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天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
第五部 時雨川ゆずり編
83/172

83 家主のいぬ間に 1

 これは何の冗談だよ。


 暮野木犀は思った。


 きっと、何かの夢なんだろう?


 仰け反って尻餅をついた体勢のまま、木犀はやっとのことで息を吸った。

 他人の家の玄関で、こんな風に無様な格好をしたことは初めてだった。目の前の事態にうろたえ、バランスを崩して後ろ様に倒れてしまうなんて。

 おそらく、こんなことはこの先の未来でも起こり得ないことだろう、と思う。

 しかし、今はそんな話など、どうでもいい。

 木犀は、目の前の存在・・を両目でしっかりと凝視していた。

 それ《・・》を見た、あまりの驚きに、身体を支えるための芯がへなへなと力を失って、どこかの隙間から抜け出ていったような心地がしている。

 ただ、目の前の状況を見極めるためには本能的に両目を開いていた。


 頬をぬるい汗が伝い、喉に向かう。


 いったい、

 いったい、こいつは、なんだ?



 すると、目の前の、その存在・・が、小さな口をついに開く。


「驚くな、人間」


 どこか妙に聞き覚えのあるその少女の声は空から降りてくる柔らかな風のようだった。

 無茶言うな。

 混乱した頭で、何とかその言葉だけを捻りだした。


「あ、あんた、何なんだよ!」


 後から思い出してみれば、ずいぶん陳腐な台詞だとは思ったが、あのときはあれが精一杯だった。

 なぜなら、目の前に立っていたのは、たった数十センチの丈の少女だったのだ。

 すると、彼女は木犀の強い疑念に、静かに口を僅かに歪ませて笑い、こう言った。


「なんじゃ、もう忘れたか?」


 そして、彼女は手に持っている鈴のついた道具をしゃりんと鳴らす。


「わしは、緋桐乃夜叉媛。人の子が畏れ、敬うべき神じゃ」




 そもそもの発端は昨日の夜だった。


 最近知り合ったばかりの少女、近所の高校生である瀬戸さつきからの電話が木犀にあったのである。

 それは夕食を済ませ、リビングでテレビ番組を弟たちと眺めているときで、木犀は机に置いていた携帯がピリリと着信したのを覚えていた。



 電話が鳴ると、木犀はすぐに液晶の画面を開き、相手の名前を確認した。

 そして、ああ彼女か、と思った。

 瀬戸さつき。

 そう表示された文字が白い光で浮かび上がっていた。

 彼女は近所の神社で巫女をしているという年下の少女で、木犀とはひょんなことから知り合うことになったのである。どちらかというと控えめで大人しく、木犀と話していると、なんだかいつも緊張しているような、そんな印象の子だった。


 思えばつい先日は町に一緒に買い物に行ったばかりで、それからは特に連絡を取っていなかったのだが、何かあったのだろうか。

 一応はこうして連絡を取れるように携帯の番号を教えていたのだが、彼女のシャイな性格からして、何か話をするにしても木犀としては自分からだろうな、と考えていただけに、彼女から電話が来たことに木犀はは少々驚いていた。


