【短編】俺の脳を破壊したい後輩~純愛主義者の俺はNTRを撲滅したい~
「はぁ~……今日も癒されるな。」
学校の帰り道、公園の草むらに隠れてカップルの様子を見守っていた。
俺、式守愛斗の趣味である。
付き合っていた彼女をNTRされてしまって以降、俺の脳は癒しを求めていた。
NTRによって破壊された脳は純愛で癒すしかない。
だけど自分自身が恋愛をするつもりはまだない。
脳を破壊された俺にとって、まだまだ脳は癒しが足りていない。
そう純愛が足りていないのである。
そんな俺の癒し成分補給中。
邪魔する存在が現れる。
俺の背中にたわわな柔らかいボールが押し付けられる。
「 せ ん ぱ ~ い ♡ 」
俺の耳元に唇を寄せた。彼女は蚊の鳴くような小さな声を出し、息を吹きかけた。
背筋がゾクゾクと震えたつ。思わず俺はカップルから目を離してしまい、耳を抑えた。
そこには小柄ながらも大きな大きな爆弾。
たわわな果実を実らせた少女の姿が見えるのであった。
綺麗な黒色に染まった髪の毛は腰にまで達している。左右にはぴょこぴょことしてツインテールの髪の毛が伸びていた。瞳は空のような蒼に染まっていて、鋭く釣り上がっている。わずかに開いた口にはギザギザとした歯がちらりと顔を出している。
彼女の名は名取寧々。俺の一つ下である後輩だ。
「……何しに来たんだ。お前は。」
「いやぁ~、先輩がカップルの観察なんて寂しいことしてるから会いに来てあげたんですよぉ。いつもいつも飽きないですねぇ。」
「いいだろ、これは俺の癒しなんだから。」
「ふーん、他人のイチャイチャなんて見て楽しむなんて趣味が悪いですねぇ、先輩って。」
寧々は俺に対して不満げな表情を浮かべた。
俺は寧々のそんな表情を無視してカップルの方へと視線を戻す。
少し目を離した隙にカップルたちの姿はそこにはなかった。
俺は少し残念に思うもののまだ遠くまで行ってないと思い、辺りを見渡した。
カップルの彼氏が飲み物を買っている姿が見えた。
奥には彼女と見知らぬ男が会話をしていた。筋肉質で彼氏よりも体格は良さそうだ。
『いいじゃん、いいじゃん。あいつ飲み物買ってる間にさ、隠れて驚かしてやろうぜ。』
『え、でも……。彼氏が……。』
『いいってーの。ちょっと、隠れるだけだしさ。』
俺の脳がエラー音を放つ。
大きく息を吸い込んで深呼吸をする。背後にいた寧々が言葉を続ける。
『じゃ、じゃあ……少しだけ。ちょ、ちょっとどこ触って』
「おい、寧々!!変なアフレコをするんじゃないっ!!」
俺は声を張り上げた。公園内に響き渡るほど大きな声を発して、勢いよくその場に立ち上がった。
視線を感じるがこの際大きな問題ではない。
「えー、だってぇ。そういうシチュエーションの方があがらないですか~?」
「あがるかっ!!そんなもん。」
俺は大きく息を吸い込み、そして吐き出した。
寧々の目をギロリと睨むように見つめる。
「いいか、俺は純愛が好きなんだよ。だって愛する2人が結ばれる。それ以上に幸せな物語があるか?NTRの場合はそんな幸せな世界を引き裂く。悲劇のジャンルなんだ。そっちの方があがるだってぇ?好きなモノを奪われて、その喪失感、もう2度と味わおうとは思わない。」
俺は鼻息をフンフンと鳴らす。威嚇をするように歯をむき出しにして対抗する。
寧々は俺の反応を見てため息をつく。
「はぁー、先輩って全然わかってないんですねぇ。NTRの醍醐味はその喪失感なんですよぉ。今回のシチュエーションなら雄としては上位互換である相手に奪われてもう勝てないっていう絶望感を最終的に感じてしまうシチュエーションのアフレコをしてあげようって思ってたのに。」
この女、俺の癒しを妨害する脳破壊系ヒロインなのである。
俺が純愛主義者であることを知っていながら、NTRシチュエーションに繋げようとしてくる。
俺にとっては天敵となる存在である。
「いらない、いらない、いらない。そんな絶望を味わいたくないんだよ、俺は。」
「別の絶望がお好みと。なるほどなるほど、それじゃキモ~いおじさんにNTRされるシチュエーションがお好みってことですねぇ。確かに、長年実らせた恋心が快楽によって踏みにじられてしまう絶望感はたまらないといいますかぁ~。」
「違う、そうじゃない!!」
俺は再び声を張り上げた。
「だいたい純愛が好きだって毎回、毎回言ってるじゃないかよ。」
「でも、それならその絶望感を超えてからの純愛だとそそったりしませんかぁ?」
「そそらない。混ぜるな危険って言葉があるだろ、NTRはNTR。純愛は純愛として住み分けるべきだろ。」
寧々はリスのように頬を膨らませる。
下から覗き込むかのように俺の顔を見つめた。目が合うと透き通るような爽やかな蒼さを感じる。
「た、確かに一理ありますけど。」
寧々は口を閉じる。
何かを伝えたいのかパクパクと口を動かすものの黙り込む。
「ならいい加減NTRを押し付けるのはやめ」
「先輩って元々NTR好きだったじゃないですかぁ。」
俺が言葉を放つ前に寧々は言い放った。
鼓動が早くなる。
「いくら純愛主義者を騙っても無駄ですよぉ。だってぇ、先輩は根っからのNTR愛好家なんですからぁ。」
寧々は淡々と言葉を吐き出した。
俺はゴクリと生唾を飲み込んだ。手は汗ばんでくる。
「ち、違う。俺はそんなこと……。」
「だってぇ。私のアフレコ、ちゃーんと聞いてましたよねぇ。つまり先輩はNTRに興味があるってことなんですよぉ。」
寧々の八重歯がちらりと見える。指先でツンっと俺の胸に触れた。
「素直になってくださぁ~い。 せ ん ぱ い ♡ 」
「くっ……。」
思わず声が漏れる。
俺は本当にNTRが好きなのか、あの忌々しいNTRを。
俺の脳を破壊し、彼女をNTRされた敗北感、虚無感が好きだというのか。
「違うな。俺は、純愛が好きだ。両肩思いの2人がお互いのことを想いあう関係は結ばれてほしいと思う。」
俺は目を見開いた。
胸をはり、寧々の目をしっかりと見つめた。
「圧倒的な上位互換であるチャラい先輩に言いくるめられてしまう展開や汚いおじさんに恋心を踏みにじられてしまうような展開を望んでいるわけじゃない。」
はっきりと俺自身の言葉で寧々に伝える。
「だから俺はNTRが嫌いだ。撲滅したいほどに大嫌いだ。俺みたいに悲しみをみんなに背負ってほしいわけではないからな。」
寧々は俺の言葉を聞いて苦虫を噛み潰したように険しい表情を見せた。
口をへの字にして、眉をひそめる。
「ふ、ふーん。今日のところはわかりましたよ。 で す が 絶対先輩に良さを思い出させてあげますからねぇ。」
「むしろ寧々に純愛の良さを叩きこんでやるからな。」
こうして俺らの戦いの火蓋が切られたのであった。
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反応がいいようなら連載も考えます(なお、プロットはない模様)
一発ネタなので楽しんでもらえたら幸いです。