藍の耳元で話しかけた。
「そのドレスね、ウェディングドレスなんだよ。EMMAちゃんが愛藍の好みで『絶対これ!』って自信満々で選んでくれて」
「そうなの? なんか、打ち上げなのに妙に手が込んでて可愛すぎると思ったんだ!」
曲が終わり、次の曲に変わる頃、絶妙のタイミングで晃太郎の元へ大河内があるものを持ってやって来た。それは……宝石店に保管されたままだと思っていた、あの指輪だった。晃太郎が大河内の持つジュエリーBoxから指輪を取り出して、仲間が見守る中で片膝をつき、愛藍の手を自分の手に取り、薬指にはめた。皆の祝福の拍手や指笛が飛んだ。
「あっ、ちょっと待ってね。もう1つ!」
と言って立ち上がり、髪留めを取り出して愛藍の髪に付け、「お帰り!」と言いながら両手を広げた。愛藍は晃太郎を泣き顔で見つめ、髪留めを触りながら晃太郎の広げた両手に飛び込んだ。仲間たちは、より一層、歓声を上げて大盛り上がりであった。黒川は“カメラ回したかったなぁ!”と周りに呟いた。EMMAは冴木と三上とハイタッチした。駆けつけていた古谷は、既に酔いが回っていて泣きながら近くにいる人を手当たり次第にハグし始めて、また御用となっていた。
そして、晃太郎は愛藍の涙を拭って、人目も憚らずにkissをした。すると愛藍は……
……気を失ってしまった。
驚いた晃太郎だったが、自分の腕からすり抜けていきそうな愛藍を直ぐに抱きとめた。冴木たちも駆け寄り、愛藍を囲んだ。EMMAが首と腕の両方で脈を確認して問題がないと分かり、一先ず安心した。そして、機転を利かせて心配する仲間に
「大丈夫でーすっ! ちょっと……あれかな……久しぶりの王子のkissでビックリしちゃったっぽいです。皆さん、大丈夫なんで、残りの時間まだまだ楽しんでってくださーい!」
と不穏な空気を一変させて会場を気遣い、晃太郎には
「私、預けた荷物持ってきますね。愛藍のこと、お願いします」
と手際よく動いた。晃太郎は愛藍を抱き上げ、そこに三上が気を利かせて愛藍の足元を隠すように上着をかけ、宿泊予定のスイートルームに運んだ。念のため、ディナーショーで待機してもらっていた医師を冴木が呼び、来てもらうことになったが、待っている間に耐え切れない様子でEMMAが晃太郎に愛藍のこの数ヶ月の仕事の過密さや社長の大野とのことを打ち明けた。
「実は……少し前に愛藍、舌を嚙んで……。ツアー初日、景気づけにって社長からディナーに誘われたそうなんですけど、食事に使われたホテルがスポンサー企業のところで断りづらかったそうで。で、行ったらインルームだったとかで。無理矢理……迫ってきたらしくて、テーブルにあった食事用のナイフを咄嗟に喉に当てて必死に抵抗したみたいで。たまたま近くで冴木さんが打合せしてたらしくて駆け付けたら、愛藍が泣きじゃくって部屋の隅で震えてたそうなんです。嚙んだ舌の傷や出血量は大事には至らなかったんですけど、まぁ、しばらくご飯もまともに食べられないし……。それまでのスケジュールもタイトで疲弊してたし。ツアー初日の夜にそんなことがあったんで。……残ってた楽曲のレコーディングも急に拠点を海外に移されたりとか、Alessaのことも本当急に引き離されたりしてショック凄かったし。社長の縛りと独裁体制がとにかく尋常じゃなかったんですよね。本当色々あって……。で、その静養からわりと直ぐのショーじゃないですか。でも、愛藍が歌いたいって飛びついたんですよ。きっと、ファンの皆への申し訳なさや安心させたい気持ちとか、社長からも解放されて張り切っちゃったのかもしれません。……からの極上のサプライズですから……ねぇ」
これを聞いて晃太郎は言葉を失っていた。すると、医師が到着した。EMMAの言う通り【過労とストレス】だと判明した。ゆっくり体を休ませれば問題ないとのことで、EMMAは、晃太郎に安心して愛藍を任せることにした。そして、打ち上げ会場に再度顔を出して皆に愛藍の無事を報告して、その足で晃太郎に頼まれていたAlessaを見てくれている彼氏のところに合流すると告げて部屋を後にした。
晃太郎は、EMMAに礼を言って見送ると、今度は別室で待っていた冴木と三上と3人で少し話し込んだ。話を終えて冴木と三上に礼を言ってエレベーターホールまで送り、再び愛藍の休んでる部屋に戻った。そして、愛藍のそばで寝顔を見ながらずっと優しく頭をなでていた。
愛藍が目を覚ました。晃太郎は、倒れた原因が過労だったと伝えた。そして、水を差し出して飲ませた後、自分もベッドにもたれ込んだ。愛藍を抱きしめ、顔を引き寄せて再び頭をなで、“自分への愛”が消えていないか? を改めて聞いて確かめた。愛藍は……
「……忘れたことなんてなかったよ。……でも、どんどん覚えてた顔が薄れていっちゃって、声も思い出せなくなって悲しくて辛かった。授賞式の時、もう一度こうさんの顔を焼き付けたいと思って見てたよ……」
と言う愛藍の言葉を聞いて、また愛藍の頬に伝う涙を見て指で拭い、晃太郎はもっと強く抱きしめた。




