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天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
第六部 黎明の炎編
130/172

130 弱き者 2

明けましておめでとうございます。ヒロユキでございます。

もう少し早くご挨拶しようかと思っていたのですが、少し予定より遅れてしまいました。

やはり、年末年始には慌ただしいので、なかなか執筆するタイミングを逸してしまい、つい、だらだらしてしまいました。新年早々こんなことではいかんですね。もっと気を引き締めていかねば。

ええ、こんな自分ですが、今年もどうかよろしくお願いします。

「榊君、それは、どういうこと?」


 ややあって、椿がそう聞いた。怪訝そうに眉を寄せる様子は、彼女が春臣の発言に対し、深い混乱の中にいることを示していた。

 しかし、春臣はそれに対し、いかにもあっけらかんと、単純だよ、と人形のような無機質な笑い方をして答えた。


「俺は、独りになりたかった。誰からも気にされることもなく、触れられることもなく、誰からも隔絶された存在になりたかったんだ。この何十億って人々が暮らす世界から分離した、自分だけの世界にいたかったんだよ。俺はそれが欲しかった。いつだって頂点にして底辺の自分だけが存在する絶対の世界をな」


 それはまるで長年の夢を語るようなその口ぶりである。

 しかし、それに対し、木犀は少しも共感することなどないといった風に、憤然とした様子で腕組みをする。


「何だよ、それ」


 その声には明らかな怒りが込もっている。


「え?」

「何でそんなややこしいことを思うようになった?」


 その言葉が、春臣の上辺だけの笑みを消した。いきなり、額を押さえて俯く。

 春臣の中に、あの祖母の死に顔が蘇っていた。あの光に包まれたような、真っ白な、祖母の死に顔。そして、それと対照的に映りこむ、生気を失った生きる希望を失ったような、あの祖父の顔。

 春臣はその記憶が、自身の心の奥の柔らかい場所に長年爪を立てていたのに、思い出した。あの時、春臣は確かに胸の中にあった温かいものを失ったのだ。

 もう、それを経験したくはない。思い出したくも、ない。

 言葉を発そうとした唇が震え、冷や汗が喉を伝った。


「……別に、深く話すつもりもない」


 そう言って、春臣は逃げるように、首を振る。


「とにかく俺は、昔からそれを望んでいた。ほとんど無意識の内に。そもそも、人が多い都会を離れて、静かなこの町に越してきたのも、一人で生活できるように強くなりたいって思いも、そこからだったんだ」


 そうして春臣は、自らの根幹を支えている見えない柱を掴むように、拳を握り締めた。

 そう、これこそが自分の喜びなのだ、と言い聞かせる。


「俺の目的はただひとつ。ここで、自分ひとりの、誰も踏み込めない城を築きたかったんだ。他人と関わらず、自分ひとりで、自分の力を頼りに生きていくんだ。だから、邪魔だった媛子を追い出した」


 断言するように、春臣は言う。


「榊君……」


 そこへ向けられるのは、縋りつくような、椿の瞳だった。


「榊君は、そんな人やない、うちにも、皆にも優しいし――」


 しかし、春臣は彼女との間にあるつながりの糸を解くように、彼女から視線を逸らすと鋭い口調で突き放した。


「青山、俺を買い被るな。俺に、期待なんてするな。俺は、弱い人間なんだ。ちっとも、お前が思っているような良い人間なんかじゃない」


 そして、すっと息を吸い、大声で一気にまくし立てる。


「俺は、他人のことなんて、どうでもいいんだ。ただ、自分が一人で生きていけるように、完璧な人間になろうだなんて、心の底では思ってた。ただ、強さを欲してた。そうだ、俺が優しかったのは、その強さの証として、他人への優しさも含まれていたからなんだ!」

「そ、そんな……」

「青山、俺がする他人への行為は全て偽り、全てが自分のため、利己的な優しさなんだよ。分かるか? 所詮、俺なんて、いい格好がしたい、ただの狭量な偽善者なんだよ!」


 しかし、そこでさつきが割って入る。さすがに、どこまでも内へ内へ籠ろうとする春臣の言動に、黙ってはいられなかったのだろう。

 彼女は胸に手を置いて、必死な声で言った。


「榊さん、違います。願望は願望に過ぎません。そんなことで、これまでの自分を否定しないでください。卑下しないでください。これから変わればいいんです。そんなことで、夜叉媛さんを拒絶しないでください」


 それに対し、不気味なほど冷静に、春臣は首を振って否定する。


「瀬戸さんこそ違うよ。この願望こそ、紛れもない俺自身なんだよ。俺の一部分なんだ。俺自身を消し去ることは容易じゃない。受け入れるしかないんだ。それに、媛子を追い出して放っているのは、それだけが理由じゃない」

「え?」


 これにはさつきだけではなく、全員が一斉に春臣に視線を向ける。他にも理由があるなどと、初耳だった。


「時雨川さんが言っていたんだ」

「時雨川、さん」

「だ、誰だよ、それ」


 事情を知らない木犀は目をきょろきょろとさせた。

 しかし、そんな彼には構わず、春臣は続けた。


「彼女は、俺に、先天的に特別な力があるって言った。神様のような超然的な力をひきつけてしまう力と、穢れのような負の力をひきつけてしまう力だ」

「榊さん、それは……」

「これは推測だが、俺の中の孤独になりたい願望は、俺が知らないうちに、その力と結びついていたんだ。おそらく、神を拒絶する、負の力の方に、な。だから、俺が彼女に触れようとするたび、頻繁に俺の体が拒絶を示した。彼女は穢れの力と正反対の存在だからな」


 春臣は言いながら思い出す。ゆずりから呪符を剥がしてもらったとき、夢の中で見たあの光景。あの薄暗い廊下はまさしく、自分自身ですら容易に踏み込めない、心の奥。そして、その向こうに待ち受けるものは、自らに内に潜む、黒々とした影の形をした化物――。

 そうだ、と春臣は確信する。

 媛子を追い出したとき、間違いなく春臣は、その化物と目を合わせていたのだ。


「そ、そんなことがあったんですか!?」


 驚いたさつきに春臣は首肯で答える。


「そして、その拒絶反応は、静電気のようにだんだん蓄積され、増幅されていくんだ。今回は言葉だけで収まったが、俺はきっとそのうち彼女を傷つけるようになる。どんどんエスカレートしていって手がつけられなくなる。それを予感した。だから、どちらにせよ、彼女は、ここにいるべきではないんだ」

 

 その言葉は、静かに沈んでいくような諦めの色を滲ませていているようだった。それは窓から差し込む朝の健康的な陽光と対照的に、暗く澱んでいる。


「所詮、神様と一緒に生きるなんて、そもそもが馬鹿げていたんだ。みんなも、俺なんか放っておいてくれ。俺はきっと最低最悪の人間だ」

「そんな、榊君」

「出て行けよ。ここから。俺は何をするか分からないぞ。頼むから、俺を、独りにさせてくれ。これで、これでいいんだよ」

投稿してから気がついたけど、すごく中途半端な終わり方ですね。すいません。

お詫びにちょっと次回予告。

次の話では、春臣の話を聞いていた木犀がついに……。

すいません、適当な予告ですいません。

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