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【第一章】第二十部分

「あれれ。どうして俺の手を引っ張るんだ?うひょー!」

凪河がモンスターの手の爪を引いて、自分の服を切り裂いて喜ばせている。

「どうしてアタシ、こんなことしてるのかしら。やめたいけど、やめられないわ!」

モンスターの爪は凪河の服をどんどん切り裂いていく。

「へへへ、これはいいなあ。労せずして、ナイスじゃないバディの裸が観れるぜ。」

「ナイスじゃないって、何よ!ってそんな場合じゃないわ。不確定性の原理?不確定な性の原理、エロい原理じゃない!」

「いい響きだ。追い込まれた女子の弱音を隠すツッパリ、いいねえ。ぐへへへ。」

涎をたんまり流出させているモンスター。手足の筋肉が弛緩している。モンスターは凪河を舐めるように眺めながら、フラフラと不安定な動きをしていたところ、さっき溶かしたドロドロに足を滑らせて、ドカンと頭を床にぶつけてしまった。

「うわ~。目がいてえ~!」

モンスターはドロドロの薬物で目をやられた。

「ぬおおお!」

モンスターは、唸りながら爪を振り回すが、凪河には当たらない。さらに変に動いた結果、さっき開けた壁の穴にはまってしまった。

(今じゃ。『ジャッジメント』するんじゃ!)

「ジャッジメントって、いったい何をするの?」

(腰に下げたポシェットの中身を口にするんじゃ。)

「ポシェット?何これ?黄色の富士山形物体がプラスチックのケースに入っているわね。こ、これって、いわゆるフツーのプリンね?これを食べろって言うの?」

(そうじゃ。女の子にはもってこいのスイーツじゃろ。)

「あたしは、プリンが大キライなの!」

(どうしてプリンがキライなのか不思議じゃ。)

「キモイからよ。あんなプルプルしてキモイもの、この世に存在しないわ。子供の頃からプリンがキライなのよ。」

(それは困ったのう。それを食べないと、ジャッジメント能力が発揮できないんじゃが。)

「ジャッジメントなんてしなければいいんじゃない。」

(一旦モンスターになった者は、二度と人間には戻らんぞ。そいつをそのまま放置していいかどうかぐらいは初心者スケパンデカでもわかるじゃろう。)

「う。そ、それは。」

言葉に詰まってしまった凪河は、極貧な石川啄木のように、じっと手を見ている。やがて働くことを決意した凪河は、プリンを無理やりに口に運んだ。

「うげ!不味いわ!ゲーゲー。」

口内投入物を体外に押し出そうとする圧力に翻弄される凪河。

(それを出してはならんぞ!プリンは体内に摂取して初めて力を発揮するんじゃからな。)

体外排出圧力に抗う、つまり、戻してわずかに咀嚼するという牛的な活動下の凪河。

(ほれほれ、一気に嚥下するんじゃ、爆弾投下じゃ!)

『ゴクリンコ!』

(いい喉ごしじゃ。今じゃ、ナギナギよ。嘔吐物の中心でジャッジメントと叫べ!)

「何、その死刑フラグは!ままよ、ジャッジメント!」

結局、ジャッジメントして医者モンスターはいなくなった。

「モンスターは消滅したの?」

(いや、魔界に落ちたんじゃ。真の悪が魔界にいったということで、『悪魔』と言うんじゃ。)

「まあ、悪魔なら仕方ないわね。でもあのお医者さん、モンスターにならなければ悪くもなんともないわよ。第一、何一つ罪を犯してないわよ。それで断罪なんかしていいの?」

(さあ、どうかな。これから何か事件を起こすかもしれないぞ。起こさない可能性の方がはるかに高いがな。無実無罪の人間を悪魔にして魔界に落とすのが日常となる。それでもジャッジメントするのがスケパンデカの宿命なのじゃ。)

「アタシの家業は義賊ゆりキュアよ。法律で裁けない悪を倒すのよ。スケパンデカは正反対の生業じゃない。」

(そうでもないぞ。まだ悪でない者を裁く、つまり悪でないという点は同じじゃ。)

「違うわよ!仮に心が悪だとしても、罪を実行しなければ罰することないわ。刑法は悪事を起こそうとする者に、それを防止するためにあるんだから。」

(それではあまりに緩くないか。犯罪は起こしてしまってからでは遅いんじゃ。まあよい。あとはこれからの職務遂行の中で考えることじゃ。一度ジャッジメントしたからには、立ち戻ることはできんからのう。)


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