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魔石が欲しかっただけなのに  作者: かに
魔石が欲しかっただけなのに
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「土魔法の秘術、見せてやろう」

「え?」


・・・魔法?


そうだ。


魔封じの魔道具を外したのだから、魔法が使えるはずだ。


「アイスボルト!」


何も起こらない。


「アイスジャベリン!」


何も起こらない。


焦燥感がわたしを襲う。


「どうして・・・アイスストーム!!」


「ごめん、もういいよ」


彼に静止されて、わたしは詠唱を止めた。その口調は決して威圧的なものではないのに、何故かわたしは逆らうことができない。


「やはり、ゲートが壊れてる」


「ゲート?」


何のこと?


「魔道具で閉じられたゲートを、強引に開けたからね」


「あの、意味がわかりません・・・」


ぽかんとするわたしに、彼は衝撃的な宣告をした。


「君は魔法が使えなくなった」


「・・・何を言って!」



ずがーーん!!



激しい衝撃音が轟いた。


壁が砕け、大量の石礫いすつぶてがバラバラと雨のように降る。


「きゃああっ!」


「しつこい奴だな」


わたしは、再び彼の腕に抱えられ、空中へと跳び上がっていた。



「妻を誘拐するとは、いい度胸だ」


それは、伯爵様の声だった。


「ただで済むと思うなよ」


わたしは、およそ人間とは思えない姿になった伯爵様のことを思い出し、思わず身を強張らせる。


「新妻を生贄にするあんたも、どうかと思うけど」


フードの男の人は、わたしをかかえたまま、少しの衝撃もなくふわりと小高い丘の上へと降り立った。そして彼はわたしを、その丘の上にあった崩れた城壁の影に下ろした。


「動かないこと。いいね」


相変わらず、彼の言葉は穏やかだ。


「・・・はい」


わたしは、言われるがままに石畳に座り込む。不思議と冷たさを感じない。


彼は私に向かって手をかざした。すると、わたしの周りを囲むように、青白く光る薄いドーム状の膜が現れた。


「結界だ。ここから出ないこと」


「結界魔法・・・!?」


結界魔法は、闇魔法のはず。


この人、風魔法使いじゃなかったの??


「そこにいれば安全だ」


彼はそう言い残すと、伯爵様がいる方向へと大きく跳躍した。



「貴様、何者だ」


「通りすがりの宇宙飛行士アストロノーツだ」


宇宙飛行士アストロノーツだと?なんだそれは?」


伯爵様の怒鳴り声が、わたしのところまで聞こえてくる。


それに答える彼の低い声は、よく聞き取れない。『宇宙飛行士アストロノーツ』と言ったのが、わずかに聞き取れただけだった。しかし、その言葉の意味は分からなかった。


「風魔法が使えるようだが・・・レスターの手のものか?」


伯爵様の声は、まるで吠える狼のようだ、いつもの、紳士的な伯爵様の話し方からは、およそ想像がつかない。


「あるいは、魔導士団か・・・、いや、連中はこのような闇討ちのようなことはすまい。正面から堂々と来るはずだ」


黒いフードの「彼」はまったく動かない。彼の声も聞こえない。


「まさか、アヴィシュカルタの刺客か?」


アヴィシュカルタ。


わたしは、どこかで聞いたことがある言葉だと思った。でも、それが何だったかを思い出すことができない。


「ふむ。だんまりか。まあ良い、その身に聞いてやろう」


その言葉を発した次の瞬間、伯爵様の姿は「彼」の至近距離にあった。


・・・速い!


まったく見えなかった。


伯爵様の動きは、わたしが戦ってきたどんな魔獣よりも速い。


「ふん!」


膨れ上がった、巨大な拳で「彼」に殴りかかる伯爵様。



ズガーン!



拳が城壁にめり込み、ばらばらと石壁が崩れ落ちる。


「!!」


思わず息を飲んだ。


しかし、拳はわずかに「彼」の頭を外れていた。


すぐに、伯爵様の左腕が「彼」を襲う。


だが、その拳も当たらない。


「少しはできるようだな」


右、左、また右と、伯爵様は拳をくり出す。


その攻撃は、わたしの目では追うことすらできないにも関わらず、「彼」は最小限の動きで避け続けている。


「すごい・・・」


無意識のうちに、わたしは感嘆の声をあげていた。


「ふん!」


業を煮やしたのか、伯爵様は両手を組むと、「彼」の頭上から叩きつけた。



ドゴーーン!!



地面を穿うがつ轟音が響いた。振り下ろした拳が、石畳を粉砕して石礫へと変える。


カツン


「!?」


すぐ近くで聞こえた音に、わたしは敏感に反応する。すぐにそれは、飛び散ったちいさな破片のひとつが、青白く光る結界に弾かれた音だとわかった。


わたしは再び二人へと視線を戻した。


立ち込めていた土煙が、ゆっくりと晴れていく。


そこには、腕組みをして直立している「彼」の姿があった。まったくダメージを受けた様子が見えない。


「ならば、これはどうだ」


伯爵様の体から紫色の靄のようなものが沸きだす。それは、すぐにその巨体を覆った。


わずかな時間のうちに、伯爵様のもともと大きな体が、さらにひとまわり大きくなったように感じた。



ズガーン!



