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8.婚約者と専属メイド








───ルーナリアとの婚約から1年が経った。


この1年、魔法の研究や体力作り等自分にやれることをやってきた。お陰で洗脳魔法はだいぶ細かく命令を出せたり記憶をピンポイントで消したり出来るようになり、多少の運動で息切れしなくなった。


だが、1番変わったのはダストール家───更に言うなら俺の立場だろう。


「ヘイト?どうかしましたか?」


「……何でもない」


その元凶である第1王女───ルーナリアはダストール家の庭で俺と向かい合わせにテーブルに座りながら、ティエナが淹れた紅茶を美味しそうに飲んでいた。



ルーナリアは婚姻を話しに来た時に宣言した通り、何度もダストールの屋敷を訪れた。魔法が使えることを隠しているため、ルーナリアの立場が弱く王族でありながら自由に動けるという皮肉に苛立ちを感じたりもしたが、そんな俺の心境を文字通り読んだルーナリアは割と早めに魔法が使えることを父親───現国王に開示したのだ。

──結果、今までルーナリアを貶していた有力貴族や使用人達は揃って掌を返し持ち上げ始め、国王は今の婚約を破棄し新しい婚約を取り付けようとしたが、それらをルーナリアは()()()()()()()()らしい。

そうして、ルーナリアにそっぽを向かれた有力貴族達の矛先はその婚約者───つまりは俺に向いたと言うわけである。


「あんな者達の戯言なんて聞き流せばいいのに、ヘイトは優しいですね」


「ルーナリアにとってはあんな者達でも、俺からしたら目上の人達なんだよ」


今後便宜を取り計らって欲しいための貢ぎ物はまだマシな方で、酷いものだとルーナリアとの婚約を破談にさせるため娘を紹介してくる貴族までいる始末だ。


「……後で娘を紹介してきた貴族の名前を纏めておいてもらえます?」


「だから、(さとり)使うのやめろって!?」


ナチュラルに固有魔法で心を読んでくるルーナリアにツッコミを入れてから紅茶を一口飲んで、トイレのために少しその場から離れた。







「ふふっ、少しからかい過ぎたかしら」


ヘイト様が去っていった方向を見つめながらルーナリア王女が笑みを浮かべるのを私───ティエナは静かに見ていた。


(ルーナリア・レーヴ───レーヴ王国の第1王女。半年前まで魔法が使えない無能王女と蔑まれていたが、光と闇の2つの魔法が使えると分かってから一気に王位継承候補筆頭にまで権力を高めた)


何故王女がヘイト様と婚姻を結んだのか知るために王女が婚姻の話をしに来た日から情報収集を行ったが、全く手掛かりは掴めなかった。


(何かあったとすれば、やはり第一王女の誕生パーティが可能性として一番高い……ですが───)


「───その一回だけで婚約を結ぼうとするとは思えない、でしょう?」


「……大変失礼なことを考えました。申し訳ありません」


私が思っていたことに対して返答するルーナリア王女に対して、すぐさま頭を下げ謝罪の言葉を述べる。


「私の固有魔法について、ヘイトから聞いていたのでしょう?だからこそ、貴女は()()()()()魔法の効果範囲内に入ってこようとせず、入っている時は無心でいた」


「……罰ならば、如何様にも」


どうやらルーナリア王女は魔法の研鑽によって、ヘイト様から以前教えて頂いた固有魔法の効果範囲を広げたようで私の心を読んだらしい。


「そうですね。では、1つ質問に答えて貰えるかしら?」


「……承知しました」


ルーナリア王女は固有魔法で本心を読み取るため、嘘は通じない。どんな質問であっても本心から答えるしか道はなかった。


(いったい、どんな質問を……)





「貴女、ヘイトのことを愛していますか?」




「……っ!」


ルーナリア王女の質問に息を飲む。何故自身の婚約者のことを愛しているのかと問うのか、ルーナリア王女の固有魔法のように心を読む術のない私に理由は全くわからない。


(答える内容によっては、首をハネられても可笑しくはない……)


国の第一王女の婚約者を愛しているなど、冗談でも言えるようなものではないだろう。それが本心だったとしても、だ。





「はい。私は、ヘイト様を心から愛しております」




───それでも私は、この気持ちに口先であろうと嘘はつかない。


「彼は私の婚約者ですよ?」


「誰の婚約者なのかは関係ありません。ヘイト様だから、私は愛しているのです」


───こんな私の目を、初対面で綺麗だと言ってくれたことを覚えている。


───私のために、自分の味覚を与えてくれた優しさを覚えている。


「誰が相手であろうと、この気持ちだけは偽りたくありませんので」


そう宣言した私をルーナリア王女は暫く見つめた後、ゆっくりと息を吐いた。


「ふふ。思った以上に、ヘイトは節操がないようですね」


「……ルーナリア王女?」


言葉とは裏腹にとても嬉しそうなルーナリア王女を不思議に思っていると、ルーナリア王女が手招きをしたので近付く。


「私の魔法は、彼が私を洗脳して扱えるように発現させてくれたから使えているのですよ」


「っ!それは……」


「えぇ。貴女と私は似た者同士、ということです。ですので、ここは1つ協定を結びませんか?」


「協定?」


ルーナリア王女の言葉に疑問を抱く私に、ルーナリア王女は話を続ける。


「えぇ。魔法が使えることを公にし権力も増した事で、私は今よりもヘイトと会えなくなります。その間に彼の善意に付け込む不届き者達が必ず出るでしょう。貴女には、それを処理してほしいのです。対価は───


───貴女とヘイトの関係を認める、でいかが?」


「っ!?」


ルーナリア王女の提案に流石に目を見開く。それは私にとって余りにも都合が良すぎる協定だ。


「……元よりそのつもりでしたから、私としては願ってもないです。ですが、何故?」


「私と同じヘイトの優しさに救われた貴女なら、信頼出来ると思ったからですよ。それに、貴女を敵に回すのは怖そうですし」


冗談交じりに言うルーナリア王女がこちらに手を差し出してくる。


「改めて、ルーナリア・レーヴよ」


「……ティエナ、です」


ルーナリア王女の手を取り、握手を交わす。




「ごめん、遅くなった。……ん?」


握手をやめた所でヘイト様がトイレから戻ってきた。


「なんだが2人とも機嫌が良さそうだけど、何かあったの?」


「ふふ。乙女同士の内緒話ですので、ヘイト様には秘密です。ね、ティエナ?」


「……はい、ルーナリア王女」


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