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天罰なんて怖くない!  作者: ヒロユキ
第六部 黎明の炎編
115/172

115 揺れる想い 2

 夜叉媛の視界も道端に佇む彼女を捉えた。すると、同時にバスが再び減速した。女性の声のアナウンスがかかる。どうやら、停留場だったらしい。


「今日はさつきちゃんも呼んでるんやで。女同士で一緒にパーティーの準備の買い出しや」


 椿が言った。


「ほう、そう言えば春臣も言っておったな」


 夜叉媛も、春臣の言葉を思い出す。今回のパーティーにはもちろん、彼女も招待してあった。

 通路を眺めていると、バスのステップを踏んで、さつきが車内に乗り込んで来た。そこできょろきょろとしていたが、それを見かねて椿が彼女を呼ぶ。


「さつきちゃん、こっちやで」

「ああ、青山さん」


 彼女の表情が椿を見てぱっとほころび、そして、隣に座っている夜叉媛を見て、一瞬、戸惑いの気配を見せたのを、夜叉媛は見逃さなかった。

 先日の騒動(時雨川ゆずりに関わる一件)については、以前に春臣が大まかに説明を終えていたのだが、やはり、元に戻った夜叉媛の姿を見て、驚いたのかもしれない、とそう思った。


「お、おはようございます……ええと、夜叉媛、様」


 固まりきった表情でそう頭を下げてくる。

 その緊張をほぐそうと、夜叉媛は出来るだけ優しく彼女に話しかけた。


「巫女の娘よ、わしはさん付けでよいぞ」

「え、いいんですか?」

「うむ。椿にも普通に呼ばせておるし、お主もわしを気軽呼んでくれてよい。そうじゃのう、少し年上の人間とぐらいに思ってくれ」

「と、年上の……先輩って感じですか?」

「まあ、いきなり意識を変えるのは難しいかもしれんが、徐々に慣れてくれればよいぞ。その……さつきよ」

「は、はい。分かりました」


 ぺこりとさつきはまた丁寧に頭を下げた。後頭部でまとめたポニーテールが揺れる。


「ほら、さつきちゃん。後ろの席やからゆったり座れるで。はようこっちいな」


 そう言われ、椿の隣にぽすんと座った。

 すると、それを待っていたようにバスが再び出発した。大きな道路に入り、どうやら街の中心部に向かい始めたようだ。夜叉媛はそれを窓の外を眺めながら確認する。

 隣では、早速さつきと椿が世間話を始めたようで、楽しげな笑い声が聞こえてきた。

 そこで、夜叉媛は誰かの視線を感じる。はっとして振り返ると、そこでこちらを窺っていたさつきと目が合った。


「あっ」


 と、彼女が口を押さえる。


「さつき、わしに何かあるのか?」


 すかさず、夜叉媛はそう訊ねた。


「い、いえ」


 ぶるぶると彼女は首を振る。それが大げさに見えて、逆に怪しい。


「うん? どないしたん、さつきちゃん。媛子ちゃんに言いたいことがあるんなら、怖がらんでも、はっきり言ったらええやん」

「そうじゃ、別にいきなり怒ったりなどはせん。遠慮なく言え」


 夜叉媛がそう言うと、彼女はじゃあ、と少し渋々という様子でこう聞いてきた。


「あの、何か問題が発生したりしてませんか?」

「うむ?」

「その、榊さんと、です」


 これには、夜叉媛も驚いた。開いた口が塞がらないかと思った。


「さっきの椿といい、お前たちは、二人とも揃ってわしの心が読めるのか?」

「じゃあ、やっぱり」


 さつきの顔がさっと青ざめる。そして、ぼそりと、


(千両様たち、榊さんたちのことで、何か怪しげな話してたからなあ……)


「何じゃ、何か言ったか?」

「い、いえ、何でも」


 そう言って、手刀を振る。何を想像しているのか分からないが、ひどく心配しているようなのは確かだった。

 そんな彼女を、夜叉媛はじっと眺める。上から横から角度をつけながらじろじろと見た。


「な、何ですか?」

「……ときに、さつきよ」

「はい」

「お主は、誰かと口づけをしたことがあるか?」


 こう聞いた。


「は、は?」


 その途端、言葉の意味が分かっていないのか、彼女の目が点になった。

 しかし、一瞬のち、全てを了解した顔になり、一気に顔が沸騰するように赤くなり、あわあわと口を開閉させ始める。


「そ、そんな、あ、ああああああ、あるわけないじゃないですか!!」


 と、両手で顔を覆ってしまう。


「き、き、キス、なんて!!」

「さつきちゃん、バスの中では静かにせなあかんよ」


 彼女の声が叫びに近い音量であったため、めっ、と椿が注意をする。


「あ、すいません」


 さつきは謝り、顔を真っ赤にしたまま俯いく。

 そうか、そもそもこやつはそういう類の話題には免疫がないのじゃったな、と夜叉媛は思い出した。経験がなくて当たり前か。

 ならば、仕方ない。


「では、椿はどうじゃ?」


 と、今度は首を向けて隣に聞く。


「ううん、うちもチューはしたことないなあ」


 ハア、と夜叉媛ため息をついた。


「当てにならぬな……」

「なあなあ、でも媛子ちゃん。ということは、榊君とチューしたん?」

「え、え、えええええ! そ、そうなんですか!?」

「別に、なんでもない。ただ参考までに聞いてみただけじゃ」


 すると、椿がぷくりと頬を膨らませた。


「もお、つれへんなあ。うちらにそんなに話したくないん?」

「あのな、わしはただ……」


 それが人間たちの間でどういうものであるのか、きちんと把握がしたかっただけ。


 しかし、それを言おうとして、夜叉媛は途中で言葉を濁らせた。

 それが、自分と春臣の間の埋めようのない距離という事実を認識させてしまったのである。

 自分は、神の世の存在で、春臣は、人間の世界の存在だ。

 そしてそれは、元々お互いが、住む世界の違う者同士だということだ。

 いくら、この世界で生活するのに慣れてきたとはいえ、夜叉媛は、まだこの世のことを、春臣のことをほとんど知らないのに等しいのである。


「媛子ちゃん?」

「夜叉媛さん……」


 いきなり沈み込んでしまった夜叉媛を見て、二人が困ったように顔を見合わせていた。


 と、そこで、またしてもバスが止まる。夜叉媛の席から街中に入り、通りに沿った街路樹が見えた。いつもテレビで見ているような店が並んでいる。


 どうやら、誰かが乗ってきたようだ。夜叉媛は何気なく顔を上げる。

 乗ってきたのは二十代の青年一人のようだ。

 が、しかし……。

 彼の顔を見たとき、夜叉媛は戦慄に似た感覚を覚えた。


 あの男――。

 見覚えがある。

 そうだ、春臣と蛍見をした夜に、すれ違った男だったのだ。

ども、ヒロユキです。

またしても、話がぶつりと切れてしまいましたね。いやはや、申し訳ない。続きをなるべく早く書こうと思います。可及的速やかに、マッハで、やろうと思います。

まあ、それはさておき。

近頃のさつきさんは、すっかり赤面キャラの地位をこの作品の中で不動のものにしてしまいましたね。何だか出るたびに頬を染めるシーンを書いている印象があります。いやあ、当初のキャラクターの覚束なさから思えば、大きな進歩ですよ。ああ、うれしい。ここまで頑張って書いてきた甲斐があるってもんです。この先もどんどん目立って欲しいですね。

と、そんなことを思う今日この頃。これ以上書くとまただらだらしてしまうので、今回はこの辺りで。それではまた次回。ノシ

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