表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
番外編2
62/172

62 番外編 サイクルランデブー 1

お久しぶりでございます。作者のヒロユキです。

他の作品の執筆をしておりましたので、二週間くらいお休みさせてもらっていました。続きをお待ちいただいていた方がいらっしゃれば申し訳ありません。


さて、今回は番外編。さつきさんのお話です。特に物語の本筋とは関わりないと思いますが、少しでもお楽しみいただければ嬉しいです。

 すっかり陽も暮れ始めて、誰もいない田舎道を歩きながら、さつきは大きなため息をついた。


 榊少年の自宅からの帰り道、さつきを待ち受けていたのは、どうにも置き場所のない重苦しい疲労感と、風に舞う埃にも似た、何者にも抗うことの出来ない虚脱感だった。


 おそらくだが、昨日の倍以上の疲れがあるのではないだろうか。

 春臣たちの前では無意識に気を張っていたのだろうが、そこから開放されてみると、急に自分という存在がすっぽり縮んでしまったような印象だった。さつきという入れ物の中に、干からびた魂が転がっている、そんな感じである。


 それもそうか。さつきは思う。

 自分が神に代わり、町を守ろうと奮起し、榊少年の家に突入したはいいが、結果はみるも無惨な敗北だった。神の力に慢心していたさつきの、完敗だったのだ。


 いや、その方がよかったのか。思い直す。

 もしも、あのまま彼を倒し、二階の部屋にいた緋桐乃夜叉媛まで倒そうとしていれば、それは取り返しのつかないことだった。

 すべては浅はかな自分の勘違い、思い込み、根拠に乏しき、ただの妄想。巫女として恥ずべき、軽率さだった。

 千両様にも母にも相談せずに決めてしまったさつきが悪い。


「わたし、やっぱり馬鹿」


 ふいに泣き出しそうな感情が溢れてきて、風景が滲んだ。陽を受けた川辺のきらめきが、光のあぶくとなって瞳に映る。


 しかし、さつきは首を振った。

 ここで落ち込んでいてどうする。

 あれほど榊さんたちに励まされたじゃない。


『誰でも皆、過ちは犯すものだ』


 そう、言われたじゃない。

 常識で考えれば、さつきの失敗は笑って許してくれるレベルではなかったはずなのに、彼らは容易く手を差し伸べてくれた。

 つまりさつきは、それだけのチャンスをもらえたのだ、と捉えるべきだろう。この過ちをプラスの力に変えるための。

 彼らの気持ちを応えるには、くよくよしている場合ではない。涙を拭う。


 そう。

 さつきには成すべき使命がある。

 いつか、あの千両神社を復興させるのだ。

 今の寂れた、眠っているような神社ではなく、人々が集い、活気溢れる声に満ちた神社に、である。

 それが、いつか夢見る、千両神社の理想の姿。

 まだ、それには程遠いのが現状だが。


 しかし、それ以外にさつきの中で気に留めていることがある。榊少年と、あの緋桐乃夜叉媛という神様との関係である。


 聞いた話が全て本当なのだとすれば(榊少年の必死さからしてそうに違いないが)、もはや奇跡を通り越して、神の思し召しともとれる不思議な偶然の連鎖が、あの小さな家で起こったことになる。


 神と人が一緒に暮らしているなんて。


 やはり何度考えてみても、整理がつかない、不思議な出来事である。しかもその状態がもう一ヶ月も続いてるというのだから、さらに現実味がない。


 本来であれば、出会うはずもない、縁もゆかりもない一般人と神なのだ。

 よく共同生活が成り立っているものだ、と感心すらしてしまう。


 もしも仮に、千両神が緋桐乃夜叉媛のように、この世に現れたらとさつきは想像してみる。

 そして、千両様と、一緒に生活している自分を想像する。

 ダメだな。

 さつきは首を振った。

 神と共に暮らすというのは、やはり奇妙な違和感を禁じえない。

 神は神として、永遠に触れられない崇高な存在であり、さつきはそれでこそ、神に仕えようという気持ちが沸くのだ。


 でも、彼らはそのさつきの認識の範疇を越えた、例外中の例外。

 そう、異常の中の異常。


 しかし、だからこそなのだろうか。

 榊少年と、緋桐乃夜叉媛との間に結ばれた信頼の関係は。


 昔、さつきはそれを本で読んだことがあった。異常な体験を一緒に過ごした男女は接近しやすいという話である。確かに、ドラマ映画の中での恋愛というものはよく異常な状態でうまれる。

