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天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
第二部 青山椿編
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26 終結! 春臣の秘密

「……っと、まあ、そういう経緯で姫子はここにいるわけだよ」


 一階の居間に座らされたうちは榊君から小人さんに関する話を一通り聞かされました。にわかには信じがたい話ですが、それによると、この小人さんはこの世界とは違う場所からやってきた神様ということで、いろいろあってこちらの世界に来てしまった、だから、榊君があれこれ世話をしているということでした。

 難しい話をたくさんされて、少々混乱をしていますが、大雑把にまとめるとそういう感じらしいのです。

 

 うちもうちで、榊君には事の次第を全て打ち明けました。彼の電話を拾い、不躾ぶしつけにも勝手に出てしまった次第についてです。


「ふうん」


 それを聞いた後で、彼は大した反応もなく頷きました。


「もしかして、榊君、気づいてた?」

「そりゃ、気づかない方が変だろ。突然家に来たいって言い出したり、ケーキを三人分買ったり。まさか電話に出ていたとは思ってもみなかったけどな」

「ほんまごめんな」

「いや、それはもういいよ。落としていった俺にも問題があるし。そんなことよりさ、信じてくれるか?」

「何を?」

「ほら、そこにいる神様の話だ」


 彼は机の上に座っている小さな少女をあごで差しました。


「信じるもなにも、実際に目の前に神様がおるやん。嘘やって思う方がむずかしいで」


 うちが当然に思っていることを言うと、榊君はほっと胸を撫で下ろしたようです。


「少々あっけらかんとし過ぎるのも、どうかと思うけど。そうか、信じてくれるのか」

「でも、うちの知らんところでそんなことがあったんやね」


 そう言ってケーキを頬張ります。正直、実際ここで何があったのか、ちんぷんかんぷんなところも多いのですが、こうなればいろいろと不明瞭なところをケーキの甘さでごまかしてしまいましょう。


「ま、まあな。こういう事情だから他の人間に話せなくてよ」


 榊君が目を向けた先には先ほどの小人、もとい神様が小さく欠けたケーキを口に運んでいます。葉っぱの上に座り、自分の話だと分かっているのか、いないのか、食べ物にご執心です。こちらの話にほとんど耳を傾けていないように見えます。


「うち、構へんのに。むしろ話して欲しかったな。榊君に秘密にされて、いろいろ考え込んだんよ」

「話が分かる人間かどうかその辺を判断しないといけないからな。それに、必要以上に他人に知られるとまずい。青山の場合、まだ知り合って少しだし、突飛な話についてこられるかどうか不安だったし……」

「大丈夫やって、むずかしい話なんて全然分からんよ」


 平気平気、とうちは首を振ります。


「……それはそれで問題なんだけどな。っていうか、それは今までの俺の懇切丁寧な話が無駄になった気がする。出来れば発言撤回してくれ」


 彼が切実な表情でそう言ってくると同時にうちは名前を呼ばれました。


「青山椿、と申したか?」

「は、はい!」


 机の上でくつろいでいた神様がこちらを向いて座っていました。むんと顎を突き出し、腕を組んでお偉い女王然としています。艶やかな赤い髪が机の上にはらはらとこぼれ、宝石のように光を放っていました。


「わしは神じゃぞ」

「はい」

「お主、何か申すことはないのか?」

「ほっぺにクリームがついとります。あの、とてもおいしそうです」


 はっと神様は赤面した後で、口元のクリームをふき取ると、恥ずかしげに俯き加減で聞いてきました。


「むう、そういうことではない。初めて神を見て、何か思わぬか? こう、神々しさというか、その威厳というか」

「小さくてかわいいお人形さんみたいやで」

「そ、それだけか?」


 がっかりした様子で、神様は肩を落とします。


「それなら神様、頼みごとがあります」


 しかし、うちの次なる言葉を聞いて、なぜか、神様は目を輝かせました。待っていましたと言わんばかりに顔中に喜びを充満させています。まるで、ようやくかまって貰えた子犬のようです。尻尾を振ってるみたいです。


「なんじゃ、言うてみよ。内容によってはわしが叶えてやらんこともないぞ。何しろ、わしは神じゃからの」

「はい。じゃあ、姫子ちゃんって呼んでも良いですか?」

「はあ?」


 すると、再びあからさまに神様は落胆します。何かいけないことだったのでしょうか。


「だって、榊君は姫子って呼んでるでしょう。うちだって名前で呼んでみたいもん」


 正当な理由だと思っていたのですが、神様にとっては違うようです。神様は再び顔を真っ赤にして地団太を踏みます。足元の葉っぱがぐしゃぐしゃになっていました。


「神に向かって呼び捨てなど。ぶ、無礼千般じゃ。春臣、人間とはこのように軽薄な連中ばかりなのか!」

「え、うち、そんな変なこと言うた?」

「まあまあ」


 榊君が両手で制しながら仲裁に入ります。


「姫子は今は本来の姿じゃないんだし。神様って感じじゃないんだよ。その辺りを自覚しろって」

「そうやで。うち姫子ちゃんと普通の友達になりたいもん」


 そう言うと、神様はきっと鋭い目つきで睨んできます。


「お主にその呼び名を許した覚えはない!」

「でも、榊君は……」


 うちが食い下がると神様は口をへの字に結びます。


「春臣にはいろいろと世話になったしの。その呼び名を特別に許しておるのじゃ。しかし、お主のようなどこの馬の骨とも知れぬ輩からその名で呼ばれるなど、真っ平ごめんじゃ」

