【第一章】第二十二部分
「なんか、ムダになりそう。でもお人形がそういうなら悪の片鱗を探してみるわ。あれがターゲットの田中ね。」
ボランティア参加を装って近づく制服姿の凪河。
「こんにちは。お嬢ちゃん、ここのお手伝いかな?暑いから、これをどうぞ。」
「えっ。アタシに?」
田中の予想外な、にこやかな笑顔の挨拶に動揺する凪河。お茶のペットボトルと日傘をもらった。
「暑いので日傘、お茶。こんなのは当たり前よ。どうせアタシが困ったら、何もしないに決まってるわ。」
善だと思っていたターゲットをすでに悪人扱いしている凪河。親切にされたことがあまりない人間の取る思考経路である。
一旦田中のそばを離れて、周囲を注視しながら田舎町を歩く凪河は、公民館の入口前に置かれた木製台の上にある光沢を放つものに目が止まった。
「キレイな箱ね。源氏物語にでも出てきそうな古風な硯箱だわ。」
「それに触るな!」
田中が少し離れた場所から番犬のように吠え立てた。
「ほら、悪の本性が現れたわ。」
「それは漆の塗り立ての箱だよ。触ったら皮膚がかぶれてしまうんだ。若い女の子の手は、命の一つだろ。大事にしなきゃ。」
「余計なビッグヘルプよ!」
余計とビッグは同義語であり、ヘルプを強調した発言である。
「ちょっと、手を見せてごらん。」
田中は凪河に駆け寄って、両手を取り、モミモミしながら、しげしげと見つめた。
「セ、セクハラだわ!これはゼッタイにセク腹よ!」
凪河は田中の引き締まった腹を睨み付けた。田中の腹に悪意が詰まっているかの確認をしたが、そんな様子は見当たらなかった。腹黒い輩の腹には脂肪という悪意が詰まっているものである。事実、アニメに登場する悪役オヤジは、たいてい腹が出ている。
「あ、ゴメン、ゴメン。つい、心配になって。でも大丈夫だよ。漆はいっさいついてないから、かぶれることはない。ははは。」
「なんなのよ、この人。今のは到底セクハラには見えないし、このオッサン、本当に善人みたいね。」
(ナギナギがそう思うならば仕方ない。こういうボランティアの中に真の悪は集まるものじゃ。他を当たるとするか。ただ、真の悪を見つけるにはパンツを見せないといけないからのう。スケパンデカになって、この辺りをうろうろしてみるか?)
「いやよ、そんなの公然わいせつ物陳列罪になるじゃない。」
(そんなにわいせつか?上の方は全く問題ないぞ。)
「そんなことないわよ。超絶わいせつなんだから。ガバッ!」
制服の上を一気にはだけた凪河。純白でレースの刺繍入りのブラジャーがご開帳された。(ほほう。その意気で、スケパンデカになるんじゃな。)
凪河は我に返り、自分の現状を認識した。
「い、い、いや~!」
慌てて制服を元に戻した凪河。