 戦場であったり、逃亡中であったり、どちらか不治の病に侵されていたり……。


 喧嘩ばかりしていたようにも見えたが、それは仲がいいという証拠なのだと、さつきは見ていた。

 つまりあれは、さつきに言わせれば、お互いがお互いの想いあっているが故の、不器用な言葉と、棘のある声なのである。


 当事者達はもちろん、本気で喧嘩し、やりきって、意思のぶつけ合いの中でそれ以外、何も感じないかもしれない。

 しかし、その心情の奥に潜むのは、本心をぶつけられるだけの相手に対する信頼感と、相手に自分を受け入れて欲しいという、一つの願望なのだ。


 さつきは、そんな彼女たちを見て、羨ましかった。

 いつか自分もあんな風に、本来の自分を見せ付けてしまえる相手にめぐり合えるのだろうかと、考えてしまうのだ。

 少しだけ、恋人と二人でどこかへ出かける。そんな自分を想像してみるが、これがどうにも現実離れしていて、しっくり来ない。自分の顔にも相手の顔にもモザイクがかかったようにもやもやとしていて、ちぐはぐで、異質な感じが拭えなかった。

 皆、最初はこんな風に思えるものなのだろうか。それとも、今のさつきの思考力が疲労のために、低下しているせいなのか。


 そう考えて、川に架かる短い石橋を渡ろうとしたときだった。


「――!」


 ふいに眩暈を感じ、さつきはその場にうずくまってしまった。

 急に吐き気がし、胸に何かがつっかえた心地がする。


 ああ、そうか。さつきは理解した。

 この重石のような疲労感には、通常とは異なる「別の意味」があったのだ。


 というのも、これは神の力を使用した際の、反動・・なのである。

 神の力とは本来、人間とは相容れないもの。いくらかき混ぜても混ざり合わない水と油のようなもので、通常、生身の人間が使用することは出来ない。

 それは巫女であるさつきであれ、不可能なことなのである。だからこそ、千両神の扇子を使用するのであって、これによって初めて力の発動が可能になる。

 しかし、それでもやはり、神の力を使うことは、違和が生じる。それは小さな入れ物に大きな荷物を詰めるようなもので、当然、「入れ物」の方に大きな負荷がかかることは避けられない。

 その負荷の影響が、力の発動後の「体調の異変」になのだ。


 これは千両神にも何度か言われたことだった。

 命に別状があるものではないが、しばらくの間は激しい運動が出来ず、体が極端に疲弊しやすくなる。

 もちろん、以前訓練した際も同じようなことが起こった。さつきの場合であると、力を使った数時間後に起こることが多い。


 間違いないな。これは反動だ。


「まいったなあ。体調が戻るまで、少し時間がかかりそう」


 おそらく、回復を待っている内に日が暮れてしまうだろう。橋の欄干を背もたれにさつきは座り込む。

 もし誰かが通りかかれば、少々不審がられるかもしれないが、まあ仕方ない。

 少しの間、眠っていよう。


 そう思って目を閉じかけたとき、目の前で自転車のブレーキ音が聞こえた。


「あれ」


 男性の声だ。


「確か、瀬戸さんだっけ?」


 名前を呼ばれて、さつきははっと身を起こす。

 すると、そこには、昨日であったばかりの少年の姿があった。

 暮野木犀である。

 彼は、自転車から降りてさつきのそばまで来た。外灯の光の下、知り合いを見つけた彼が嬉しそうに微笑んでいるのが分かる。


「こんなところでどうしたんだよ」


 まだ二回目の対面だというのに、木犀はやはり親友と話しているかのような気軽さだ。


「いえ、少し体調が悪くて」


 そう答えると、彼は顔をしかめる。


「おいおい大丈夫か? 病院に、連れて行けばいいか?」

「それには及びません。しばらくここでじっとしていれば治りますから」


 さつきは彼に気を遣わせまいと遠慮したが、彼はさらに心配そうな顔つきになり、そっとしゃがみこんでさつきの顔を覗き込む。


「貧血かな?」

「ええと、そんな感じです」


 まさか、神の力を使った反動です、などとは言えない。

 すると木犀は、周囲に首を巡らし、


「うーん……」


 と何か悩んだ素振りの後で、背後の自転車を振り返った。


「よし!」


 小気味よく、パン、と手を叩く。


「はい?」

「後ろ、乗れよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