「ええ! うちの顔、そんなにごつごつしてへんで」

「……そういう意味ではない。ともかく、お主に姫子などとは呼ばせぬ」


 どうやら神様はかなり頑固な人のようです。しかし、それで引き下がるうちではありません。一筋縄ではいかない相手には譲歩という手段をとってみます。


「じゃあ、どう呼んだらええの?」

「う、うむ。そうじゃの」


 神様はたちまち思案顔で天井を見上げます。どうやらその考えはなかったようです。

 顎に指を置いて、しばらく唸っていたと思ったら突然こう言いました。


緋桐ひぎり様じゃ」

「ひぎりさま?」


 うちは素っ頓狂な声を出してしまいます。


「おい、姫子。様付けはやりすぎじゃないのか? 対等じゃないぞ」


 榊君が横からそう苦々しげに耳打ちをしました。しかし、神様は両腕を上下にゆっさゆっさと揺すり、ご立腹のようです。


「ええい、うるさい。神なのじゃから人間はこれくらいの敬意を払って然るべきじゃろう。当然のことじゃ」

「だからってそれは……」

「そうじゃ、春臣。ここはこの椿とやらを信者第一号ということにせぬか?」


 すると、また思いつき顔で神様は指を立てます。


「し、信者?」

「そうじゃ。新たな宗教、緋桐教の誕生じゃ。この娘を先鞭せんべんとして迎え、続々と信者を増やしていく計画じゃ。そこでわしが生ける神として光臨し、教祖はお主となる。それで信者からのお布施は食べ物ということにすれば、これからずっと食い物には困ら……」


 すると、そう言いかけた姫子ちゃんに榊君からの鋭いつっこみ、もとい、小さくでこピンが決まります。


「痛っ! な、なにをするか」

「馬鹿も休み休み言えっての。俺の友達を勝手に信者にしてんじゃねえよ。そもそもそんな思いつきで宗教なんて言いだすな」

「ば、馬鹿じゃと。神に向かってなんたる口の聞き方か。これは万死に値するぞ。天罰じゃ、天罰じゃあ!」


 神様がきいきいと飛び跳ねます。


「ああもう、好き勝手ほざいてろよ」


 うざったく榊君は手で払いながら、ちらりと何かに視線を落としました。


「そうだ。言っておくが、今姫子が旨そうに食ってたケーキ。俺が買ってきたもんじゃないんだぞ」

「へ、それはどういうことじゃ?」


 彼が意味ありげに目配せをしてきて、そこでうちは思い切り手を挙げました。


「うちです。うちが買ってきました」

「お、お主が?」

「ほれ、好物を食わしてもらったんだ。青山にはそれなりの恩義があんだぜ」

「……」

「少しの願いくらいは聞いてやってもいいんじゃないか? どうなんだ、神様」

「あ、あう……」


 榊君に痛いところを衝かれた神様はまるで糸を失った操り人形のようにぺたんとその場に座り込んでしまいました。

 観念したように、ちらりとケーキが乗っていたお皿を見てから、神様は口を開きます。


「……好きに呼ぶがよい」

「え?」


 大きなため息をつくと、神様は続けて言いました。


「わしのことはお主が好きなように呼ぶがいい。その、ケーキ旨かったぞ。ありがとう」

「ほんま?」

「本当じゃ」

「ほんまにほんま?」

「しつこい。前言撤回して欲しいのか?」


 おっと。それはうちの望むところではありません。慌てて首を振ります。


「じゃあ、これからよろしくな。姫子ちゃん」

「むう、姫子ちゃんか……」

「うちら、友達になろな。こんな小さな友達がおるなんて結構自慢になるし」


 しかし、そこですかさず榊君が口を挟んできました。


「言っておくけど、青山。姫子のことは他言無用だぞ。周囲にばれるといろいろと厄介なことになると思うからな」

「……それは残念やな。友達が神様なんてなかなか自慢できることやないで」

「そうだな。そんなことをしたら、どこかに頭をぶつけたと思われるのがオチだな」


 彼はそう言って苦笑しましたが、うちはそれがどういう意味なのか、よく分かりませんでした。彼は時々むずかしいことを言います。

 けれど、うちはそんなことよりも、せっかく知り合いになれた姫子ちゃんとしてみたいことがありました。


「ほうら、姫子ちゃん。握手しよ」

「握手?」

「せやで。友達なら握手せな」


 そう言って、その装束から伸びた白くか細い手を指先で包みます。姫子ちゃんがうちを見上げて、小さな水晶のような瞳が不思議そうに瞬きをしました。


「へへへ……これで仲良しやね」

「これで仲良し、か?」


 いまいち揺すぶられている姫子ちゃんの顔が腑に落ちていないように見えたのはきっと気のせいでしょう。

 ともかく、今日出来た新しい友達を前に、そう思うことにしました。

作者のヒロユキです。


今回は執筆にかなりくたびれました。慣れない文体というのはしっくりこないことが多くて何度も書き直しました。なんだか妙にしつこい文章な気がして、読んでもらった方もくたびれたのではないかと、心配してます。


もしよろしければ、文章の評価などしてもらえれば幸いです。お読みいただきありがとうございました。

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