【第一章】第三部分
星降るような晴れた夜空。ここは満月で、ほの明るい公園である。大きなゾウの滑り台が目立っている他は何もない。
ひとりの女子が音もなく、現れた。
鍔のついたプリン型の黄色い帽子。半透明の黄色い半袖シャツ、白い3つボタン。背中に黒いRIGHTの文字。膝上30センチのミニスカートは月の明るさで光っており、富士山のような形状であることだけがわかる。小さなリボン付きの黄色い靴から伸びる白いニーソが可憐な足に映えている。よく見ると、腰にプリン型のポシェットを下げていて、そこに何かが入っているのがわかる。
「こんなところに出動命令とか、本当に面倒です。私は学校では生徒会の仕事がたくさんあるし、帰宅しても学業で一番の成績を残すために、たくさん勉強しないといけないんだから。それに加えてスケパンデカとか。有り得ないです。昼から行けって言われたけど、それは生徒会の仕事を理由に、拒否したんです。こんな仕事を昼間にするなんて、とてもできません。」
現れたのは、統堂学園生徒会長の柏村憂果莉である。
「やっとターゲットが来たようです。」
『ブオオオ~!』
公園の木の葉を大きく揺らす、ひどく不快な排気音。三台の大型バイクを降りる男たち。夜の10時頃だというのに、いずれもつり上がった黒いサングラスをかけている。髪型は、左右の男が黒いトンガリ、真ん中のリーダーらしき人物はモヒカンであり、サングラスを外さなくても凶悪な性格だと見て取れる。三人は白いつなぎを着ており、背中には左から『変』、『乱』、『役』と筆文字で書かれている。いずれも戦乱を表す漢字である。
モヒカンがエビス顔マークの缶ビールを片手に、大声を上げた。
「三種の塵犠のうち、カツアゲ、強盗は今日もクリアしたが、カンチンな、いや肝心なゴーカンが達成できなかったぜ。いいスケがいなかったしなあ。二勝一敗だから、まあいいか。とりあえず、ひと気のないところで、勝ち越しの祝杯をあげるぞ!」
「「おお~!!」」
残りのふたりも同調して、缶ビールを高く掲げて、グイグイと喉を鳴らしている。
「すごくキライな相手です。仕事なので、やるしかないですが、この明るさはイヤなので、ちょっと待ちます。」
男たちが酒盛りをやっているうちに、雲が流れてきて、満月を隠して、辺りはわずかに暗くなった。
少し肩を落としながら、三人との距離を詰めていく憂果莉。歩く音は三人の騒音にかき消されているが、姿を隠そうとはせず、堂々と進んでいく。
憂果莉は三人に近づき、右手で右の黒トンガリの後頭部をポカリとやった。
「いてえ。なにしやがる。」
三人が同時に生徒会長を見た。
「あなたたち。こんなところで、こんな時間に騒ぐなんて、騒乱罪で逮捕されます。」
「暗くてよく見えないが、オンナだな。俺たちにケンカ売るとはいい度胸じゃねえか。たっぷりお返しした上で、俺の予想ではブスと出てるが、予想が外れたなら可愛がってやろうじゃねえか。もっとも俺の予想は競馬並みに外れてるがな。ははは。」
モヒカンは袖をまくって殺る気満々である。
風がやや強いせいか、月にかかった雲はすぐに逃げて、月光が憂果莉のスカートを照らした。すると、憂果莉の両目が大きく開き、爛々と輝いた。
「脇のふたりはセーフ。脇のふたりは、外見上どの角度からも悪ですが、これで真の悪ではないんです。家庭環境か、友人が悪かったんでしょうか。成敗しないのがちょっと残念な気もします。リーダーが真の悪です。討伐対象です。」
三人は憂果莉の危険とも言える言葉よりも、光っているスカートに注目している。
「うほー!予想に反して、メガネっ娘じゃねえか。俺はこう見えてメガネ属性なんだよ。ぐへへへ。」
「全然自慢になりません。私のいちばんキライなタイプです。」
「いいねえ、いいねえ。それは俺への褒め言葉だぜえ。」
モヒカンは生徒会長の下半身を見て、目を丸くした。
「おっ、おおお~!純白じゃねえか!」
「「ホントだ!」」
三人は一斉に、憂果莉の一点に集中した。
「きゃああ~!」
慌ててプリン型スカートを押さえて、中身を見せまいとした憂果莉だが、透明なスカートからパンツを隠すことなど、到底ムリな話であり、ムダな抵抗であった。