激突音が聞こえた。


音がした場所は、伯爵様がいる場所から少し離れている。わたしは、慌ててその方向へ視線を移した。


大きく凹んだ城壁の中心に、黒いフードが見えた。ガラガラと崩れ落ちる瓦礫とともに、そのフードも地面へと落ちる。


「そんな・・・!?」


「ふん、他愛もない。所詮は人間か」


伯爵様は崩れた壁に向かってそう言い捨てると、周囲を見回した。反射的に城壁の影に身を隠す。


「娘は・・・そこか」


こちらは見えていないはずなのに、何故か伯爵様はまっすぐにわたしの隠れている城壁へと向かって歩いてくる。


「わたしから逃げることなどできぬ。地面に触れている者は、わたしの土魔法でやたすく見つけることができるのだよ」


得意げにそう語りながら、伯爵様はわたしとの距離を詰める。


土魔法を使って、そんなことができたなんて。


真っ赤に光る二つの瞳が、すぐそばに迫る。わたしは、駆け出そうかと一瞬躊躇した。



ズガーーーン!



「ぐはっ!」


巨体が吹き飛び、石柱のひとつに激突する。大きな音をたてて、石柱が倒れた。


「どこへ行く気だ?」


わたしの目の前に立っていたのは、黒いフードの彼だった。


「信じられん、あれだけの攻撃を受けて、まだ立てるとは」


大きな石柱の残骸をはねのけながら、伯爵様がその巨体を起こした。


あんな勢いで激突して、大したダメージもないなんて、伯爵様はやはり人間では・・・


でも、それを言えば、城壁が崩れるほどの威力で投げ飛ばされた「彼」も、ダメージを受けている様子がない。


いったい、この二人はどうなっているの??


「そのタフさだけは、認めてやろう」


伯爵様はすばやく「彼」に詰め寄ると、猛烈な勢いで攻撃を始めた。あまりの速さに、わたしは伯爵様がどちらの腕で攻撃しているのかすら、見分けることができない。


しかし「彼」は確実に攻撃を避けている。それどころか、ときどき反撃すら入れている。次第に、猛攻を繰り出しているはずの伯爵様のほうが、苦しそうな声を上げ始めた。


「小癪な!」


「彼」は伯爵様の渾身の一撃もかわすと、すばやく足払いを入れた。


巨体が空を舞い、地面に転がる。


「馬鹿なっ!」


その大きな体からは想像もできないほど、素早い身のこなしで伯爵様は飛び退すさり、「彼」から距離をとる。


「ここまでやるとはな」


二人は距離をとったまま、しばらくの沈黙が続いた。


「やむを得ぬ」


伯爵様が呟く。巨体を覆う紫色の靄が、いっそう光を増したように見えた。


次の瞬間、その大きな体は「彼」の目の前にあった。僅かに身を捻り、攻撃をかわそうとする。


「無駄だ!ロックアーム!」


突如として、地面から大きな岩の腕が生えた。


その腕は、避けようとする「彼」に掴みかかった。「


ズガーン!


伯爵の拳が「彼」を撃ち抜いた・・・かに見えた。


「土魔法だと!?」


その大きな拳は、地面から生えた巨大な岩壁で完全に防がれていた。「彼」につかみかかろうとした岩の腕も、やはり岩盤で動きを封じられている。


「土魔法も使えるの!?」


わたしは思わず叫んだ。


そんなはずはない。


「彼」は風魔法使いのはずだ。


あれだけの風魔法を使いながら、土魔法も使えるはずか・・・


わたしは、自分の常識が音を立てて崩れていくのを感じた。


「ぬうう!」


地面や壁、石柱と、「彼」の周囲のあらゆる場所から岩の腕が生えた。そして、それらが一斉に拳をつくり、「彼」に殴りかかる。


しかし、続々と生えてくる岩の壁に、すべての攻撃が防がれた。石の腕と石の壁は、激突すると、互いに粉々に砕けて地面に落ちる。


「なに!?」


ガラガラと岩の破片が落下する中、突如として伯爵様の足元に岩の腕が生える。右脚をむんずと掴むと、空中に持ち上げようとした。


「ぐぬうう!」


岩壁から別の腕が生え、伯爵様の脚を掴んでいる腕に一撃を喰らわせた。


炸裂音がして、岩の腕が崩れ落ちる。


「貴様、土魔法でわしに挑もうとは・・・!」


これまで、ずっと余裕の態度を崩さなかった伯爵様も、自分の土魔法を真似られたことには、衝撃を受けたようだ。


「彼」から大きく距離をとる。


「死出のたむけだ。わが土魔法の秘術、見せてやろう」



ドドドドドドド・・・



どこからともなく、地鳴りのような音が響いてくる。わたしは周囲を見回した。


「まさか、そんな・・・」


地面がそこかしこで割れ、大きな岩がゆっくりと空中に浮かんでいく。その数は、ひとつやふたつではない。何十といった数だ。


それらの岩は、「彼」を中心として円の形に集まり、そのままゆっくりと回転を始めた。


「彼」が跳躍する。


「逃がさぬ!」


岩の群れは、彼を中心とした円の形を崩さず、跳躍する彼を追いかけた。「彼」は石壁の上を凄まじい速度で移動していくが、回り続ける岩の「円」は完璧に彼を捉えていた。


「彼」が再び大きく跳躍する。


高速で回転する巨石の円も、同時に空中へと飛んでいく。


「終わりだ。アースボルト・ヘルクラッシュ!!」



ズガガガガガガガガガ!!


空中に浮かんだ岩々が、まるで「彼」に吸い込まれるかのように、猛烈な速度で激突する。四方八方から押し寄せる岩に、彼は完全に押し潰された。



ドカーーーーン!!!



爆発音が響いた。


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