「もしもし」


 弟たちの笑いが溢れているリビングから外に出て、軽く咳払いをした後、電話に出た。


「あ、あの、暮野さんですか?」


 彼女は相変わらずの他人の機嫌を伺うような緊張した声で聞いてくる。木犀は電話の向こうの彼女の様子が眼に浮かぶようで、ふっと微笑んだ。


「どうかしたの? こんな夜に」

「あ、すいません。お休み中でしたか?」


 電話の向こうの彼女が慌てたので、いやいや、と木犀は廊下の時計を一瞥して否定した。


「さすがに夜の八時から寝るには早すぎるよ」

「ああ、そうですよね。それで……その……」


 すると、彼女はそう言ったきり、言葉に迷子になったようにぼそぼそと何かを呟いている。木犀には何を言っているのか、分からなかった。

 しかし、


「ええと、何か用があるんだろ?」


 木犀はあることに勘付き、迫らず、ゆっくりとそう聞いた。

 普段はデリカシーがないなどと周りの人間から白い目で見られるような大雑把な人間だが、さすがにこの場合には合点がいったのである。


 女性がこんな風に、おどおどしてるってことは……。

 大抵、悩みごとを相談するときに違いない。

 と、いうことだ。


 恋愛や、学校でのこと、将来のこと、家族のことや、友人のこと。

 それらの悩みのどの場合に該当するのかは判断できないが、こういう時の女性とはデリケートなものだ、と木犀は思っていた。


「何か、嫌なことでもあったの?」


 と続けて語調柔らかく訊ねた。

 しかし、彼女は、


「いえ、そうではなくて、ですね」


 と言葉を濁らす。

 木犀は首を捻った。どうやら違ったようだ。


「じゃあ何?」

「あの、明日は、お暇ですか?」


 すると、彼女はようやくそう尋ねた。


「明日?」


 ふと考えてみるが、木犀には特に予定らしいものはなかった。浪人生の身としてはそんなときこそ勉学に励むのが普通だろうが、今のところ、木犀にその予定は存在しない。

 勉強などそのうちにやればいい、と考えていた。どうせ時間は腐るほどあるのだ。夏くらいから本気を出せば間に合うのではないか? 

 面倒くさいことに大事な余暇を潰す必要はない。

 だからこそ、


「問題ないよ」


 と木犀は軽く答えた。


「そうですか」


 彼女が安堵する。


「では……」

「うん」

「榊さんのお宅に行ってもらいたいんです」

「……はあ?」


 これは意外だった。

 てっきり彼女が神社に来てもらいたいものと思っていたが。

 榊、だと?

 どうしてまた、彼の名前がここで出てきたのだろうか。

 確かに、彼の家には神様へのお供え物として、ちょくちょくお菓子を持っていくために足を運んでいる。しかし、ただそれだけで、特別親しいわけでもない。

 気になった木犀は訊ねた。


「何かパーティでもあるのか?」

「いえ、そういうわけではないのですが」

「瀬戸さんも来るの?」

「わ、私は神社に行きますから……」


 彼女の答えは相変わらず要領を得ず、一向に事情が分からない。


「どういうこと?」

「あの……ですね。実は榊さんが暮野さんに、どうしてもお力を借りたいことがあるんだそうです。それで、どうにか連絡をしたかったらしいのですが、私が携帯番号を知っているということで、伝言を頼まれまして」

「はあ」


 それでなんとなく事情は飲み込めたが……。木犀は情報を咀嚼する。


「そうかあ……」

「あの、暮野さん」


 彼女が名前を呼ぶ。


「何?」

「変だと思われるでしょうが、どうしても、ということなので、どうかよろしくお願いします」


 その彼女の言葉には心底困ったようなか弱さが感じられ、木犀はいても立ってもいられなくなった。

 さすがに彼女からこんな風に言われては嫌だとは言えない。


「分かったよ。明日、行けば良いんだろ?」

「いいんですか?」

「ああ。どうせ暇だし」

「あ、ありがとうございます」


 急に電話の向こうが明るくなった。やはり女性はいつも明るくいてくれるほうがいい。


「いいってことさ。問題ないよ」

「で、では。よろしくお願いします。榊さんの方へは私が連絡しておきますから」

「うん、じゃあ頼んだよ。お休み」

「は、はい、お、お休みなさいです」


 最後に妙な挨拶をして、彼女の電話は切れた。

 ふう、と息をつく。


 と思ったら、すぐに携帯が着信した。

 見ると、また彼女だ。


「す、すいません」

「何か言い忘れたことでもあったの?」


 彼女は案外そそっかしいところもあるのかもしれないな。木犀は思う。それはそれである意味かわいいが。

 まあ、それはさておき、いったいどうしたというのだろう。

 すると、彼女は奇妙なことを話した。


「ええ、えっと、あの、榊さんの家では、もしかすると、何か、『驚くようなこと』が起こるかもしれませんが……」

「驚くようなこと?」

「はい、ですから、一応心構えをして置いてくださいね」

「え?」

「言い忘れたことはそれだけです。では」

「あ、ちょっと――」


 しかし、それっきり、通話は途切れてしまった。

どうも、ヒロユキです。

今回は話が中途半端になってしまいました。すいません。


最近では話がどっちの方向に向くのか、作者も完全に道を見失ってます。(笑)

話が長くなると、もう収集がつかなくなるというか……。だからこうして、中途半端な感じになってるんだと思います。ダメですね。


読者の方々につきましては、こんな半端者の悪戦苦闘ぶりを生暖かい眼差しで見守ってもらえればと思います。次回の話、どうするかなあ。

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