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天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
第五部 時雨川ゆずり編
65/172

65 蒼髪の女商人

どうも、ヒロユキです。


今回から新章ということで、心機一転張り切っていこうと思います。

物語は五月を過ぎ、六月。雨の滴るブルーな季節ですね。

というわけで、ということもありませんが、今回登場しているのは、青い髪のキャラクターです。さてさて、この人物がどのように物語をかき回してくれるのか!


それでは、また。

 数時間前から、小雨が降り続いている。

 そのせいで、山の斜面に群生する草花はたっぷりと水滴を乗せており、皆しっとりと頭を垂れている。


 険しい山道が続いていた。

 右手は、まるで天から手が伸びてきて、山の斜面をごっそりと掬いとっていったかのような、切り立った断崖である。山道は崖の端を縫うように細々と山の頂上へと伸びているが、場所が場所であるだけに、人が踏み入った形跡はあまりなく、草が生い茂り、ほぼ獣道と化している。


 しかし、そこを行く、何者かの影が一つ。

 時代錯誤も甚だしい、江戸時代を彷彿とさせる旅装束に身を包んだ人物が、菅笠すげかさ(円錐状の帽子のようなもの)から山頂を見上げ、鼻歌交じりに登ってきている。


 足を滑らせてしまえば、一巻の終わりという危険を孕んだ道ながら、その人物は、まるで散歩に来たかのように軽い調子で歩いていた。

 明らかに肩に食い込む、重そうな荷物を背負っているが、それすら気に留めない軽い身のこなしである。


 さては、長きに渡る厳しい鍛錬を積んだ屈強な山男かと思いきや、身を包む服から時折分かる曲線的な体躯は、男のそれではない。どうやら女のようである。


 しかし、そうだとしてもとても人間の女性とは思えない点があった。

 人のようでないその身のこなしも一つだが、特筆すべきは、腰まで伸びた長く蒼い髪。

 光沢を放ち、艶やかな色を見せる細い髪は人工的に手を加えたとは思えない、青く澄み渡る空の色を写し取ったがごとく自然な色合いだ。


 もしや、人間ではなく、この土地に自給自足で住まう仙人か、ともみえるが、早合点はよくない。

 なぜなら、すぐに、


「~♪」


 その者の懐から携帯電話の呼び出し音が聞こえてきた。




「お、携帯ちゃんかあ」


 時雨川しぐれかわゆずりは弾んだ声で白装束の胸元から自分を呼び出している小型通話機器を取り出すと、感心したように頷く。


「ほお、こんな山道を歩いていても電波が通じるとは、すごい世の中になったもんだねえ」


 と一人ごち、一つ深呼吸をして息を止めると、すぐにボタンを押す。


「はーい、どーもー! 毎度お馴染み、いつでもどこでも全国出張、激安価格で品質保証、商売繁盛無病息災、恋愛成就に心願成就、古今東西不思議なお守り、各種もろもろ取り扱い、日本一の護符おまもり商人、時雨川はこちらでござーい!」


 相手に一切の隙を見せないまくし立てるような息継ぎなしの自己紹介で、ゆずりは満足げに微笑む。

 よし、今回も噛まなかったぜ。

 しかし、その勢いに気圧されたのか、電話の向こう側は一言も発することなく、沈黙してしまったようだった。その上、呼吸の音さえ聞こえない気もする。


「あ、あのう」


 しまった、やり過ぎだったか。

 もしや、ゆずりの勢いに驚愕し、卒倒してしまったのか?

 と思うのも、ゆずりには前科があるのだ。以前、誤って間違い電話を掛けてきた人間がゆずりのマシンガンな挨拶を聞き、受話器の向こう側で気絶してしまったことがあるほどなのである。

 ゆずりは冷や汗を掻くが、しばらくしてから、やっと老人の声で返事があった。


「ああ、もしもし」


 ほっと胸を撫で下ろす。


「そうです。お守りをご所望で?」


 話を聞くに、どうやら間違い電話というわけではないらしい。


「はい、はあ……で、出張?」


 しかも、どうやら久しぶりの仕事の依頼のようだ。ゆずりはそれを聞いてうきうきしてくる。


「それで、どちらまでお伺いしましょう?」


 思わず、その場で足踏みをしながら訊ねると、相手から指定されたのは、ゆずりにとって聞き覚えのない場所だった。


「はあ、○○市の、柊町・・?」


 すると、ゆずりの自信のない声色を聞いて、不安に思ったらしい依頼主が可能かどうか聞き返してくる。


「いえ、もちろん、出張させていただきます。ご都合の良い日はございますか?」


 ゆずりは調子よく返答する。基本的にゆずりはご飯がないところでなければ、どこへでも行けるのだ。


「それでは、明後日に」


 電話を切った。

 そして、懐に仕舞うや否や、


「ようし、これで久しぶりにまともな飯にありつけるぞ!」


 と高らかに拳を天に突き上げた。すると、それと一緒にふわりと長い蒼髪が舞い上がる。空気はじっとりとした水分を含んでいるが、不思議なことにその髪はとても軽そうだ。


「さてさて、のろのろとろとろしているわけにはいかないよ。いざ行かん、我が未踏の地。おいしい食べ物がこの時雨川を呼んでいるぜ!」


 そう叫んで、蒼い髪を翻し、飛ぶように山道を降りていく。

 すると、どこかで置いていくなと止めるように、フクロウが、一声鳴いた。

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