10.本音
「……これはソラーレ王女。お初にお目にかかります」
素早く頭を下げ、敬意を示す。王位継承候補筆頭であるルーナリアの婚約者の俺は正確にはソラーレと対等以上の立場になるが、あくまで婚約者段階であり中級貴族の俺が礼を欠いてはならないという当然の考えから行動に移し、ソラーレの質問に答える。
「仰る通り、私がヘイト・ダストールです」
「そう、貴方が……」
頭を下げたままソラーレの顔を盗み見るが、不機嫌そうな表情は変わっていない。
(……大方、俺みたいな奴がルーナリアの婚約者であることに不満があるのだろうな)
ルーナリアの婚約者である俺───正確に言えばルーナリアが魔法を使えることを発表して王位継承候補筆頭になってからはご機嫌取りに必死な貴族達を相手にしていたため忘れていたが、洗脳魔法を使えるが故に俺は周りから敬遠されていた。
【クリエイト・フューチャー】でのソラーレはルーナリアを慕っており、彼女が死んだものと聞かされた時は酷く取り乱していた程だ。そんなソラーレからしてみれば、大好きな姉の婚約者が洗脳魔法を使う奴だなんて気が気ではないのだろう。
「それで、私に何か御用でしょうか?」
本当はこんな分かりきった地雷を踏みたくはないが、王女を無下にするわけにはいかないため話を切り出す。
「どうして、お姉様は彼を婚約者に……」
「……あの、ソラーレ王女?」
ソラーレが何か言っているが小声すぎて聞き取れず、改めて問い掛けるとその目を更に細めて俺を睨み付けてきた。
「ヘイトさん。お姉様と初めてお会いした時、何方か側近はおりましたか?」
「……婚約が決まったことをルーナリア王女自身が直接伝えに我が屋敷に訪れた際に初めてお会い致しましたが、側近はいませんでした」
俺の言葉を聞いたソラーレは顔を歪ませ、詰め寄る。
「では、貴方がお姉様に洗脳魔法をかけていないとは言い難いのですね」
ソラーレの無遠慮な物言いに、俺は目を見開く。いくら王族でルーナリアの妹とはいえ、こんな真っ直ぐに言ってくるとは思っても見なかった。
(ただまぁ、人を意のままに操る魔法なんだから疑われて当然だな。それに、理由がどうあれ俺がルーナリアに1度洗脳魔法をかけたのは事実だしな)
それでも、俺は言葉を紡ぐことにすることを決める。
「洗脳魔法が使える私が何を言っても無駄であることは承知しています。それでも、私はルーナリア王女と屋敷でお会いしてから洗脳魔法は掛けていないと宣言します」
「っ、信じられないと分かっていて言葉にするのですか……!」
───言葉を強めて告げるソラーレを、真っ直ぐ見つめ返す。
「言葉を尽くさなければ想いは伝わりません。少なくとも、俺はルーナリア王女にそうしています」
「っ!……そう。もう結構です」
最後にそう吐き捨てソラーレ王女は俺から離れて行く。メインヒロインであるソラーレにかなり嫌われはしたが、ルーナリアの婚約者になった時から覚悟していたことだ。
(とはいえ、嫌われるってやっぱり辛いな……)
テラスから夜空を見上げながら、俺は内心そう溢した。
◆
───お姉様に婚約者が出来た。
お父様からそう聞かされた私───ソラーレ・レーヴの心は荒れた。
(お姉様に婚約者が……しかも相手は洗脳魔法を使う貴族の長男だなんて)
心優しいお姉様が婚約者に取られる、しかも相手は洗脳魔法なんて恐ろしい魔法の使い手だと知って心穏やかになれる筈がない。それなのに、婚約してからのお姉様は私にも見せたことのないような笑顔を見せるようになった。
───だからこそ、この集結会は絶好の機会だった。
テラスに行ったのを確認した私は、彼に話しかけお姉様に洗脳魔法をかけたのか問いただした。結果、彼は怯えたり慌てたりすることなく堂々と信じてほしいと答えた。
(……嘘をついているようには見えなかった。けれど、今後も洗脳魔法を使わないとは信じられない)
これからも注意をする必要があると勝手に決め、他の貴族の方々との挨拶を再開する。
───心の奥底に、嫉妬を隠して。




