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『I』を伝えきれない星で  作者: ネクタイ
8/13

人を助ける手、人を殺す手

意外だと思われるが、私の前職は医療系である。

学問は解剖生理学が得意で、パソコン、接客お手の物だった。実はまだ小説を書き始める前だったのだが、もともと文章づくりが得意で、800字から2000文字の広告記事を任されることも多かった。今同じ記事で書いたら書けるかと言われれば難色を示すだろうが、その当時は面白おかしく楽しい広告記事を書き上げていた。


もちろん医療系だから人の生死に関わることがある。

1日に何人もお見送りすることもあれば、この人はあと何日生きられるのだろうと点滴を刺す腕を抑えながら考えたこともある。


ある、おばあちゃんの手を握ったことがある。

そのおばあちゃんは私の手を握って嬉しいそうに微笑んだ。

「あなたの手は優しい手ね。」

私はそんなことないです。と言いながら会話に取り組んだ。

おばあちゃんは私を覚えてくれた。ご家族様が持ってきてくれたみかんを一緒に食べようと言ってくれた。退院時にそのみかんをもらった。嬉しかった。丁寧に頂くそぶりをして、感謝したあとゴミ箱に捨てた。無情だろうか、いや、腐敗していたのである。

おばあちゃんは認知症だった。


やがて前線から離れ、作家となった私は物語の中で人をたくさん殺すようになった。

人を助ける手は人を殺す手にかわったのだ。

あなたの手は優しいのねと微笑んでくれたおばあちゃんも、背中をさすったら喜んでくれたお兄さんも、不安に怯えていたおじいちゃんも、心が折れそうなご家族様もこの手で少しばかり何かできたのではないかと思ってきた。傲慢かもしれないが、感謝をされたこともあるし、この手は人を助けるためにあると信じて疑わなかった。

だが、今はどうだろうか。

愛する人を自分の手で永遠にする。それはとても幸せなことだし、それを望む人もいる。

この手が生み出す文章で救われる人がいるだろうか。


人を助ける手、人を殺す手。

あのおばあちゃんが言ってくれた『優しい手』は、優しさを忘れてしまったようだ。


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