【第一章】第十六部分
(これでワシの手足が一枚増えたわ。ワハハハ。)
(よし。これで、鍵の手がかりを得ることができるわ。生徒会長が犯人じゃなければ、この人形も怪しいし。ジャッジメントなんかより、犯人探しよ!あーはははっ。)
人形と凪河の思惑は完全にすれ違っていたが、笑い声は共鳴していた。
「ミッションの連絡はメールするとのことだったんだけど、早速来たわね。」
採用面接の翌日の放課後。制服姿の凪河はスマホを見ながら、街の方へ歩いていく。
『町田内科クリニック』という小さな医院の看板が見えてきた。
「お医者さんだわ。どうしてここに真の悪がいるのかしら。お医者さんにかかるなら、診察してもらうしかないわね。別に悪いところゼロだけど。とりあえず風邪ひいたっぽいということで、受診するわ。」
六畳ぐらいの受付兼待合室で、長い安物の緑色ソファーに座って、診察室の様子を窺う凪河。
ドアの締め方が不十分で、わずかに開いた隙間から診察室の中が見えた。そこには、二十代の整った髪のOLらしき女性と五十代の真面目そうな医者がいた。医者は黒縁のメガネをかけて、白髪混じりの頭にシワのない白衣で、白いシャツの胸元を開いた女性に落ち着いた表情で聴診器を当てている。
「あの医者、至って普通ね。女の人の胸に聴診器を当てるのに、表情ひとつ変えてないわ。さすがにお医者さんね。患者を意思のない物体と見てるわ。」
医者を誉めてるのか、けなしてるのかわからない評価をする凪河。
「猫柳さん、診察室へどうぞ。」
受付の中年女性に呼ばれて、凪河は診察室に入る。
「えっ、やだ。アタシ、お医者さんに犯されるんじゃ?たとえ、お医者さんがまともだとしても、超絶魅力的なアタシのボディーに、特に胸とか、胸とか、胸とかを診察しちゃったら、アドレナリンが噴出されて、野獣になること、請け合いよ!ぶるぶる。」
ほとんど起伏のない胸を押さえて、孤独なウサギのようになっている凪河。
医者はそんな凪河を気遣ってか、優しく声をかけた。
「今日はどうされましたか。」
「あっ、あの、か、風邪をひいたみたいて、ちょっと熱っぽいような、熱に冒されたような、火炎放射器で焼かれたような感じなんです。」
もはや絶命していてもおかしくない病状説明の凪河。
「それは大変ですね。でも体温計では平熱のようですが。」
待合室にいる間に熱を測るのはごくフツーのことである。
「そ、そうですか。でもあたしのテスト成績は大炎上してるんですが。」




