嘘つき王子をぶん殴る旅に出ます
私の婚約者であるジュリアン王子殿下は嘘つきだった。
「ずっと一緒にいよう、一生大切にする」と言ったのに、ある日突然婚約破棄を突きつけてきたのだ。
「もう二度と君と会うことはないだろう、自由に生きろ」
自分はこの国を攻めてきた魔物の大軍相手に、最前線に出征するから、と言って。
「私は治癒魔法が使えます! どうか連れて行ってください! ジュリアン様」
「勘弁してくれ、もう君のことなんて嫌いなんだよ。そうやって思い上がっているところも、どこにでも私に付いてこようとするところも。だから大嫌いな君が隣にいたら実力を発揮できない。消え失せろ」
彼はそのまま出征し、帰っては来なかった。
だったらなんで、「自由に生きろ」なんて言ったの? 憎まれ役をするなら、ちゃんと演じ切ってよ!
「嘘つき! 嘘つき! 嘘つき!」
私は泣き濡れながら叫んだ。
この国でも有数の炎魔法の使い手だったジュリアン殿下は、最前線で炎の極限魔法を行使して魔物の大群を壊滅させたが、遺体も残らなかったらしい。
……待って、遺体も残らなかった?
炎魔法の使い手は炎に耐性があるのに?
確かに土すら溶けて溶岩になるほどの極限魔法だったと聞いてはいるけれど、それほどの炎魔法の使い手が、遺体も残らないほどに燃え落ちるだろうか。
そう考えた私は、実家である公爵家の諜報員を使って調査を開始した。
そうすると、隣国にものすごく強い炎魔法を使う冒険者が忽然と現れたという噂を聞きつけた。
その冒険者は半身を火傷痕に覆われ、魔物よりも恐ろしい見た目をしているという。
怪しい。
とっても怪しい。
そう考えた私は、家を出奔し、自ら冒険者となって隣国に渡った。
お父様はカンカンに怒っていたけれど、知ったことじゃないわ。
私は、嘘つき王子をぶん殴るために、彼に会いに行くと決めたのだから。絶対、彼は生きているのに違いないのだから。私はそう、信じている。
回復術師として冒険者登録をしに行くと、お嬢ちゃんが来るようなところじゃない、といかにも荒くれ者な冒険者に絡まれた。
その人は隻腕だったので、超上級回復術をかけてあげたら腕が生えた。
崇められた。
うんうん、回復術の訓練をサボらなくて良かったわ。
そうして私は凄腕回復術師として冒険者達の間で評判になり、隣国へ渡るパーティーに潜り込んだのだった。
隣国のダンジョン都市へ渡ると、そこには活気のある冒険者街がある。その酒場へ入ったら、またここはお嬢ちゃんが来るようなところじゃないと絡まれた。
おでこが涼しそうだったので、超上級毛根回復魔法をかけてあげた。
生えた。
崇められた。
よし。
そこで私は凄腕炎使いの噂を探る。
「ああ、リアンのことか? あいつならダンジョンの深層に挑むとか言って、まだ帰ってきていないが」
炎魔法の使い手であるジュリアン殿下、炎魔法の使い手である、リアンという冒険者。
怪しい。
とても怪しい。
私は早速ダンジョンの深層に挑むことにした。
『ダンジョンの深層へ挑む同行者募集
※パーティー参加者には優先的に毛生え回復魔法をかけます』
と募集したら、すごい勢いで応募が来た。
生やした。
たくさん生やした。
そうして50人からなる大規模な攻略組によって、ダンジョンの深層へ挑むことになった。
ランクはバラバラだったけれど、怪我をしたら即超上級の範囲回復魔法をかけていく。冒険者生活で私の回復魔法もどんどん磨かれていった。
そうして、深層にたどり着いた時。前方にはドラゴンと戦っているパーティーがあった。
どうやらここの階層のボスと戦っているみたい。
そのパーティーの回復術師が魔力切れになっていて、回復が追いついていなかったみたいなので範囲回復魔法をかけてあげた。
「こ、この回復魔法は、まさか!」
そうして回復してあげた人の一人が、驚きの声をあげる。その声はとっても聞き覚えのあるものだった。
「みんな! 私いますぐやりたいことがあるからドラゴンをさっさと倒して」
私を崇めているふさふさ軍団のみんなが鬨の声をあげる。
そうしてドラゴンは一瞬で倒された。
「き、君は! どうしてこんなところに!」
「どこかの嘘つき殿下をぶん殴るために旅に出たのです」
「それは……仕方なかったんだ。君を巻き込みたくなかったし、案の定俺は火傷でこんななりだ。子を成すことすら出来ない体になってしまったのに、今更君のもとへ戻るわけにはいかないと思ったんだ」
私は冒険者生活で使えるようになった回復の極限魔法をかけた。
ナニカが生えた。
見えないけど多分生えたんだと思う。殿下がびっくりしている。
私は、嘘つき王子の頭を杖でごつんと殴った。
「嘘つき。私のことが嫌いだというなら自由に生きろなんて言わないで」
「それは、……すまなかったと思っている!」
「じゃあ、結婚してくれますよね?」
「えっ? 今更俺にそんな資格……」
「結婚してくれますよね?」
私はふさふさ軍団をバックに据えて圧力をかけた。
殿下は跪き、私の手をとる。
「はい、喜んで。ずっと一緒にいよう。一生大切にする」
今度は嘘つかないでくださいね、殿下。