その1の1「告白と帰宅」
試し書き。
2話だけ投げます。
地球にファンタジーが溢れてから、しばらくの月日が過ぎた。
人々は、多大な犠牲を乗り越え、新たな環境に適応しつつあった。
地獄のような日々は過去へと流れ、若者たちは、それぞれの青春を謳歌していた。
「ヒョードー=レイカさん!
好きです!
俺と付き合ってください!」
九月。
昼休み時。
学校の屋上で、とある男子高校生が、愛の告白をした。
少年の名は、アカバネ=シュンスケ。
ニジマス高校の1年生。
すらりとした長身で、声に魅力の有る、なかなかの美少年だった。
ダンジョン時代でも珍しい銀の髪が、陽光を受けて輝いていた。
そんな彼から告白を受けたのは、クラスメイトのヒョードー=レイカ。
水色の髪を持つ、クールな容貌の美少女だった。
身長が平均より高く、脚が長い。
胸もそれなりに有り、何よりも、そのぱっちりとした目が、男の視線を引き寄せる。
そのうえ、新進気鋭のCランク冒険者で、有名なAランククランに所属している。
学校の成績もトップで、無愛想なところを除けば、欠点らしきものは見当たらない。
1年生の女子の中でも、トップの人気を誇る、アイドル的な美少女だった。
「あなた……」
レイカが口を開いた。
対面するシュンスケは、体を固くして、レイカの言葉を待った。
「他の女子を連れて
愛の告白なんて、
良い度胸をしているわね?」
「えっ!?」
シュンスケは、慌てて振り返った。
そこには……。
「えへ。えへへへ……」
サ○コのように髪を伸ばした少女が、そこに立っていた。
幸いな事に、彼女の髪の色は、黒ではなく銀色だ。
そのおかげで、サダ○ほどの重苦しさは感じられないのだが……。
それはさておき。
「シノビてめぇ!
どうしてここに居ンだよ!?」
シュンスケは、少女を怒鳴りつけた。
少女の名は、ツキカゲ=シノビ。
シュンスケの幼馴染みだ。
彼女は衣服のような何かを、腕の中に抱えていた。
「その、そのですね?
シュンくんが
告白するって聞いたので、
応援しようと思いまして……」
「そうか。
ありがとうな。
けどだからって、
肝心の告白の時に
真後ろに立つヤツがあるか!?」
「シュンくんの後ろじゃないと……
なんだか落ち着かなくって……」
「こいつ……」
シュンスケは、頭をかかえた。
そして少し間を置いて、レイカの方を見た。
「あー……。
告白の件だけど……」
「お断りさせてもらうわ。
当然だけど」
「だよな……。はぁ……」
シュンスケは、ため息をついた。
そして、ギロリとシノビを睨みつけた。
「シノビ。てめえ……」
「ひう……」
「安心して」
セイラはシノビの方を見ながら言った。
「ヒッ!?」
セイラと目があったシノビは、慌ててシュンスケの後ろに隠れた。
「たとえツキカゲさんが
居なかったとしても、
私はこの告白を
断っていたに違いないから」
「…………。
ちなみに、俺の何がダメだった?」
「私、好きな人が居るのよ」
「えっ? マジで?」
「マジよ」
「……誰か聞いても良いか?」
「ナイショ」
「……男避けの
嘘じゃねーだろうな?」
「嘘じゃないけど……。
まあ良いわ。
べつにあなたに
信じてもらう必要は無いもの。
それじゃ」
セイラは、屋上の出入り口へと足を向けた。
そして少し歩くと、シュンスケの方へ振り向いて言った。
「そうそう。
あなた、声だけは私の好みだったわ。
あの人に、とても良く似てる」
「そいつはドーモ」
セイラは屋上から姿を消した。
「ふ……ふふふ……」
シノビが薄ら笑いを浮かべた。
「何だよ? 気持ち悪い」
「ヒョードーさん……
私のこと……
ツキカゲさんって言いました……。
隣のクラスなのに……
名前を覚えてくれてるなんて……
すごく良い人……」
「おまえの良い人の基準、そこ?
……まあ良いや」
シュンスケは、屋上から立ち去ろうとした。
「あっ、あの……!」
「……何だよ?」
「……すいません。
告白の妨害工作をしてしまって……」
「まあ、べつに良いさ」
「えっ?」
「どうせ
フられるだろうなって
思ってたしな」
「……そうなんですか?」
「そうなんだ」
「けど、好きだから告白したんでしょう?
ショックとかは……」
「勝負に負けたみたいな
モヤッとした感じはするけどな。
べつに、言うほど好きでも無かったし」
「シュンくん流の強がりですか?」
「強がりなんかじゃねーよ」
「好きでも無いのに、
どうして告白なんか……」
「だって、彼女欲しいじゃん?
高校生だから」
「高校生だから?」
「ああ」
「シュンくんは高校生だから、
好きでもない女子に
告白したんですか?」
「そうなるな。
まあ、好きじゃないって言っても、
クラスで1番カワイイとは思ってたけど」
「あの、最低だと思います」
「うるせー」
シュンスケはシノビに背を向けた。
「あっ、待ってください」
「どうせクラス別だろ」
「そうですけど。
あっ、そうだ。これを」
シノビは腕の中に抱えていた物を、シュンスケに差し出した。
「ん?」
「ジャージ、ありがとうございました」
「おう」
シュンスケはシノビから、ジャージを受け取った。
シノビはよく、体育のジャージを忘れてくる。
それでいつも、シュンスケの所に借りに来るのだった。
今日は4時間目が体育だったので、昼休みに返しに来たということになる。
シュンスケは、雑にジャージを持つと、自分のクラスへと帰っていった。
……。
放課後になった。
シュンスケは、席から立ち上がり、肩にショルダーバッグをかけた。
「じゃあな」
「おう。また来週」
クラスの友だちに、帰りの挨拶をして、シュンスケは、教室の出入り口に向かった。
「……………………」
扉の隙間から、銀色のモサモサが、教室を覗き込んでいた。
新手の魔獣のようにも見える。
それを見慣れているシュンスケは、黙って扉を全開にした。
「えへへ……」
何が楽しいのか、銀色の物体が笑った。
「…………」
シュンスケは、黙って下駄箱の方へ向かった。
シノビは、シュンスケの隣を歩いた。
だが、向かいから人が近づいてくると、シュッとシュンスケの背に隠れた。
シュンスケは下駄箱で、サンダルをスニーカーに履きかえた。
そして校舎を出た。
校庭に出たシュンスケは、学校の駐輪場に向かった。
そして、2人乗りの魔導自転車に跨った。
魔石動力によるアシストが有るということ意外は、普通の自転車と変わりない。
2人乗りと言っても、ペダルは1つだけで、いわゆるタンデム自転車とは違う。
ただシートが大きいだけだ。
「…………」
シノビはヘルメットを被ると、シュンスケの後ろに座った。
シュンスケはノーヘルだった。
シノビはぎゅっとシュンスケに抱きついた。
大きな膨らみが、シュンスケの背中に触れた。
中学生の頃には、感じられなかったものだ。
15歳くらいから、シノビの胸は、急に大きくなった。
「おまえさ……」
「何ですか? シュンくん」
「さいきん太ってきたよな」
「えっ……」
シュンスケが、ペダルに足をかけた。
……。
シュンスケの魔導自転車が、学校の敷地を出た。
法律によれば、自転車の走行位置は、車道の左端だ。
だが、この国において、そんな法律を守る者は少ない。
歩道の車道側を走るのが、暗黙の了解になっていた。
シュンスケの自転車も、歩道をゆっくりと走っていった。
20分足らずで、シュンスケは自宅前にまで到着した。
シュンスケが足を止めると、シノビは自転車から降りた。
「あ、あの……」
「何だ?」
「明日……土曜日はお暇でしょうか……?」
「いや。
明日は友だちとゲームする予定だ」
「ひぐっ……!?」
友だち。
その言葉がシノビの胸に、深く深く突き刺さった。
「だいじょうぶか?」
「だだだだいじょうぶです。
それではですね……
あさっての日曜日はいかがでしょうか……?」
「あさっても無理だな」
「どうして!?」
「あさっては、
免許取りに行くんだよな。
こないだ16になったからさ」
「免許? バイクですか?」
「いや。冒険者。
……受かると良いけど」
「冒険者の試験なんて、
簡単ですよ」
「そうなのか?」
「はい。だって……」
「だって……なんだよ?」
「いえ、その……。
みんなそう言ってますから」
「みんな?
おまえ友だち居ないだろ」
「う……その……。
インターネッツのみんなです」
「まあ良いや。
それじゃな」
「はい……。
お……お友だちと……
たの……楽しんで……
ふぐぅ……」
シノビはフラフラと、自分の家へと歩いていった。
彼女の家は、シュンスケの家の、すぐ隣に有った。
シノビが玄関の扉をくぐった。
それを見届けると、シュンスケは、自転車を家の敷地に押していった。
……。
「はぁ……」
シノビは玄関の扉に、背中を預けた。
(シュンくんと……
一緒のパーティになる
チャンスだったのに……)
シノビはそう言うと、学校指定のシャツの左袖をめくった。
彼女の手首の位置に、リストバンドが有った。
シノビはリストバンドを外した。
すると彼女の左手首に、金属製の腕輪が、巻かれているのが見えた。
それは『リミッター』と呼ばれる、冒険者の力を抑えるための装置だった。
(私が冒険者だってこと……
言えませんでした……)